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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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22/28

探る側、探られる側

家で、ようやく気を抜けるようになった。


ここ数日。


張り詰めていた神経が少しだけ緩み、

身体の調子も戻ってきた気がする。


出社前の朝。


俺は玄関を出て、いつもの道を歩き始める。


すると。


「宮田さん。おはよう」


隣人のおばさんが声をかけてきた。


俺は軽く頭を下げる。


「おはようございます。今日も元気そうですね」


「ええ、私は元気よ。」


おばさんは笑いながら、

そのまま言葉を続けた。


「そうそう。この前、知らない車が長く停まってたけど……どうしたの?」


その瞬間。


俺の頭の中で警戒心が跳ね上がる。


――探りか?


それとも、本当に世間話のつもりか。


俺はおばさんを見る。


表情。


目線。


声の調子。


どこまで知っている?


どこまで気づいている?


自然に、

そんな事を考えている自分がいた。


「大掃除を頼んでたんですよ。」


俺は平静を装いながら、

本当の事を口にした。


嘘を混ぜるより、

本当を混ぜた方が疑われにくい。


そういう場面を、

俺は何度も見てきたからだ。


「宮田さんが来る前に、海馬さんが綺麗にしてたんだけどねぇ。」


おばさんは首を傾げながら言った。


「それは知りませんでした。」


俺は笑みを崩さない。


「一応、天井の埃とか、玄関にこびり付いた土が気になって。せっかくだから大掃除を頼んだんです。」


自分でも、

よく回る口だと思う。


本当と嘘を混ぜる。


相手が納得しやすい形にする。


そういう誤魔化し方は、

身体に染みついていた。


だが。


おばさんは話を切らなかった。


「他に、気になった事でもあったのかと思って。」


その言葉に、

俺は目を細める。


――気になった事?


何を探っている。


どこまで知っている。


俺はおばさんを観察する。


「特にないですよ。」


そう答えてから、

わざと間を置いた。


「……家の事で、何か知ってるんですか?」


その瞬間だった。


「ち、違うのよ!」


おばさんの声が急に早くなる。


「何か変な物でも落ちてたのかと思ってね。」


分かりやすい。


俺は内心で笑いそうになる。


このおばさん、

隠し事に慣れていない。


目が泳いでいる。


落ち着かないのか、

何度も手を組み替えていた。


探りを入れれば、

何か喋るかもしれない。


そんな考えが、

自然と頭に浮かんでいた。


「掃除業者が、変な物を見つけて。」


そう言った瞬間だった。


おばさんの表情が、わずかに固まる。


……分かりやすい。


俺は内心で笑いそうになる。


「何、あったの?」


さっきより明らかに食いついてきている。


「それがですね。」


俺は相手の目を見ながら続けた。


「カメラが見つかったんですよ。」


一瞬の沈黙。


だが次の瞬間、

おばさんはにっこりと笑った。


「あらぁ、カメラですか? どうしてそんな物が。」


その反応で確信する。


この人、

最初からそれを聞きたかったんだ。


――誰かに報告するために。


それとも。


自分が確認したかったのか。


「たまたま業者が見つけてくれて助かりました。」


俺はわざと穏やかな口調を崩さない。


「松谷さんが付けたんですかね?」


契約書に書かれていた、

持ち主の名前を出す。


すると。


「ま、松谷さんはそんな事しないと思いますがね……」


おばさんは視線を逸らした。


下を見る。


声も少し弱くなる。


俺はその反応を逃さない。


「じゃあ。」


わざと間を置く。


「付けたのって、海馬さんですか?」


おばさんの肩が小さく揺れた。


「さっき、海馬さんが掃除したって言ってましたよね?」


空気が変わる。


おばさんの顔が、

目に見えて曇っていく。


まるで、

そこだけは触れて欲しくなかったみたいに。


「でも、不思議ですよね。」


俺はわざと軽い口調で続ける。


「貸家の持ち主は松谷さんなのに……清掃は海馬さんがしてたんですね。」


おばさんは黙った。


何も答えない。


その沈黙だけで、

十分だった。


……やっぱり、繋がってる。


少なくとも、

何かを知っている側だ。


「仲が良いのよ。」


しばらくしてから、

おばさんは苦し紛れみたいに言った。


「だから松谷さん、海馬さんに任せてたの。」


俺は小さく頷く。


「なるほど。」


まぁ。


そういう事にしておくか。


俺はわざと腕時計を見る。


これ以上追えば、

相手も警戒する。


今はまだ、

探る段階だ。


「もうこんな時間か。」


俺は軽く笑った。


「遅刻したくないので、行きますね。」


そう言って背を向ける。


だが歩き出した後も、

背中に視線を感じていた。


会社の近くまで来て、

俺は店のガラスを使って服を整える。


ネクタイの位置。


襟の乱れ。


不自然な所がないか確認する。


すると。


「おはよう! 今日も身だしなみ整えてますね!」


後ろから、

張りのある声が飛んできた。


振り向かなくても分かる。


今野だ。


俺は軽く笑みを作りながら振り返る。


「おはようございます。」


数ヶ月、一緒に働いている。


だからこそ、

なんとなく分かってしまう。


この人も――怪しい。


表面上は普通だ。


明るいし、

人当たりもいい。


けど。


俺の話が、

久城や石井に流れている。


本人は雑談のつもりかもしれない。


だが、

この町じゃ“ただの会話”が、

どこまで広がるか分からない。


誰が誰と繋がっているのか。


どこまで筒抜けなのか。


考え始めると、

もう笑えなかった。


「そうだ。最近、家で何かあったのか?」


……この人もか。


俺は内心でため息をつく。


もう少し自然に聞き出せる奴はいないのか。


探り慣れてない。


だから逆に分かりやすい。


「掃除業者に来てもらったら、家にカメラ隠されてたんですよ。」


俺はわざと眉をひそめる。


「気味悪いですよね。」


すると今野の表情が変わった。


「それは……気持ち悪いな。」


一拍置いて、

今野は続ける。


「警察には相談したのか?」


やっぱりそこを聞く。


俺は今野を見る。


表情。


目線。


どこまで知ってる。


「いえ。してません。」


そう答えると、

今野は黙った。


……反応が薄い。


もっと驚くと思った。


それとも。


“警察に行ってない”のが重要だったのか?


俺は頭の中で会話を組み立て直す。


もっと騒ぐべきだったか。


被害者らしく、

慌てた方が自然だったか。


クソ。


少し読み違えたかもしれない。


「なんで警察呼ばなかったんだ?」


やっぱり来た。


そこを確認したかったんだな。


「呼ぼうとは思ったんですがね。」


俺は苦笑いを浮かべる。


「カメラ外したの俺ですし。警察呼んだ後で、逆恨みでもされたら怖いじゃないですか。」


俺は今野から、

もう少し情報を引き出せないか考えていた。


その時。


「おはようございます。」


後ろから女性の声が聞こえる。


石井だった。


今野はすぐ笑顔を向ける。


「おはよう。」


「おはようございます。」


俺も今野に続いて挨拶する。


その瞬間。


石井と視線が合った。


ほんの一瞬。


探るような目に見えた。


「なんの話してたんですか?」


石井が聞く。


今野は気にした様子もなく、

職場のドアを開けながら答えた。


「いやね。清掃業者が宮田さんの家でカメラ見つけたみたいで。」


その言葉に、

俺は石井を見る。


「どうして警察に連絡しなかったのか聞いてたんですよ。」


石井の動きが、一瞬止まった。


本当に一瞬だった。


けど。


俺は見逃さなかった。


指先。


視線。


呼吸。


ほんのわずかに、

空気が揺れた気がした。


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