表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

洞窟の奥には?

小さな事務所に、冷めた空気が落ちていた。

古いエアコンが低く唸り、壁の時計が一定のリズムを刻んでいる。


三人分の息遣いだけが、やけに大きい。


石井は目を伏せたまま、わずかに顎を動かす。


「俺が話すんすか?」


間の抜けた声が、静寂を割った。


石井の指がすっと立つ。

口元に当てられたそれは、無言の制止だった。


「静かにしてくださいって言ったばかりですよ」


俺は、ゆっくりと久城を睨む。


「……分かったよ。俺が話すんで、ちゃんと聞いてくださいよ」


久城が身を乗り出す。

椅子がわずかに軋んだ。


「宮野さんの家――」


「生贄にされてるって」


一瞬、思考が止まる。


“生贄”


その言葉だけが、場に残った。


……くだらない。


だが、妙だ。


「そんな話、信じるわけないですよ」


背もたれに体を預ける。


石井が小さく息を吐く。


「あそこの家、何人も入れ替わってるんですよ」


――貸家だ。珍しくもない。


「みんな、退居が不自然なんです」


石井はテーブルに視線を落としたまま続ける。


「行方不明。……それに、自殺」


情報としては、繋がる。


だが、整いすぎている。


「たまたまじゃないのか?」


声は、崩れていない。


「それが……あの貸家、地主の持ち家で。来る人、みんな宮野さんみたいに外からで」


外から来た人間ばかり。


偶然にしては、偏りすぎている。


秒針の音だけが、規則正しく響く。


――ガチャ。


重いドアが開いた。


それぞれが無言のまま席に戻る。

椅子の脚が、床を擦った。


「おはよう……」


入ってきた今野が、足を止める。


視線が、順にこちらをなぞった。


「なんだ、この空気。……何の話だ?」


俺はパソコンを指で示す。


「いえ、石井さんに。この一帯、営業で回ったことあるか聞いてただけですよ」


「そこか? そこはなぁ……」


今野の声が、わずかに濁る。


「今野さん、大丈夫っすよ。さっき説明したんで。地主の敷地なら、行く必要ないって」


久城の軽い声。


今野が、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「……そうか。余計なことまで話したな」


視線が、順にこちらをなぞる。


「この空気が、よく分かる」


俺は、久城を一瞥する。


石井はすでに画面に視線を落とし、キーボードを叩いている。

やけに音が速い。


「いいじゃないっすかぁ。みんな知ってる話ですよ」


「今野さん。話は触りしか聞いてないので、大丈夫ですよ」


「宮野さん、すみません。うちの者が、不安を煽るようなことを」


今野の視線が、わずかに細くなる。


「本当に大丈夫ですから。噂は噂ですし」


一拍、置く。


「俺なんて、ここ来てイケメンになりましたし」


――誰も、否定しなかった。


仕事が終わる。


俺と、久城と石井。


どちらに当たるか。


久城は口が軽い。

だが、軽すぎる。


石井は固い。

だが、踏み込めない。


――時間がない。


二人が帰る前に、動くか。


それとも。


家を探るか。


……あの部屋、何もないとは思えない。


迷いが、切れない。


「お? まだ帰らないんすか?」


顔を上げると、久城が笑っていた。


「あ、ぁぁ……ちょっと考え事あってな」


石井の手が止まる。


「それって……朝のことですか?」


否定は、しない。


「それなら、いい所あるんで」


久城が、軽く顎で外を示す。


「三人で話しません?」


一瞬、迷う。


……二人まとめて聞けるなら、悪くない。


「久城さん、その口、滑らせませんか?」


石井の声は低い。


「言いませんよ。どれだけ信用ないんすか」


「朝、話したじゃないですか」


言ったあとで、気づく。


遅い。


「……朝?」


久城の目が細くなる。


空気が、わずかに揺れた。


「いいじゃないっすか」


間を切るように、久城が笑う。


「ちょうどいい場所、知ってるんで。そこで話しましょうよ」


石井が、わずかに眉を寄せる。


「……どこですか?」


「近いっすよ。人も来ないし」


軽い口調のまま、久城は立ち上がる。


一瞬だけ、視線が合う。


――試してるのか。


「……行きましょう」


外に出る。


夜の空気が、肌に触れる。


久城が先に立つ。


迷いのない足取り。


石井が、その少し後ろを歩く。


俺は、さらに後ろ。


道は、次第に暗くなる。


街灯が減る。


人の気配も、消える。


「この先っす」


久城が振り返らずに言う。


足を止める。


そこから先は、舗装が途切れていた。


土の道。


その先に、黒い口が開いている。


――洞窟。


「……ここか?」


「はい。誰も来ないんで」


久城が笑う。


その笑みが、少しだけ深く見えた。


風が、奥から吹き出す。


冷たい。


「……いい場所ですね」


石井の声は、わずかに硬い。


俺は、洞窟の奥を見る。


暗い。


何も見えない。


――だが。


視線を逸らせなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ