第15話 君老けてるね
「噛んだ!?」
男の剣を抑えている状態で、真正面から顔面に向かってメスティアの鞭が飛んで来た。
俺はそれを口を使って噛みとめる。
「ふんっ!」
左手で掴んだ刃を勢いよく引いて男を引き寄せ、膝蹴りを叩き込む。
同時に、柄で押さえていた剣を弾いて分身の方の首を跳ね飛ばした。
最後は噛んでいた鞭を左手で掴んで引っ張り――
「きゃあ!?ぎゃっ!!」
―—メスティアの顔面に剣の柄を叩き込む。
「お嬢様!」
「メスティア様!」
ポーションでダメージを回復させたのだろう。
怪我を負わせた三人が、血相を変えて吹っ飛んだメスティアへと駆け寄る。
「お、お嬢様……」
腹を蹴り飛ばした男も、ふらつきながら立ち上がってメスティアの元へ。
「さて……まだ続けるか?」
「よくも……私の顔を……」
鼻から盛大に血を垂れ流しているメスティアが、俺を涙目で睨みつけて来る。
実力差を見せつけたが、心は折れていない様だ。
こういう奴は強くなる可能性があるから嫌いじゃない。
「その様子だとまだやる気みたいだな」
とは言え……相手が続ける気だというなら徹底的に叩き潰すだけだ。
「ま、まて!」
俺が近づくと分身男が血相を変える。
「この方は六英雄バルゴ・バルター様の御息女だ。害すればバルゴ様がお前を許さんぞ」
バルゴの娘だと?
この女がか?
バルゴ・バルターは、かつて共に戦った仲間の一人だ。
今現在は、六英雄なんて御大層な肩書で呼ばれてる訳だが。
「メロウス!」
メスティアが分身男——メロウスを怒鳴りつけた。
まるで余計な事を言うなと言わんばかりに。
「お嬢様お許しください。ですが……」
このやり取りを見る感じ、本当にバルゴの娘っぽく感じるが……年齢的に少し無理がある気がする。
当時の奴に子供はいなかったし、それどころか結婚すらしていなかった。
俺の死後21年なので、あの後娘を最速で作っても20歳程だ。
だがメスティアは20後半……いや、化粧が濃いめだから老けて見えるだけで、実際はそれ位の年齢なのかもしれない。
「バルゴ・バルターの娘か」
「そうだ。だからこれ以上の手出しをすれば、お前は後悔する事になる」
メロウスが、メスティアを庇う様に俺との間に立ちはだかる。
こいつに関しては魅惑で虜にされてるって感じはしないので、純粋な忠誠心か何かなのだろうな。
「ふむ……」
バルゴはいずれ俺の手で殺す予定だ。
だが、今の俺じゃそれを実行するのは難しい。
もう少しレベルを上げんと。
なので、今バルゴと事を構えるのは宜しくない。
殺してしまえばバレない?
いやバレるさ。
ダンジョンに入る前に、人目のある所でメスティアと関わってしまってるからな。
その後娘が行方不明になったとなれば、真っ先に俺が容疑者に上がるはずだ。
そして仮にも英雄として権力を握っているのだから、直ぐに俺の素性まで辿り着く事だろう。
それにだいたい、俺はメスティアを殺す気はないからな。
因縁を吹っ掛けて来た相手ではあるが、殺意は全く感じなかった。
殺そうとして来る相手は容赦なく殺すけど、そうじゃないなら無駄な殺生はしない。
戦うのは大好きだが、ちゃんとその辺りは線を引いてるさ。
特に恨みもないし。
バルゴを恨んでるのなら、その娘も憎いのではないか?
いや別に。
バルゴを殺すのは単純に借りを返すためであって、恨みつらみからって訳ではない。
ましてやその娘とか、憎む理由など皆無である。
「なんでそんな奴が俺に喧嘩を吹っ掛けて来たんだ?」
取りあえず、英雄の娘の癖になんで名もなき今の俺に絡んで来たのか。
それが気になったので俺は剣をしまい尋ねた。
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