第1話 俺
―—英雄歴20年。
「へっ、どうした?ほら、早く一発入れて見ろよ」
「くっ……」
メルゴに殴り倒され、僕は膝をつく。
手も足も出ない。
やっぱり、駄目なのか……
僕の名はジーク・ガイア。
ヒーラークラスに覚醒したばかりのハンターである。
―—今僕は、メルゴとの勝負の真っ最中だった。
「まだだ……」
僕は自分に回復魔法をかけ、そして立ち上がる。
「やぁ!」
そして手にしたロッドで、戦士クラスであるメルゴに殴りかかった。
だが――
「おせえんだよ」
それはあっさりと躱され、お返しとばかりに彼の拳を顔面に叩き込まれてしまう。
「ぐぅ……」
僕は吹き飛ばされ、地面に尻もちをつく。
くそっ、一発入れなきゃダメなのに……
僕はメルゴと賭けをしていた。
それは僕が彼と戦って、もし一発でも入れれたなら、メルゴのパーティーにいれて貰えるという賭けだ。
「ヒーラーなんて所詮こんなもんだ」
「俺達と組もうなんて厚かましいんだよ」
「テメーは一人でスライムでも狩ってろよ」
尻もちをつき、立ち上がれない僕をメルゴ達が嘲笑する。
所詮ヒーラーじゃ、戦士には逆立ちしたって敵いやしない。
それでも、一発ぐらいなら入れられるんじゃないか?
そう願って乗った賭けだったけど、結果はこの通りだ。
手も足も出ず、一方的に殴られて終わり。
もうダメージを回復するだけのMPも残っていない。
「終わりか?じゃあな。ま、精々身の丈に合った生き方しろよ。外れクラス、ヒーラーさんよぉ」
―—ヒーラーは、一般的にハズレクラスと言われていた。
回復に特化したクラスだが、その回復力を必要とする状況が極端に少ないためだ。
高レベル帯のダンジョンでは必須に近い存在らしいけど、魔物を狩って生計を立てる一般的なハンターは、安全面を考慮して簡単に狩れる魔物としか戦わない。
だから大きな怪我をすること自体稀で、また、ちょっとした怪我程度ならポーションの類やクラスに寄らない回復魔法で間に合ってしまう。
そのため、一般的なパーティーにヒーラーが入り込む隙がなかった。
しかも非力なヒーラーは、単独で魔物を倒すのが難しい。
パーティーに入れず。
魔物を狩る力もない。
そんな袋小路みたいな状態で腐って行くクラス。
それがハズレクラスと言われるヒーラーだ。
高レベルダンジョンに挑むハンターとなら、パーティーが組めるんじゃないか?
無理だよ。
高レベル帯に挑む様なパーティーは極端に少ない。
だから需要自体が少ないんだ。
それに、そのレベル帯までどうやって上げるというのか?
今現在、そういったパーティーに入っているヒーラーは、何らかの支援を受けてレベルを上げた人達だ。
ソロで頑張って高レベル帯まで上げて、それからパーティーに拾って貰うなど夢のまた夢である。
例外としては、審査を通ってあそこに入る事だけど……
けどあの教育機関に入るには、最低条件がユニークスキル所持だ。
僕はそんな物を持っていない。
だから、自力で上げるしかないのである。
「母さんのために、レベルを上げないといけないのに……」
僕には、レベルを上げなければならい理由があった。
ヒーラーがレベル200で覚え、人生に一度だけ使える奇跡の祝福を習得するために。
僕の母は不治の病にかかっている。
石化症という病気で、それは体が少しづつ石化していき、最後には完全に石なってしまうという恐ろしい病気だ。
通常の治療方はなく。
それを患った人間は、例外なく20年ほどで死に至る病。
そしてその病気の唯一の治療方法が、奇跡の祝福である。
高レベルヒーラーが極端に少なく。
しかも使えても一回限り。
そんな条件の治療を、貧しい一般人が受けられるはずもない。
だから母さんを治療するには、僕自身がレベルを上げるしかないんだ。
けど……
「くそっ……」
僕は地面に拳を叩き込む。
パーティーが組めなければ話にならない。
母さんが石化症になったのは5年前のだ。
残された時間は15年しかない。
一見、まだ結構な期間がある様に思うかもしれないけど、レベル上げには時間がかかる。
あの世界を救った天才の六英雄達だって、レベル200まで上げるのに軽く10年はかかったと聞く。
ヒーラーでユニークスキルを持たない凡人の僕が、レベルを200まで上げるには確実にそれ以上の時間がかかるはずだ。
正直、一緒に戦ってくれるパーティーを見つけれても、15年で上げれるかは怪しいと言わざるを得ない。
けど、諦められないんだ。
だから、可能性が限りなく0に近くたって……
「こんな所でうじうじしてる場合じゃない」
ふらつく体を鞭打ち、僕は頑張って起き上がった。
時間は限られている。
とにかく、今できる事を少しづつでもやっていかないと。
「僕は諦めない。レベルを上げて絶対母さんを――」
自らの決意を口にしようとしたその時、雷で撃たれたかのような衝撃が僕に走る。
「あ、ああ……」
それは記憶の洪水ともいうべきものだった。
僕の頭の中に、ある一人の男の人生が一気に流れ込んでくる。
その全てを受け止めた時、僕は気づく。
そう、その男の記憶は、前世の《《俺》》の記憶である事を。




