行方
木浦がゆっくりとスマホを耳に当てる。
その表情は暗い。
車内の空気まで重く沈んでいく。
「……も、もしもし」
弱々しい声。
直後、スマホの奥から怒鳴り声が響いた。
「お前は何やってるんだ! 人様に借金を押し付けるなんて!」
木浦は思わずスマホを耳から離す。
車の中にまで怒声が漏れていた。
「親父こそ、いちいち怒鳴るなよ……!」
さっきまでの怯えた様子が嘘みたいに、木浦が吐き捨てる。
普通なら怒鳴る。
いい歳をした息子が株で失敗して、
挙げ句の果てに、他人へ借金を押し付けようとしたのだから。
スマホの向こうで、まだ父親が何かを言っている。
だが木浦は反論しなかった。
「……分かってるよ」
力が抜けたように呟く。
「あの人が言ってたことも……本当だ」
木浦は何度も頷く。
スマホを握る力が強くなっているのか、
指先が赤くなっていた。
「……光の言ってることも本当だよ」
さっきまで弱々しかった声に、
少しだけ苛立ちが混ざる。
「だから交換条件を――」
「お前は何やってる! 何が交換だ!」
再び怒鳴り声が響く。
車内の空気が震える。
木浦は押し黙った。
スマホの向こうから一方的に言葉を浴びせられる。
その間、木浦は何度も頷いていた。
「……分かったよ」
木浦は深く息を吐く。
「明日、光も連れて行く。その時に話そう」
「それも分かった。代わればいいんだろ?」
木浦が俺にスマホを差し出してくる。
俺は黙って受け取り、耳に当てた。
「もしもし。代わりました」
スマホの向こうから、疲れ切った男の声が返ってくる。
「この度は、ご迷惑をお掛けしました……」
木浦の父親だった。
「ちなみにですが、借用書は確認されましたか?」
『いえ……こちらでも、久城さん本人のサインなのか確認したかったんですが……持ち歩いていないと言われまして』
俺は少し考えながら言葉を返す。
「分かりました。後のことは、俺の方でも二人から話を聞いて対処します」
『……よろしくお願いします』
「はい」
俺は通話を切った。
「久城さん。なんとかなりそうで良かったですね」
俺は木浦を視界に入れなかった。
これ以上、話すことはないと判断したからだ。
「……はい。ありがとうございます」
隣で黙っていた石井も、久城を見る。
「本当ですよ。これからは、どんな理由があっても簡単にサインしないでくださいね」
俺は木浦を近くの駅まで送り、
その後、石井、久城の順に家へ送った。
それにしても――
もし不動産屋に知られていたなら、
地主にまで話が筒抜けになっている可能性がある。
いや。
そもそも、不動産屋もグルだったら……?
俺は思わず頭を抱えそうになる。
引っ越して、
町に伝わる宝探しをするだけのつもりだった。
それが今では、
命の危険に晒される可能性まで出てきている。
普通なら、怖がる場面だ。
なのに。
胸の奥から、何かが湧き上がってくる。
期待か。
それとも――
「……楽しくなってきたのかもな」
気づけば、
俺の口元に笑みが張り付いていた。




