第2話 潜在能力
「転生か……まさかそんな夢物語を俺が体験する事になるなんてな」
体を動かす。
先程殴られたダメージがあるため少々ふらつくが、ちゃんと体は動いた。
今感じている痛みも、俺が生きている証拠と言って良いだろう。
「しかもヒーラーか……《《大当たりじゃねぇか》》」
聖騎士として強さを極めた俺だが、結局仲間の裏切りで死ぬ事になった。
何故か?
裏切られたから?
違う。
俺が弱かったからだ。
裏切る気になれない程の圧倒的な力があれば、あいつらだってあんな真似はしなかったはずである。
古代の魔人との戦いで疲労していたとはいえ、背後から呪いの剣で刺された程度でやられる程度の弱さだったから、俺は死んだのだ。
なので、全ては己の無力ゆえである。
だから転生し、ヒーラーになれた事は行幸だった。
何故なら、ヒーラーならば聖騎士時代よりも強くなれるからだ。
ヒーラーは一般的に、一部の恵まれた環境にいる者や、特殊なクラスだったりユニークスキル持ち以外は不遇である事は間違いない。
それは転生前からそうだった。
そして俺のクラスは一般ヒーラーであり、また、ユニークスキルもない。
だが、それでも俺はハッキリと宣言する。
ヒーラーこそ。
そう、ヒーラーこそ。
最強ハンターだったかつての俺を越え、更なる高みへと引き上げる事の出来る最適クラスであると。
―—何故なら俺には、ヒールブーストがあるからだ。
特殊な物を除けば、一般的な回復魔法の原理は、生命の根源、肉体の潜在能力を引き出し劇的な回復速度を引き出すという物だ。
かつてヒールの使えた聖騎士だった俺は、更なる高みに登るため、このヒールの仕様に目を付けた。
そう、肉体の潜在能力を引き出すというその効果にである。
「聖騎士のヒールは効果が弱かった。そのせいで、秘めた潜在能力をすべて引き出せなかったからな」
更に言うなら、潜在能力を引き出して戦うというそのスタイルは、身体へのダメージの蓄積が著しい。
体に無理を強いている状態なのだから当たり前である。
しかもそのダメージは、戦闘中に回復させるのが難しかった。
通常のヒールの効果は、潜在能力を引きだす事に使っているためだ。
なのでダメージを回復しようとすると、ヒールブーストを一旦止める必要があった。
訳だが……戦闘中にブーストを止めるのは、とんでもなくリスクの高い行動だ。
強敵であればある程、それは顕著となる。
なので、俺はダメージの蓄積を無視して戦うのが常だった。
そのため、聖騎士は頑丈なクラスではあったが、長期戦を強いられればそのパフォーマンスは目に見えて下がる事に。
だからこそ、あんなふうに仲間に隙をつかれてしまった訳だ。
あの時点で消耗しまくっていたからな。
それに比べ、ヒーラーは体の頑丈部分で大きく劣る物の、そのヒール効果は圧倒的だ。
当然、ヒールの効果が大きければ大きい程、引き出せる潜在能力は大きくなる。
更に高レベルになれば、通常のヒールとは違う系列の回復魔法に加え――ブーストしながら回復が可能になる――潜在能力の源たる生命力を増幅する、回復効果倍増の魔法なんかも習得できた。
これらは、肉体の弱さを補って余りある効果をもたらしてくれる事だろう。
つまり……ヒーラーは最強!
という訳である。
そんな事が出来るなら、何故ヒーラーは不遇なのか?
答えは簡単だ。
ヒールブーストは、肉体の中にある生命力という形のない物ををコントロールする技術であり、並の人間ではこれを成しえないからである。
俺は超がつくレベルの天才だったが、そんな俺ですら、習得するのには10年もかかった訳だからな。
なので、並みの凡骨共では、この能力の取得は不可能に近いと言って良いだろう。
因みに、俺はこの技術を隠さずオープンにしてるぞ。
そのため、やり方は簡単に学べる。
図書館とかで。
だがそれでもなお、死後20年も経ってそれが世間一般に浸透してないって事は、俺以外に真面に習得できる奴がいなかったって事の表れだ。
「さて……まずは体を鍛えんとな」
多くのハンターは、肉体の鍛錬よりレベル上げに重きを置く。
訓練で得られる効果は微々たるもので、それに比べて、レベルアップによる強化の恩恵がずば抜けて大きいからだ。
そのため、凡骨ハンター共は基礎作りを疎かにする。
そしてだからこそ、レベル辺りの魔物の強さについて行けなくなり、レベル50も過ぎるとひたすら格下狩りに逃げる事になるのだ。
当然、そんな真似をしていたのではレベルは全く上がらない。
疎かな話である。
それに比べ優秀な奴らは鍛錬を欠かさない。
知っているからだ。
より高みに登るためには、地味な鍛錬が必要だって事を。
だから上を目指すなら鍛錬は必要なのだ。
ましてや、ヒールブーストで潜在能力を引き出せる俺なら猶更である。
人としての基礎的強さこそ、俺の強さの根幹なのだから。
「にしても……ひ弱すぎだろう」
転生後の体は余りにも弱い。
弱すぎる。
ここまで弱いと、とてもじゃないが魔物とは戦えない。
なので暫くはレベル上げを諦め、本格的に鍛錬をする必要がある。
まずは体を鍛えて最低限の力をつけ。
そこから魔物を狩りつつ、更に鍛錬を続ける。
そうやって一歩一歩階段をのぼって行こう。
―—最強へと至るために。
「そう、俺は最強へと至る。前世の様に、後ろから刺されて間抜けに死ぬような中途半端な強さではなく、圧倒的な最強へと」
ああ、そうそう。
俺を裏切った奴らにもちゃんと報復しないとな。
死んだのは俺の弱さゆえではあるが、それと裏切って殺した奴を見逃す事は全くの別問題だ。
なので、強くなる過程でちゃちゃっと始末することにしよう。




