49 アルベルト・リムナントの壊滅の魔法
「壊滅の魔法、か。こういう時には便利だ」
見ればアルベルト様の周囲では泥が破壊されていた。泥が到達するまでの僅かな時間で周囲に壊滅の魔法を使ったのだろう。
概念すらも壊滅させる魔法の前では何人の魔法も届かない。
「わたし達を、捕まえますか?」
ロスティが言う。壊滅の魔法使いが立っている。その魔法に掛かれば私達に為す術が無い。
しばらくアルベルト様は黙っていて、小さく息を吐いた後、こちらへと歩いた。
「ここは司法局で、この場に集めたのは王侯貴族だ。その意味を理解しているんだな?」
「この人だけが壊れる世界なら、そんな世界は壊れてしまえば良いのです」
大罪だ。それが何だと言うのか。怒りに呑まれた私達に理屈は通じなかった。
「ロスティ、君はどうだ?」
「後悔はありません。何なりとお裁きを」
「……そうか」
そう言った後、私とロスティはアルベルト様の言葉を待つ。
アルベルト様が私達の前で立ち止まり、懐から魔光紙を取り出した。
そこにはリムナント王家とメモワール家の魔力印が押されている。
「司法局での自発的魔力暴走、王侯貴族への感情破壊。とても大きな罪だ。この国でお前達が贖えない程の」
取り出された魔光紙はロスティ様とアルベルト様の婚約状だった。
「司法局長も気を失っている。だから、今ここで僕がお前達へ罰を下そう」
厳重な魔力障壁で守られた書面をアルベルト様は一度だけ撫でる。
「ロスティ・メモワール」
蒼玉と紅玉の瞳の視線が合わさった。
「今ここでお前との婚約を破棄する」
そして、金色の髪を小さく揺れて言葉が続く。
「そして、お前達への国外追放を命じよう」
瞬間、アルベルト様がお持ちだった婚約状がボロボロと崩れ去った。
「え」
何が起きたのか分からなかった。極刑すら覚悟して今この魔法を使ったのだ。
だけど、アルベルト様が下したのは婚約破棄と国外追放だ。
困惑する私達へアルベルト様が手を伸ばし、ロスティの首輪と私達のピアスを破壊した。
逃走を禁じる魔法具すらも消え、私達の体は自由に成ってしまった。
「さあ、早く、何処へなりとも行ってしまえ」
許されたとは思わない。だけど、王子の命令に私達の体は動き、走り出した。
司法局の中を走る。何が起きたのかと裁判所の中を覗き込もうとする者達が居た。その眼に私達は入っていなかった。
そして、外に出た時、私達は見た。
入口のすぐ近くに二つのホウキがあった。その傍らに私の魔石の杖が置いてある。
ホウキのすぐ近くには大きなトランクも二つあって、その上に一つの手紙が置かれていた。
「これ、は」
ロスティがそれを広げると、そこには短く〝良い旅を〟と書かれてあった。
思わず私達は司法局を見る。これを用意したのはアルベルト様だ。
礼を言えない。時間は無い。すぐにホウキ兵達は飛んできてしまう。
急がなければ。
「フィリア様、行きましょう」
「ええ、ロスティ」
私達はホウキに乗り、空へ飛ぶ。
最新のホウキだ。速く、早く、みるみると、地面が遠くなっていった。
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これで第九章が終わりです。
次はエピローグと成ります。
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