最強MC爆誕!!
「本日のホームルームですが、桐生くんからの提案があり一ノ瀬さんの交流会をすることに決定しました。ただし時間は本日しか取れないので、5時間目でやることを決めて6時間目で遊びましょう」
担任の先生の声に、すかさず丈瑠くんが挙手した。
「えー! 先生、琉弥が『ホームルームやることなくて暇だ』って言ってましたよ! そんな1時間だけだなんて~」
「桐生くん、余計なことは伝えなくていいんですよ」
「あれ?俺伝言ゲーム失敗しましたか?」
クラスでちょっとした笑いが起こったあと呆れた顔の先生が話を進めた。
「まぁとにかく時間もないし早く決めましょうか。……ここからは学級委員に任せましょう。提案もしてくれましたしね」
そう言って先生に指指されたのは――なんと桐生くんだった。
(えっ……桐生くんが学級委員なの!?)
朝からビビり散らかしていた相手がクラスのリーダーだと知り、わたしが驚いている間にも、桐生くんは黒板の前に立った。
「……ハァ、しゃーなしやで。ほな、さっさと決めるぞ。なんかやりたい奴、手挙げろ」
「はいはい!」
指名しようとする桐生くんの横で、丈瑠くんが元気よく手を挙げる。
「お前やかましいから最後にするわ」
「おいなんでやねん!」
丈瑠くんを一瞬で切り捨て、桐生くんは他の席に目を向けた。
「はい、次。何やりたい?」
「メイド喫茶!」
「あほか! 文化祭やないんぞ!」
「えー、そういえば琉弥のメイド服見てみたいかも~」
「ウチも見たいー!」
女子たちの悪ノリに、桐生くんは眉間にシワを寄せて吐き捨てる。
「お前らうっさい! また今度着たるから今は何するか考えろ!」
(いや『また今度着たる』って言った!? スルーしそうになったけど着てくれるの!?)
思わず心の中でツッコんでしまった。
当の桐生くんはまったく気にせず、次々とクラスの声をさばいていく。
「はい、お前!」
「ドッジボール!」
「小学生にでも混ざってやっとけ!」
「ほんまにお前らまともな案ないな……!」
呆れ顔で溜息をつく桐生くん。
口は悪いけれど、クラス全員を完璧に仕切っている姿はまさに絶対的MCだ。
……と、一通りクラスのボケを打ち落とした桐生くんが、ふいに黒板の前からわたしの方を睨んできた。
「ほんまにしゃーないな……。おい一ノ瀬柚葉」
「えっ、わ、わたし!?」
いきなりフルネームで呼ばれて背筋が伸びる。
「お前のための交流会なんやから、黙ってんと親分みたいにどかっと座ってんと、なんかやりたいこと言えよ」
(親分みたいに座ってないよ!!)
心の中で叫びつつも、急にスポットライトが当たって焦るわたし。
(どうしよう……! みんなに嫌われないように、嫌な思いをさせないことを考えないと……)
「どうした?」
「えっと……」
(やばい、何も思いつかない……!)
「……はぁ」
目の前で、桐生くんが小さくため息をついた。
(うわ、ため息つかれた……! もしかして、本当に嫌われちゃった……!?)
半泣きになりそうになっていると、桐生くんは頭をガシガシと掻きながら、呆れたように、でもどこか柔らかい声で言った。
「あのさ。……これはお前のためのもんなんやからさ。そりゃ、お前がやりたいこと言えばいいだけやろ」
「え……?」
「何考えてるんかは知らんけどさ。とりあえず、自分がやってみたいこと言ってみてから考えりゃ、それでええねん」
(……桐生くん……)
まさか、朝から怖がっていた桐生くんが、こんな風に寄り添って背中を押してくれるなんて思ってもいなかった。
胸の奥がじんわりと温かくなる。わたしの『やりたいこと』……。
「じゃあ……! みんなのこともっと知りたいので、特技披露の会みたいなことをやってほしいです!」
恐る恐る、教室中の様子を伺ってみる。
すると、クラスの女子がパッと顔を輝かせた。
「あー、特技披露か! そりゃええな!」
「そうや、琉弥と丈瑠、いつもみたいに漫才やれよ!」
「ほんまやそれいいやん! またやってや!」
(よかった……! みんな喜んでくれたみたい……!)
ホッと胸を撫でおろす。……でも、ん? 漫才……?
(あの桐生くんが漫才……!? 全然想像がつかないんだけど……!)
戸惑うわたしをよそに、桐生くんは腕を組んでフッと鼻で笑った。
「お前らなぁ、急に言われてそんなもんすぐできるわけないやろ」
一瞬クラスの残念そうな声が広がった。
「……普通の人やったらな?」
予想外の一言が再びクラスを歓声の渦に巻き込む。
「おっ、ということは!?」
クラス中が期待の眼差しを向ける中、桐生くんはニッと不敵に口角を上げた。
「ええよ、やったろやないか。……いいよな、丈瑠?」
「おう! 任せとけ!」
教室中から「よっ! 待ってました!」「よっ! 名コンビ!」と歓声と拍手が巻き起こる。
(この二人の漫才って、一体どんな感じなんだろう……?)
さっきまでの不安はどこへやら、わたしは期待に胸を躍らせながら、教壇に立つ二人を見つめていた。




