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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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14/15

この町は、終わってる

現状――


海馬と近隣住人が、グルである可能性は高い。


だが。


目の前の二人は、まだそこに立っていない。


久城が声を荒げる。


「証拠はないじゃないですか!」


石井は何も言わない。


ただ、指先だけが――わずかに震えている。


俺は、黙って見ていた。


逃げ場を残すように。


それでも、目は逸らさずに。


やがて――


先に崩れたのは、久城だった。


「……証拠は、ないじゃないですか」


さっきよりも、弱い声。


「……確かにな」


俺はあっさりと頷く。


「決定的な証拠はない。だが――」


視線を外さずに言う。


「状況が、答えを出してる」


久城の瞳が揺れた。


「状況って……なんすか?」


俺は答えない。


代わりに――


頭の中で、並べる。


揃いすぎた時間。


“帰宅したはずの人間を、誰も見ていない”という事実。


見えないはずの顔。


そして——鉄パイプの道。


「……全部だ」


短く言う。


久城は何も言えない。


ただ、視線だけが落ち着きなく泳いでいた。


「でも、確定ではないです……」


石井が小さく呟く。


俺は指先で、テーブルを軽く叩いた。


「ええ。その通りです」


一度、頷く。


「決定打はない。——だからこそ、順番に潰していく」


石井に視線を向ける。


「この失踪……どうやって起きてるか」


「最初に考えたのは、隠し通路です」


「でも、家の中にはなかった」


久城を見る。


「さっき、庭にあるんじゃないかって言ってましたよね」


久城が、わずかに頷く。


石井が続ける。


「……あの庭は、人目につきやすいです。近所から見えます」


「そう」


俺は静かに肯定する。


「普通なら、無理だ——だが」


視線を上げる。


「庭から、あの崖へ繋がっているとしたら」


久城の表情が固まる。


「近所の人間が、それを知っていたとしたら」


石井が息を止める。


「そして——」


言葉を、ゆっくり落とす。


「全員で、口を合わせていたとしたら」


重い空気が、部屋に沈む。


「でも——そんな簡単に口裏なんて、合わせられますか?」


久城が言う。


俺は小さく首を振った。


「久城さん、言ってましたよね」


視線を向ける。


「この町の地主は、恐怖で支配しているって」


久城の喉が、小さく鳴る。


言葉は、出ない。


石井は顎に手を当てたまま、静かに呟く。


「……もし、それが本当なら」


——本当なら。


頭の中で、点と点が繋がる。


歪なほど、綺麗に。


頬が、わずかに緩んだ。


……いい。


胸の奥が、ざわつく。


これなら——


逃げ場はない。


言葉にはしない。


ただ、一つだけ、確かなことがある。


この町は——


**最初から、終わっている。**


「久城さん——これ以上、調べたらダメです」


石井が言う。


低く、はっきりとした声。


久城が眉をひそめる。


「なんで、ですか?」


俺はゆっくりと視線を向けた。


「……もう、気づいてますよね?」


短く言う。


「ここまで来てる時点で、安全圏はとっくに外れてます」


久城の喉が、小さく鳴る。


「もし、この仮説が当たってるなら——」


言葉を切る。


「“知らなかった”では、済まなくなる」


視線を外さず、続ける。


「関わった時点で、終わりです」


久城の呼吸が、わずかに乱れた。


「じゃ、じゃぁ……宮田さんはどうなるんですか?」


俺は天井を見上げる。


ゆっくりと、口元が歪んだ。


「強制参加、でしょうね」


これから起きることを思い浮かべる。


――悪くない。


視線に気づいて、横を見る。


「宮田さんって……楽しんでますよね?」


久城が、引き気味に言う。


俺は小さく笑った。


「どうでしょう」


石井が、二人のやり取りを静かに見ている。


「宮田さんは……ともかく」


久城と目を合わせる。


「久城さんは、まだ戻れます」


言葉を選ぶように、ゆっくりと。


その視線は、外れない。


引き戻そうとするように。


そのとき——


スマホが鳴った。


場の空気を裂くように。


石井が肩をピクリと揺らす。


「俺のっす」


久城がポケットから取り出す。


「誰からですか?」


さりげなく聞く。


「前に言ってた……引っ越し会社にいる友達っすよ」


一瞬。


俺は、ほんのわずかに目を細めた。


久城は電話に出る。


「どうしたんだ?」


一瞬の沈黙。


「……は?」


表情が、変わる。


「どういうことだよ。待て、切るなって――」


途切れる声。


通話が、切れた。


静まり返る室内。


久城は、ゆっくりとスマホを耳から離した。


「……契約書のやり取りが、バレたって」


その言葉だけで、空気が重く沈む。


だが。


久城の顔は、それだけじゃない。


まだ何かを飲み込んでいる。


「他に、何かあるんじゃないですか?」


石井が先に踏み込む。


久城はわずかに迷い――口を開いた。


「……移動になるって」


一瞬。


頭の奥で、何かが繋がる。


移動。


――失踪。


俺はゆっくりと息を吐いた。


「久城さん」


視線を向ける。


「その人、すぐ迎えに行った方がいい」


久城が眉をひそめる。


「なんで……」


部屋の中が静かになる。


「消される可能性があります」


言葉が、重く落ちる。


石井の顔色が変わった。


久城の喉が鳴る。


誰も、すぐには動けない。


――だが。


もう遅いかもしれない。


胸の奥で、確信が形になる。


この町は、証拠を残さない。


関わった人間から、順に消えていく。


そして――


次は。

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