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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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19/28

保証人

俺はひとまず木浦の親について聞く。


「暴力については分かりました。それで、親とは連絡取れてないんですか?」


木浦は小さく頷く。


横で久城も、重たそうに頷いた。


「番号は? 会社でもいいです」


連絡が取れない事には話にならない。


もし親に金があるなら――


返済能力の高い方へ、連帯保証人を変更できる可能性もある。


「会社の番号なら知ってる」


木浦が答える。


だが、電話をかけるのは木浦じゃダメだ。


門前払いになる。


だからといって、久城も……多分無理。


石井なら上手くやれそうな気はする。


俺は一度、石井を見る。


視線に気づいた瞬間。


石井は露骨に顔をしかめ、即座に首を振った。


「私は嫌ですよ。宮田さんの方が得意じゃないですか?」


まるで面倒事を押し付けるみたいな言い方だった。


俺だって、明らかな面倒事に首を突っ込む趣味はない。


ましてや、借金なんかの話し


けどーー


久城の声が、俺の意識を現実へ引き戻す。


「俺も、宮田さんがいいと思います。宮田さんって察しもいいですし」


久城の声に張りはない。


問題の関係者だ。


気まずくもなるか。


「分かりました。じゃあ、会社の名前教えてもらっていいですか?」


木浦はスマホを開く。


俺もスマホを取り出し、通話画面を開いた。


木浦が番号を告げる。


それに合わせ、俺もボタンを押していく。


「かけるので、みなさん静かにしてください」


耳に当てる。


電話の奥で、呼び出し音が鳴った。


――親の出方次第だな。


場合によっては、借り先の書類の抹消も考えないといけない。


銀行相手となると……。


想像しただけで、やる気が失せる。


それでも。


今までの経験が、どこまで通じるのか。


試してみたい気持ちもあった。


電話の向こうから、女性の声が聞こえる。


「もしもし、こちら木浦生産場です」


俺は営業をしていた時みたいに、少し声を高くした。


「こんにちは。こちらに木浦社長はいらっしゃいますか? 息子さんの件で、ご相談がありまして」


電話越しに、わずかな間が空く。


木浦と久城の肩が、びくりと揺れた。


「……はい。おります。少々お待ちください」


保留ボタンを押したのか、電話からメロディが流れ始める。


その間にも、木浦は落ち着かない様子で指を組み直していた。


俺はそんな木浦を横目で見る。


――さて。


親は、どこまで事情を知っている。


メロディが途中で切れる。


代わりに、低い男の声が聞こえた。


「もしもし、木浦です」


声だけで分かる。


この男は、警戒している。


「初めまして。宮田と申します。息子さんの件で、お話があるのですが。少しお時間よろしいでしょうか?」


その瞬間。


男の声色が、明らかに変わった。


「息子とは縁を切っています。こちらに掛けられても困る」


息子と言いながら、その口ぶりは他人みたいだった。


俺は気にした様子もなく、口調を崩さない。


「いえ、少しだけお話を聞いていただければ。友人が困ってまして」


嘘は言っていない。


困っているのは事実だ。


男はすぐには返事をしなかった。


電話越しに、浅い呼吸だけが聞こえる。


――切るか?


そう思った直後。


「……分かりました。話だけなら聞きます」


俺は小さく口元を緩める。


この返事が出るなら、まだ交渉の余地はある。


頭ごなしに怒鳴るタイプじゃない。


「ありがとうございます」



「仁さんが借金をしてしまいまして。友人の久城光を、騙す形で連帯保証人にしてしまったようでして」


俺はなるべく簡潔に話す。


電話越しで、ガタンと音がした。


「その話は本当ですか? 光くんは近くにいるんですか?」


――食いついた。


俺はそう判断する。


「はい。久城さんも仁さんも、今は私と一緒にいます。ただ、久城さんもかなり動揺しておりまして。うまく話せない状態なので、代わりに私が」


「そうですか。では息子は、いくら借金をして、何に使ったか聞いていますか?」


「聞いてます。知り合いに株を勧められて失敗して、五百万円ほどの借金をしたようです」


電話の向こうは、まだ黙ったままだ。


息をしている気配だけが続く。


「金融機関から借りる際に、久城さんには内容をきちんと説明せず、書類に署名させた形になっているようでして」


俺は、あえて細かい部分は濁した。


契約の細部には触れない。


事実だけを並べる。


「結果として、連帯保証人になってしまった状態です。仁さんのご両親は会社を経営されていると伺っていますので、そちらで保証の変更が可能か、ご相談させていただきたく」


低い声が電話越しに響く。


「光くんに変われますか?」


俺は一瞬だけ久城に視線を向けた。


電話のマイクを手で軽く押さえる。


「久城さん、変われますか」


久城の肩が、びくりと跳ねた。


「……変われます」


声は小さい。


覚悟が決まっているようで、決まっていない。


俺は手を離し、スマホを耳に当て直す。


「今、代わります」


「お願いします」


通話を切らずに、俺は久城にスマホを渡した。


「もしもし……久城です。お久しぶりです」


やはり、実の息子よりも親しい間柄らしい。


「はい。元気でしたよ。おじさんもお元気でしたか?」


久城の表情が、少しだけ緩む。


「そうなんです」


声の張りがなくなった。


さっきまでの緊張が、すっと抜けていく。


「俺も仁にお願いごとをしてまして。その代わりに、サインと押印をもらっていたんです。借用書のサインとは聞いてなく。」


幼い頃からの関係なのだろう。


電話越しの男も、息子を責めるような空気ではない。


「お願いごとの内容ですか?」


久城は困ったように視線を俺に向けた。


隠したところで、木浦から聞き出されれば同じことだ。


それなら最初から、出せる情報は出しておいた方がいい。


隠すというのは、得るための手段であって、守るためだけのものじゃない。


もし木浦の親が――地主と繋がっているなら厄介になる可能性もある。


逆に、こちらを探ってくるようなら、その時点で流れは読める。


俺はできるだけ声を落として久城に言う。


「話していいです。ただ、詳しくは言いすぎないでください」


久城は不安そうな顔をしたが、ゆっくり頷いた。



「実は、ある家の契約書のコピーを探していまして」


全部は渡さない。今は入口だけでい


久城の表情がわずかに曇る。


空気が重くなる。


「まあ、もし手に入れば助かるな、くらいの話です」


ここで引いておけば、相手は勝手に補完する


久城の声が小さくなる。


「……はい。すみません」


電話の向こうで、誰かに説明している気配が続く。


長い説教でも始まっているのだろう。


「え? いいんですか?」


久城が何度か頷く。


「今、代わります」


久城は木浦にスマホを渡した。


手が、わずかに震えていた。

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