いやそっちがボケなんかい!
本日の内容には自作の漫才を入れてみました。おもしろいなら嬉しいです。
6時間目になった。
とうとう始まる、あの二人の漫才が――。
「ねぇ、北川さん。あの二人ってどんな感じなの……?」
気になりすぎて、隣の席の北川さんに思い切って聞いてみた。
「あいつら? めっちゃおもしろいで! 丈瑠がツッコミで、琉弥がボケやねん」
「えっ!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「桐生くんがボケじゃないの!?」
「そうなんよな~! 普通、琉弥がツッコミやと思うやん? でもな、丈瑠が長いセリフ覚えられへんらしいんよ」
「あ、なるほど……」
思わず納得してしまったけれど、あのコワモテで口の悪い桐生くんがボケるなんて、気になりすぎる。
「おっ、始まるで!」
「期待してるぞー!」
みんなの期待が最高潮に高まる中、教壇の前へ軽快な出囃子(手拍子)と共に二人が入ってきた。
「はいどうもー! ぽぴゅめんです! お願いしますー!」
丈瑠くんが爽やかに手を振ると、隣の桐生くんはポケットに手を突っ込んだまま不敵にニヤッと笑っている。
「いや今回、交流会じゃないですか。だから僕のこと知ってもらうために、好きな昔話を教えようかと思って」
「誰が自己紹介でそんなん言い始めんねん!」
さっそく丈瑠くんのツッコミが飛び、教室からドッと笑いが起きる。
「僕が好きなのは、おばあちゃんがよくしてくれた、お母さんのお父さんの子供の頃の話ですね」
「昔話ってそういうことちゃうねん!」
「じゃあお前、好きな昔話なによ」
「俺は桃太郎が好きなんですよね」
「あー、桃太郎はあかんわ」
「なんで! 桃太郎はみんな知ってるしいいじゃないですか!」
「いや、もう時代にあってないんですよ。もっとコンプライアンスに配慮しないと」
桐生くんが真顔で言い放つと、丈瑠くんが呆れたように腕を組んだ。
「じゃあどこがあかんかをゆってみてや」
「いいよ。……『昔々あるところに』、まずここよ」
「どこやねん!」
「そもそもな、『昔々』とか昔話でしか聞かへんやろ」
「まあ、そうやな」
「だからこうした方がいいと思うねん」
急に雰囲気をガラリと変え、桐生くんが怖い話風の低い声を出した。
「……これは私の友達から聞いた話なのですが……」
「いや怖い話か!! これからどんな話になるか不安になってくるやろ!」
「ちゃんと聞けよ。『おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました』。次にここよ」
「何が?」
「これ私有地の山に勝手に入ったらな、不法侵入とか窃盗とかの罪に問われるねん」
「誰が昔話でそんなこと気にするねん!」
「これはコンプライアンスに配慮してるから。ええんか、これ聞いた子たちが山に芝刈りに行き始めても」
「わかった! あの芝刈りとか洗濯とかしてる山は、おじいさんたちの私有地やから!」
「それやったらええわ。その代わりテロップ入れよ。『この山はおじいさんたちの私有地なので不法侵入ではありません』って」
「やめろや!! ファンタジーな話から急に現実に戻されるやろ!」
教室中の笑い声がどんどん大きくなっていく。桐生くんの顔は至って大真面目だ。
「でな、次や。川上から大きな桃が流れてくるじゃないですか。流れてきてるってことはどういうことかわかります?」
「どういうことよ?」
「あれ不法投棄ですよ」
「そんなんちゃうって! あれは育ててた桃が流れていってんって!」
「じゃあお前、普通に育てた桃であんなに大きくなるの見たことあんの?」
「そりゃないけどな……」
「ってことはあれは、自分でがんばって大きく育てた桃を不法投棄したんですよ。こんなんあかんやろ!」
「誰が不法投棄すんねん!」
「おばあさんは『これはいいおみやげになるわ』といい、大きな桃を拾い上げて家に持ち帰りました。……ここも問題あるやろ」
「何がやねん!」
「誰かのものかもしれない桃を勝手に拾って勝手に持って帰ってるんですよ。これはもうただの犯罪者ですよ」
「お前おじいさんとおばあさんののこと悪く言い過ぎやろ」
「川上から桃が流れてくることと、桃を勝手に持って帰ってること……これをきちんとするなら『ご自由にお取りください』って書いた桃を箱に入れておくってことやな」
「そんなもんやらんでいいわ! ファンタジーどこ行ってん!」
「あかんやろ、子供が流れてきたもの勝手に拾うようになったら!」
「そうやけどな……」
「っで、こっから桃太郎が生まれてくるんですけどね。切った後の桃ほったらかしじゃないですか。だからこれにもテロップ入れよ」
「またやるんか!」
「『後でスタッフがおいしくいただきました』って」
「だから現実的な話をするなつってんねん!」
「食べ物粗末にしたらあかんやろ!!」
「そうやな! わかりました!」
(桐生くんの屁理屈がすごすぎる……!!)
わたしはお腹を抱えて笑いながら、教壇の二人に見入っていた。
「それでこの後、元気に育って鬼を退治するために鬼ヶ島に向かうんですよね」
「そこでおじいさんたちが、きびだんごくれるんよな」
「ここまではいいと思うんですよ。ただこの後、犬・猿・キジを仲間にするじゃないですか。そこで桃太郎がきびだんごあげてしまうんですよね」
「なにがあかんねん」
「これみなさん冷静に考えてみてほしいんですけどね。みなさんペット飼ってたりするじゃないですか」
客席(教室)を見渡す桐生くん。
「そのペットにだんごなんかあげたらどうなると思います? そうですね、喉につまらせてしまいますよね。こんなことしたら動物愛護団体に訴えられんぞ!」
「じゃあどうしたらいいねん!」
「だから桃太郎にいろんな餌持たせとこ」
「嫌やろ! 餌の数増やして仲間増やしようとする姑息なヒーロー!」
「しょうがないやろ、訴えられんねんから! で、ここからクライマックスで桃太郎たちが鬼ヶ島に乗り込んで行くんですけど、あれ勝手に入っていってるじゃないですか」
「まあ、そうやな」
「だから一回インターホン鳴らしとこ」
「どこ礼儀正しくしてんねん!」
「ええやろ、そのほうが教育にもなるんやから。……問題はそこだけじゃないんですよ。鬼懲らしめるのって暴力じゃないですか。今の時代そんなんしてたら炎上するで」
「考えすぎやって!」
「武力じゃなくて言論にしよ」
「板垣退助か! これが伝わらない人は勉強してください」
「でも話し合いじゃ盛り上がらんから、ラップバトルとかにしよか」
「急にラップ始まるとかおかしいやろ!」
「いいやんけ。『♪あなたたちの行為~ 迷惑してます~ だからやめてや~ それが望み~』みたいな感じでやったら」
「下手やな! そんなんでわざわざラップバトル仕掛けるなよ!」
「じゃあ次、鬼のターンや。『♪俺達は鬼~ ここは鬼の国~ だから聞くのは無理~ それが俺の論理~』」
「桃太郎ぼろ負けやんけ!!」
大爆笑が巻き起こり、床を叩いて笑う男子まで出てきた。
「いいやんけ、ちょうど鬼ヶ島に観客もおって盛り上がるし」
「犬・猿・キジを観客って言うなよ!」
「桃太郎って鬼懲らしめたら、もう鬼との関わり終わって幸せに過ごすやん」
「そうやったな」
「だから鬼だけ仲間ハズレになってしまってんねん」
「そう言われたらそうやな」
「だから終わりはこうしよ。『そうして鬼と和解した桃太郎たちは、定期的にラップバトルをして楽しみました』って」
「そんなんしたら村が渋谷みたいになるやろ!! もうええわ!」
「どうも、ありがとうございましたー!」
二人が深くおじぎをすると、教室全体を揺らすほどの拍手と歓声が上がった。
「キャー! 琉弥ー! 丈瑠ー!」
「クオリティ高すぎるやろ!!」
「最高!!」
(……なにこれ、すごすぎる……!!)
教壇の上で、照れくさそうに頭をガシガシ掻く桐生くん。
怖くて近寄りがたかった印象はどこへやら、そこにはクラス中を笑顔で包み込む、最高のエンターテイナーが立っていた。




