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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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この先の境界線

俺たち三人で事務所へ入っていく。


石井は、

きっともう噂を聞いているのだろう。


さっきの反応。


視線。


わずかな間。


俺は石井の仕草から、

そう判断していた。


「宮田さんは……警察には行かなかったんですか?」


石井が不安そうな顔で聞いてくる。


俺は苦笑いを浮かべた。


「行きませんでした。」


少し肩をすくめる。


「カメラが六台も出てきた、なんて話したら……逆に面倒な事になりそうで。」


冗談っぽく笑う。


だが、

本音でもあった。


この町の警察が、

どこまで信用出来るのか分からない。


下手に騒げば、

何が起きるか想像もつかなかった。


今野は俺を見たまま、言葉を続ける。


「それでも、行くべきだったんじゃないですか?」


その声は責めてるわけじゃない。

ただ“当然の手順”を口にしてるだけだった。


普通なら、そうなる。


俺は一瞬だけ視線を外す。


――でも俺は、表だって警察と関わりたくない。


それに、カメラを仕掛けたやつも同じだ。


「……あのカメラも、誰が仕掛けたか分からないですし。もちろん指紋なんて残していないでしょ」


口に出しながら、自分でも分かっていた。


俺なら、そんなミスはしない。


石井は自分の席に荷物を置きながら言う。


「被害届は出した方がいいんじゃないですか?」


今野もテーブルに腰を下ろし、小さく頷いた。


俺は二人を見て、静かに口を開く。


「警察が動くかもわからないだろう。最悪、自作自演だと疑われる可能性もあるんじゃないですか」


その言葉に、石井の表情が固まる。


確かに、状況は弱い。


カメラはすでに外されている。

残っているのは、壁や天井に空いた小さな穴だけだ。


証拠としては薄すぎる。

映像もない。記録もない。

“そこにあった”という痕跡しか残っていない。


もし、警察が入っても仕掛けた人物は上手く逃げるだろう。


松谷という名義の、契約に書かれていた持ち家の所有者に全てを押し付ければいい。そうすれば、表に出るのはその人物だけになる。


トカゲの尻尾切りだ。


本体はそのまま残って、尻尾だけが切り離される。


証拠が弱い段階で警察が入っても、たどり着くのはそこまでだろう。

それ以上は、簡単には追えない。



俺は今野を見て、静かに尋ねた。


「松谷さんって、ご存じですか?私の家の大家なんですが」


その瞬間、今野の表情がわずかに強張ったのを見逃さなかった。


一拍、間が空く。


……今の反応は何だ。


知っているのか、それとも触れたくないのか。


今野は短く息を吐いてから答えた。


「知ってるぞ。よくこの町の祭りで司会をやってる人間だ」


俺は石井を見る。


「そうなんですか?」


石井は顎に人差し指を当てて、少し考え込むように目を細めた。


「……確かに、そうだった気もしますね」


はっきりとは覚えていないらしい。


今野はテーブル横にカバンを掛けながら言う。


「海馬さんとも仲はいいはずだ。二人で一緒に出歩いてるのもよく見る」


その名前に、空気が少しだけ繋がった気がした。


俺は今野に視線を向ける。


「もしかして、海馬さんが私の家にカメラを仕掛けていた可能性ってありますかね」


軽く冗談めかして言ったつもりだった。


今野は一瞬だけ間を置いてから、短く笑う。


「まさか」


その笑いに、確信はなかった。


ただ“否定するための笑い”だけが残った。


石井が時間を見て、パソコンを立ち上げる。


それを合図に、俺たちの会話は自然と止まった。


今野の反応を見る限り、あちら側の人間とは言い切れない。

ただ、どこか引っかかるものはある。


石井は本当に知らなさそうだった。


石井が話していたなら、今までのことは全て筒抜けになっていてもおかしくない。

だが、そういった気配はどこにもない。


むしろ、状況が動き出したのは別のタイミングだ。


カメラを取り外してから――そこからだ。


俺は目の前の仕事に集中することにした。


昼頃――


石井が珍しく、こちらに声を掛けてきた。


「宮田さん、ちょっといいですか?」


俺は石井の方を見て、椅子から立ち上がる。


「珍しいですね。お昼、食べに行きますか?」


石井は少し間を置いてから、黙って頷いた。


職場から少し離れた公園で昼を取る。


俺はコンビニで買ったおにぎりとお茶を、ビニール袋から取り出した。


石井は自分で作ってきた弁当をカバンから取り出す。


「宮田さん」


「なんですか?」


石井は弁当の包みを解きながら、小さく聞いた。


「家の中の事、いつから気づいてたんですか?」


俺はおにぎりの包装を剥がし、一口かじる。


「確信に変わったのは、カラオケに行った時ですかね」


石井が顔を上げる。


「おかしいと思ったのは、もっと前からですけど」



石井は自分で作った弁当を、じっと見つめていた。


「私と久城さんが、初めて地主の話をした時からですか?」


俺は少し迷った。


本当のことを、どこまで話すべきか。


「……その時には、ある程度推測はできていました」


石井は小さく頷きながら、弁当のおかずを口に運ぶ。


「確信ではなかったんですね」


俺は頷いた。


「もちろんです。最初は違和感程度でした。ただ、家にいる時に……見られてる感じはありました」


石井の箸が止まる。


「やっぱり、たまたま失踪したとか、行方不明になったわけじゃないんですね」


石井の顔は曇っていた。


確か、仲良くなった人がいると言っていたな。


――本当に生きているのかも分からない。


だが、確実に良からぬ目に遭っている。

そんな確信だけが、胸の奥に重く沈んでいた。


「はい……意図的でしょうね。こういう話は、人が少なくても公共の場でするのは危険です」


石井は声を潜めながら周囲を見渡した。


まだ石井自身は深く巻き込まれていない。

だが、久城の方は既に目をつけられている可能性が高い。


だから俺も、あえて接触を減らしていた。


下手に動けば、向こうの警戒心を強めるだけだ。


時間が経てば、そのうち監視も緩むかもしれない。

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