派手な男
立ち寄っていただきありがとうございます!
この度、3,000PVを達成いたしました!
たくさんの方に読んでいただき、心より感謝いたします。
本当にありがとうございます!
物語もいよいよラストスパート。
ここまで読んでくださった皆さんと一緒に、最後まで走り抜けたいと思います!
ブックマーク・評価・感想をいただけると、とても励みになります。
ぜひ最後までお付き合いください!
夜空の暗がりを切り裂くように、車は静かに流れていた。
死んだことになっている久城を、この町でうろつかせるわけにはいかない。隣町まで連れ出し、待機させておいたのは正解だった。
助手席から、ズル、と小さく鼻を啜る音が聞こえる。
山を下りてからずいぶん時間が経つというのに、さっきまでの死線の緊張が、まだ彼の身体から抜けきっていないらしい。
俺は視線をフロントガラスに向けたまま、静かに声をかけた。
「……落ち着きましたか?」
「はい……」
少しの間のあと、久城が消え入りそうな声で呟いた。
「宮野さんは……やっぱり凄いっすね」
「あの状況、結構ギリギリでしたよ」
淡々と答える。なんでこいつは、そこまで俺を持ち上げるんだ。俺が凄いのじゃない。相手が単純だったから、口で丸め込めただけに過ぎない。
「俺一人だったら、何もできませんでした」
「……」
二人とも単純だからな、と心の中で吐き捨てる。
俺は追及を打ち切るように黙り込み、流れる夜の景色へと意識を戻した。街灯が一定のリズムで流れては消え、その隙間に覗く漆黒の空には、冷ややかな星々が幾つも浮かんでいた。
「事件が終わるまで、俺の知り合いに匿ってもらってください」
返事はない。横目で確認すると、久城は膝の上で固く拳を握りしめ、俯いていた。山を下りてからずっとそうだ。握っては開き、また固く握りしめる指先が、かすかに震えている。
「久城さん」
「……はい」
「この件が全部終わってから、戻ってきてください」
久城はしばらく口を結んでいたが、やがて弾かれたように顔を上げた。その瞳には、血の気が引いた顔に不釣り合いなほどの必死さが宿っていた。
「だったら……宮野さんはどうなるんですか!」
小さな、けれど悲鳴に近い声だった。
「私はそのまま残って、これを片付けます」
海馬という極上の餌が、すぐ目の前にぶら下がっているのだ。ここで引き下がるなんて選択肢は、俺の辞書には存在しない。
「だ、ダメです……!」
久城はすがりつくように俺を見つめた。
「今野さんみたいに……もし、宮野さんまでそうなったら……っ」
なるほど、そういうことか。
俺は遠くに見える街明かりの群れをあたたかくも冷たくもない目で見つめ、静かに言葉を重ねた。
「久城さんが想像しているような惨劇にはなりませんよ」
「でも……!」
「なんせ、この勝負は私が勝ちますから」
ゲームと同じだ。海馬がどんな手を出してこようと、結果は俺の勝ちで決まっている。仮に石井がしくじったところで、裏で俺の仲間がいくらでも根回しをする。俺がここで負ける要素なんて、一つとして存在しない。
だから――お前が心配する必要など、何一つないのだ。
「それより、もう着きます。金や宿の心配は要りません。私の友人が、全て手配してあります」
「……友人、ですか?」
「場所は東京です。ここからはかなりの距離があります
が……まあ、観光にでも行くつもりでいてください」
そのための資金も、すでに口座へ振り込み済みだ。
「でも、俺は……」
「それでもあの町に残ると仰るなら、その意志は尊重しますが」
俺は車を減速させながら、久城を正面から見据えた。
「――戻れるんですか?」
久城が言葉を詰まらせる。
「今日、あなたは死にかけた。目の前で上司を殺されたんだ」
山を下りてからずっと隠しきれていないその手の震えが、全てを物語っている。ここまで離れれば少しは落ち着くかと思ったが、恐怖の根は想像以上に深いらしい。
「……」
久城は再び深く俯き、二度と口を開かなかった。それが、彼の出せる唯一の答えだった。
「では、向かいますよ」
ハザードランプを点滅させ、待ち合わせ場所の駅前ロータリーに車を滑り込ませる。
男はすぐに見つかった。どれほど人が行き交っていようと、あれを見失う方が難しい。
高い背丈に、季節外れのハワイアンシャツと腰履きの短パン、足元はサンダル。極めつけは、夜だというのにかけたサングラスと、派手な金髪。相変わらずのバカげた出で立ちだ。
「今日も派手ですね」
車を降りて声をかけると、男は跳ね上がるように振り向いた。
「その話し方なんだよ!」
「……」
俺が無言で冷ややかに睨みつけると、男はうっ、と口を噤んだ。
「こちら、電話で話していた久城さんです」
後ろから怯えがちに追いついてきた久城が、よそよそしく頭を下げる。
「初めまして……」
「可愛い顔してるなぁ。俺、関原淳。仲良くな」
サングラスの奥で目を細め、ひらひらと手を振る。電話越しで話した時と変わらない、人を喰ったような態度だ。
すると淳は突然、俺の腕を強引に引っ張り、久城から少し離れた陰へと連れ出した。
「おい、その話し方、どうにかなんねぇのか? 気持ち悪いんだけど」
淳が小声で眉をひそめる。俺は表情ひとつ変えずに返した。
「表ではこの口調なんだ。久城は一般人だからな。変なボロを出すんじゃないぞ」
「……ヘイヘイ、分かったよ」
淳は大袈裟に深いため息をつき、頭を掻きむしりながら俺から離れた。
「それで? 今はどんな状況なんだよ」
「駅前は人が多すぎる。こんな場所で話す内容じゃない」
「じゃあどうすんだよ」
「飯でも奢る。食いながら話してやるよ」
「よっしゃ、決まりな」
俺は淳から背を向け、不安そうに佇んでいた久城のもとへ戻る。
「久城さん、お待たせしました。まずは軽く食事でも行きましょう」
「……はい」
どこか浮世離れした淳の背中を追いかけるようにして、俺たちは混雑する駅前の人波へと紛れていった。




