確証
カラオケボックスの中で流れるBGMが、やけに大きく聞こえた。
俺は話を聞くうちに、心臓が早くなっているのを感じる。
——楽しい。
思考が、冴えていく。
もっと——
そんな期待が、胸の奥で膨らんでいく。
「でも——」
久城は思い出したように言った。
「電気、ついてたらしいっすよ」
「電気?」
石井が聞き返す。
「っす。失踪した日の夜も、“ちゃんと明かり見えた”って」
少しだけ、空気が緩む。
——帰っていた可能性。
「どの部屋ですか?」
宮田はすぐに聞く。
「えっと……奥の部屋って言ってましたね」
「奥?」
石井が首を傾げる。
久城は続ける。
「それに、“窓越しにおばあさんの顔も見えた”って話もありました」
「……顔まで?」
石井が眉をひそめる。
「っす。近所のおじさんが言ってました」
久城はあくまで淡々と話す。
宮田は一度、視線を落とした。
そして——
「まず、電気の話は残します。」
短く言う。
「旦那がつけた可能性がある」
石井が小さく頷く。
「家の中なら動けるはずですしね」
「でも」
宮田は続ける。
「“奥の部屋”は外から見えない」
久城がわずかに目を細める。
「……っすね」
「顔が見えたって証言は、切ります。」
即断。
「位置的に無理があります。」
沈黙。
「じゃあ……」
久城が言葉を探す。
「電気だけが本当で、顔は——」
「作られてる可能性が高いですね」
俺は被せて言う。
石井が静かに息を吐く。
「証言、混ざってますね」
「もしくは——」
俺はゆっくり顔を上げる。
「混ぜられて居ます」
誰も、すぐには言葉を続けなかった。
カラオケボックスのBGMだけが、やけに耳に残る。
この会話で、俺の中の何かが形になり始めていた。
——もし、これが……
いや。
そこまで考えて、思考を止める。
喉の奥が、ひりつく。
この町は——
頬が、わずかに緩んだ。
「……宮田さん?」
石井の声で、現実に引き戻される。
視線を向けると、二人ともこちらを見ていた。
眉間に、深い皺を刻んで。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫です」
短く返す。
まだだ。
確信には、足りない。
「久城さん」
視線を外さずに言う。
「他にはないですか?」
一拍置く。
「前に言ってた家族の時も——」
少しだけ言葉を選ぶ。
「似たような話、出てましたか?」
「そうっすね……時間も、みんな口を揃えて“23時までは電気がついてた”って」
久城が指でテーブルを軽く叩きながら言う。
石井も思い出したように口を開いた。
「私が仲良くしていた方も、22時まではやり取りしていました」
「やり取りって……連絡ですか?」
「はい。メッセージです」
——一時間の差。
だが、どちらも“まだ起きていた”ことを示している。
俺は以前のやり取りを思い出す。
「二人とも、仲は良かったんですよね」
確認するように言う。
「当日も、それぞれ話してましたか?」
久城が頷く。
「っすね。普通に」
石井も小さく頷いた。
「いつも通りでした」
——“いつも通り”。
その言葉が、やけに引っかかる。
「……そこも一つ切ります。」
俺は静かに言った。
二人の視線が向く。
「“普通だった”って証言は、信用出来ないです。」
「え?」
久城が眉を寄せる。
「時間も、会話も、電気も——」
一つずつ、頭の中で並べる。
「揃いすぎてるんです。」
石井が息を呑む。
「じゃあ……全部——」
「全部じゃないです。」
短く遮る。
「“揃ってる部分”だけ、怪しいんですよ。」
沈黙。
俺はゆっくり息を吐いた。
「誰かが、そこだけ整えて見えます。」
状況を理解し始めた石井は——
テーブルを軽く叩いた。
「もしかして……宮田さん、いつからそこに辿り着いてたんですか」
視線が、真っ直ぐに向けられる。
同じ考えに、届いた目だ。
「今日までは、そんなこと思ってませんでした」
俺ははっきりと言う。
「鉄パイプのある崖……あそこを見てからです。」
石井の表情がわずかに固まる。
理解が、さらに深まる。
その横で——
久城だけが、俺と石井の顔を交互に見ていた。
「何かわかったんすか?」
一人だけ、取り残されている。
俺は小さく息を吐いた。
「久城——」
わずかに間を置く。
「逆に聞くけど、なんで気づかないんですか?」
視線を向ける。
「ここまで揃ってる」
一歩、踏み込む。
「一つの可能性に」
沈黙。
久城の表情が、わずかに強張る。
「だからなんすか?その可能性って!」
久城の声が荒くなる。
俺は息を整え、声を落とした。
「——近隣住人が」
一拍。
「海馬と、グルの可能性がある」
言い終えた瞬間。
空気が、止まった。
久城は口を開いたまま固まる。
「え——」
遅れて、声が弾けた。
「えぇーーー!?」
ボックスに響く、場違いな大声。
石井は何も言わない。
ただ、視線だけが揺れていた。
——揃いすぎた時間。
——見ていない帰宅。
——見えないはずの顔。
全部が、一本に繋がる。
カラオケボックスのBGMだけが、やけに大きく聞こえた。




