↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/50

08 白の追憶石

 まずい、駄目だ、何とかしなければ。

 うるさい、どうでもいい、全て壊れてしまえ。


 相反する感情の渦そのままに魔力が溢れて周囲を襲う。


 このままでは彼女を傷つけてしまう。

 止めなければ、と思うのに私の魔力は言う事を聞いてくれない。


「逃げ──」


 彼女へ逃げてと言おうとした。だけど、その言葉は彼女のたった一つの行動で遮られた。


「――落ち着いて」


 暖かいものに私の全身が包まれていた。

 一拍遅れて何が起きたのかに気付く。ベッドの上から跳んだ彼女が私を抱き締めたのだ。


 私の黒髪が大きく揺れる。魔力の泥に襲われ、彼女の顔が歪んだ。

 私の魔力は心を壊す。それを浴びても彼女の腕は私から外れない。


「離して!」

「駄目です」


 知っている暖かさの中で知らない声がする。この温もりを私の魔力は襲ってしまう。


「こんな気持ちに、させて、ごめんなさい」


 歪んだ表情で彼女が言う。このままでは駄目だ。傷つけてはいけない人なのに。


「鎮まれっ!」


 直後、ホウキ兵から鎮静の魔法が放たれ、私の魔力が再び四散した。それと同時に彼女の足から力が抜け、私と共に床に倒れ込む。


「ロスティ様大丈夫ですかっ!?」

「……はい、大丈夫です」


 汗が滲んだ肌を拭い、彼女がアルベルト様を、そして私を見た。


「本当にごめんなさい。わたしの所為なのですよね?」


 困った様に、申し訳ないと言う様に、その手が魔石の首輪を撫でる。


「覚えていなくてごめんなさい。困らせてしまって、ごめんなさい。わたし、本当に何も分からないんです。」


 そして、深くロスティは頭を下げる。

 違う、違う、違う。こんなのは違う。


「やめ、て」


 ロスティ様はこんな事はしない。謝るのは彼女ではない。

 小さく丸まる彼女の背中へ私は縋りついた。

 何故、どうして、こんな事に? 答えは誰もくれなかった。


 その時、アルベルト様の声が頭上からした。


「……フィリア・オブリビオン、それは何だ?」

「それ、とは?」

「服のポケットだ。何かが光っている」


 言葉の意味が分からない。指されたままにそこを見ると、腰のポケットが光り、そして熱を持っていた。

 入っているのはあの白い追憶石だ。


「あ……」


 導かれる様に私はポケットから追憶石を取り出した。

 私の手の平を台座として白い宝石がキラキラと輝いている。

 その瞬間、私の世界が塗りつぶされた。


「──」


『ごめんなさい』とロスティ様が誰かに頭を下げている。

『ありがとう』と誰かの礼をロスティ様が聞いている。

 砕かれた宝石。何かが笑う音。夜星の下を飛ぶロスティ様。

 断片的な映像と音声。

 追憶石が再生する絶望の記録。


 胸を抉り、臓腑を腐らせる感情が私の中で再現される。

 ホウキ兵が掛けた鎮静魔法を破って、また魔力が溢れそうになった。

 その時だ。すぐ近くから呻く声がした。


「ぅ、あ」

「ロスティ、様?」


 振り向くと、彼女は胸を押さえ、体を折り、震えていた。

 紅玉の瞳が見開かれ、焦点を失っている。


「……っ、い、や。な、……に、?」


 言葉に成らない声が零れていた。息さえもまともに出来ていない。

 背中に触れた手を伝い、彼女の感情が私に流れ込む。それは今まさに私が追憶石から再現してしまった物と同じだった。


「っ」


 彼女は私を伝い、追憶石の記憶を感情ごと再現したのだ。

 理解と同時に私は転がり倒れながら、彼女から離れる。


 すぐに彼女が咳き込みながら息をした。

 はぁ、はぁ、と彼女は浅い呼吸を何度も繰り返す。そして、汗だくになった顔で私を、私が持った追憶石を見た。


「今、のは、わたしの、記憶?」


 白の宝石は光る。まるでこの時を待っていたみたいだ。


「……それはロスティの記憶か」


 アルベルト様が静かに言う。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もし「面白かった」「続きが気になる」と思ってもらえたなら、ブックマーク、評価、感想等をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。