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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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新たな可能性

張り詰めたカラオケボックスーー


タブレットの画面に映るのは、崖に沿って組まれた鉄パイプの通路。


足場のように細く、無理やり取り付けられたそれは、

明らかに人目を避けるための造りだった。


俺は石井からタブレットを受け取る。


「入り口は……ぱっと見、分かりませんね」


崖のあたりを航空表示に切り替え、拡大していく。


岩肌に沿うように伸びるパイプ。


だが——地上から繋がる場所が見えない。


「もっと離れた場所にあるんじゃないっすか?」


久城が覗き込みながら言う。


そのまま、少し考えるように目を細めた。


「……この右側、公園あるんすよ」


久城の指が、画面の一点を指す。


俺はその方向へスライドさせた。


住宅地を抜け、小さな公園が映る。


「ここ、夜ほとんど人来ないんで」


何気ない一言。


——だが、妙に引っかかった。


「映画だと、ゴミ箱の下とかトイレにあったりしますよね」


場違いな軽口。


俺は苦笑する。


「久城さん……それ、SFの見すぎじゃないですか?」


久城はにやりと笑った。


「よく分かりましたね」


石井は、黙って画面を見つめていた。


やがて、小さく首を振る。


「……公園は、ないと思います」


視線はタブレットのまま。


「子供が使う場所ですし、人目も多いです」


——確かに。


夜に連れ去るにしても、わざわざ人の通りそうな場所を選ぶ理由がない。


……公園は、違う。


俺はゆっくり顔を上げた。


「久城さん」


一拍、置く。


「話、戻りますけど」


久城がこちらを見る。


「俺の家の近所、聞き込みしましたよね」


久城は一度、頷いた。


「ああ、しましたよ」


コーラに口をつける。


その仕草を、目で追う。


「その時——」


わずかに間を詰める。


「変なこと、言ってた人……いませんでしたか?」


コーラの入ったコップを、静かに握る。


親指が、表面の水滴をなぞる。


ゆっくりと——擦り広げる。


「……俺には、なんの違和感も感じませんでしたよ」


一瞬。


わずかに、間があった。


沈黙が落ちる。


「……宮田さん」


石井が口を開く。


「久城さんにそれ聞いても、あまり意味ないと思います」


視線は久城に向けたまま。


「この人、単純なんで。こういうの、感覚でしか見てないですし」


軽く言ってるが、どこか刺がある。


——長い付き合い。


だからこその断言。


「……そうか」


俺は小さく息を吐いた。


「じゃあ——覚えてる範囲でいいです。」


視線を外さずに言う。


「細かく、教えてください」


久城はコップから手を離し、


長椅子に背中を預けた。


わずかに視線を上に向ける。


「そうっすねぇ……最近の、六人目の家の人なら——覚えてるかも」


首を傾げる。


その仕草が、やけにゆっくりに見えた。


「それでいいです。頼みます」


短く言う。


久城は一度だけ頷いた。


——仕方ない。


俺と違って、久城はただの一般人だ。


細かい違和感までは拾えない。


だが——


それでもいい。


頭の中では、ひとつの仮説が形になり始めていた。


もし、それが当たっているなら。


今から聞く話は——


ただの情報じゃ、終わらない。


久城は視線を宙に向けたまま、ゆっくりと口を開いた。


「六人目は……老夫婦でしたね」


少し間を置く。


「旦那の方が、足悪くて。あんまり外には出ない人でした」


——普通だ。


どこにでもいるような話。


「でも、奥さんの方はよく見かけましたよ」


「夜でも?」


俺が挟むと、久城はあっさり頷いた。


「っすね。なんか……誰かと会ってたみたいで」


「誰か?」


「さぁ……そこまでは」


曖昧に笑う。


だが——


「ただ、近所の人が言ってたんすよ」


久城は軽く肩をすくめた。


「“あの人たち、よく海馬さんのとこ行ってた”って」


一瞬、思考が止まる。


「地主の?」


「そうそう。なんか用事あったんじゃないっすかね」


——軽い。


あまりにも、軽い。


「それに——」


久城は続ける。


「みんな似たようなこと言ってましたよ。“いい人たちだった”って」


「……みんな?」


「っす。誰に聞いても同じ感じでした」


笑いながら言う。


違和感は、そこにあった。


久城は軽く首を鳴らしてから、言葉を探すように口を開いた。


「六人目の老夫婦……失踪前の日も、普通だったみたいっすよ」


「“みたい”?」


石井がすぐに拾う。


「近所の人の話っす。夕方までは家にいたって」


久城は指でテーブルを軽く叩く。


「で、夜になってから——奥さんの方だけ、外に出てたらしいです」


「旦那は?」


「家っすね。足悪いんで」


——そこまではいい。


「時間はいつ頃ですか?」


俺が聞く。


久城は少し考えてから答えた。


「九時くらいって言ってましたね」


「“言ってた”?誰が」


石井の声が低くなる。


「えっと……何人かっすよ。近所の人たち」


曖昧な答え。


だが——


「みんな、同じ時間だったんすよね」


久城は気にした様子もなく続ける。


「“九時過ぎに見た”って」


一瞬、沈黙が落ちた。


「……揃いすぎじゃないですか?」


石井が眉をひそめる。


「まぁ……たまたまじゃないっすか?」


久城は軽く笑う。


「それで、その後は?」


俺は視線を外さずに聞く。


「それが——」


久城は少しだけ言葉を切った。


「その日、地主のとこに行ってたらしいっす」


空気が、わずかに変わる。


「……海馬の家に?」


石井が確認する。


「っす。なんか用事あったみたいで」


「誰が見た?」


「近所の人っすよ」


即答。


早すぎるくらいに。


「帰ってきたのは?」


俺の問いに、久城は首を傾げた。


「それは……誰も見てないみたいっすね」


——不自然だ。


「でも——」


久城は続ける。


「“ちゃんと帰ってきてたはずだ”って、みんな言ってましたよ」


「……見てないのに?」


石井の声がわずかに鋭くなる。


「そうっすね」


久城はあっさり頷く。


「なんか……“そういうもんだろ”って感じで」


笑いながら言う。


その軽さが、逆に引っかかった。


——揃いすぎた時間。


——見ていない帰宅。


——同じような言葉。


俺は、静かに息を吐いた。



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