表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/29

家に隠された目

とある場所の、とあるモニタールーム。


薄暗い室内に並ぶ無数の画面。

監視カメラの映像が、絶えず切り替わっている。


モニターの青白い光が、一人の男の顔を照らしていた。


「面白いやつが来たな。」


男は口元を歪めながら、背後に立つ老人へ声をかける。


「ええ。まさか鍵を替えられるとは、思っておりませんでした。」


老人は穏やかな声で返した。


男は椅子の背もたれへ深く身体を預ける。


指先で机を軽く叩きながら、モニターに映る映像を眺める。


「面白い」


小さく呟く。


モニターを見つめる鋭い視線が、ある違和感を捉える。


「この男……少し変わってるな。」


老人が首を傾げた。


「何が違うのでしょう? 掃除しているだけかと。」


「それにしては、何かを探してる。」


画面越しの宮田が、カメラの近くへ歩み寄る。


男は目を細めた。


「引っ越したばかりの人間が、こんな隅まで磨くか?」


違和感を覚えながらも、老人は少し悩む。


「潔癖症というわけでもありませんし……。しばらく様子を見るべきかと思われます。」


男は頷く。


「そうだな。近隣や職場からも、不審な話は出ていない。真面目な人間だと聞いている。」


「そうですね。」


その時――


モニタールームに、電子音のチャイムが響いた。


男はニヤリと口元を歪める。


「客が来る時間だったな。」


男は立ち上がり、扉へ向かう。


「今回の商品を見てもらわないと。」


老人は静かに目を細めた。


先に男がモニタールームを出る。


その後を追うように、老人も部屋を後にした。


俺がこの町に来てから、随分と時間が経った。


久城の借金の件も、なんとか収まった。


それでも。


俺は相変わらず、職場でも、町の店でも、家でも気を張る毎日を送っている。


特に家だ。


玄関を開けるたび、

誰かに見られているような感覚が消えない。


視線がまとわりつく。


胸糞悪くなってくる。


部屋の中で感じる視線。


俺は、その方向へ目を向けたことはない。


敢えて気づいていないフリをしている。


だが――


こうも何ヶ月も続けば、流石に考える。


何か動いた方がいいかもしれない。


カメラが自然に見つかるような……

そんな状況を作れないか。


俺は考えながら、キッチンへ向かった。


棚からコーヒーカップを取り出し、

静かにコーヒー豆を用意する。


掃除本舗でも呼ぶか……。


それとなく誘導すれば、

向こうが自然に見つけてくれるかもしれない。


俺の予想だと――


一個じゃない。


三、四個はある気がしている。


俺はコーヒーを淹れ終えると、リビングへ移った。


ソファに腰を下ろし、

一口コーヒーを飲む。


それからスマホを取り出し、検索画面を開いた。


業者を頼むなら――町の外だ。


俺は掃除業者を調べ始めた。


町の業者は避ける。


頼むなら、外部だ。


スマホのウェブ予約画面を開き、

氏名と住所を入力していく。


予約カレンダーが表示された。


どうやら、明日から来られるらしい。


丁度、休みだ。


俺は少し考え――


そのまま予約ボタンを押した。


そうなると……。


明日に向けて、金や証拠をどうにかしておかないとまずい。


偽装口座に移すしかないか。


使うつもりはなかったが、

念のため作っておいた口座だ。


俺は金の入ったカバンを引っ張り出し、そのまま車へ積み込む。


怪しまれないよう、

少しずつ自分名義の口座へ移していたこともあり、

カバンは、この町へ来た時より随分軽くなっていた。


俺は車に乗り込む。


エンジンをかけ、

そのまま静かに走り出した。


俺は金を預け終えると、そのまま真っ直ぐ家へ戻った。


そして翌日――


昼を過ぎた頃。


静かな部屋に、チャイムの音が響いた。


俺はソファから立ち上がる。


一瞬だけ、部屋を見回した。


相変わらず。


どこかから視線を感じる。


「……はい。」


玄関へ向かい、ドアを開ける。


そこには、二人の男が立っていた。


一人はガタイがいい。


腕も太く、作業慣れしているのがすぐ分かる。


もう一人は細身だった。


だが、目だけは妙に鋭い。


「こんにちは。ご依頼の件で伺いました。」


細身の男が帽子を取り、軽く頭を下げた。


俺も軽く会釈を返す。


その間にも。


俺は二人の靴、服、視線、持っている道具を観察していた。


癖みたいなもんだ。


「待ってましたよ。引っ越したばかりなんですが……汚れが気になりまして。」


俺は玄関の隅に溜まった土へ視線を向ける。


「こびり付いてますね。」


ガタイのいい男がしゃがみ込みながら言った。


その横で、細身の男が口を開く。


「部屋全体の掃除って聞いたんで、少し珍しいなと思いまして。潔癖症だったりします?」


俺は首を横に振る。


「いえ。そういうわけじゃないんですが、新生活ですし。綺麗にしておきたくて。」


細身の男は「なるほど」とだけ返した。


その視線が、一瞬だけ部屋の奥へ向く。


俺はそれを見逃さなかった。


……やっぱり。


早く、視線の元凶を取り除く必要がある。


「中に入って、早速お願いします。」


俺は二人を部屋へ通す。


そして。


一度だけ、視線を感じる方向へ身体を向けた。


部屋の角。


俺はそこを指差す。


「あそこ、埃が溜まってるの気になってるんですよ。」


ガタイのいい男が視線を向ける。


細身の男も、無言で部屋の角を見た。


そこには、特に何もない。


棚もない。


家具もない。


ただの壁際だ。


……なのに。


何かある気がする。


ずっと、

そこから見られているような感覚が消えない。



ガタイのいい男が脚立を使い、部屋の角を確認する。


「確かに埃、結構溜まってますね。」


男は壁際へ顔を近づけた。


「タオル取ってくれ。」


細身の男が無言でタオルを渡す。


男はそのまま埃を拭き取っていく。


その時だった。


「……ん?」


男の手が止まる。


「ここ、何か穴がありますね。」


間違いない。


俺は内心で確信した。


「本当ですか? 何か入ってませんか?」


男が穴を覗き込む。


「入ってますね。取ってみてもいいですか?」


断る理由はない。


「お願いします。」


男は指が入らないらしく、細い物がないか聞いてきた。


俺は近くにあったドライバーを渡す。


男は工具を穴へ差し込む。


「硬いですね……。」


小さく悪態をつきながら、慎重に引っ張り出す。


そして。


「出てきました。」


男の手の中に、小型の黒い機械が収まっていた。


「これは……カメラ?」


「……カメラ。」


その言葉を聞いた瞬間。


曖昧だった違和感が、確信へ変わった。


男は取り出した小型カメラを指で摘む。


「しかも動いてるな。赤く点滅してる。」


やっぱりか。


俺は内心で小さく笑う。


玄関に一つ。


なら、リビング。


寝室。


各部屋に最低一つはあるかもしれない。


思った以上に、徹底してる。


「気持ち悪いですね。」


俺はわざと顔をしかめた。


隣で細身の男も頷く。


「これ、盗撮ですよね。」


「そうだな。」


ガタイのいい男が険しい顔で答える。


「普通に犯罪だ。」


俺は視線をカメラへ向けたまま口を開く。


「まだあるなら気持ち悪いので……ついでに探してもらえませんか?」


二人は少し顔を見合わせる。


本来の依頼じゃない。


当然だ。


俺は静かに続ける。


「追加で払います。」


その瞬間だった。


空気が変わる。


「分かりました。」


男達は笑顔で頷いた。


「見つけたら、全部取り外しておきます。」


探す専門じゃない。


だが――


俺が自然に誘導すれば見つかる。


なんとなくだが分かる。


隠す側の考えは。


同類の匂いは、嫌でも分かる。


それに。


こういう時の緊張感は嫌いじゃない。


心臓が妙に冴えてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ