47 フィリア・オブリビオンの感情の魔法
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記憶の再生は終わり、ロスティの手にはカイルの記憶を封じ込めた追憶石があった。
それを渡され、アルベルト様が記憶を見た後、追憶石をカイルへ返す。
記憶が主へ戻る。その様を見届けた後、アルベルト様はカイルへ蒼玉の瞳を向けた。
「……僕はこんな事を望んでいない」
「分かっております。望んだのは俺なのです」
言葉は短い。自らの罪が暴かれたと悟ったのだろう。セルヴィスがクライン様を見る。
「全てお話いたします」
「……そうか。これまでの忠義ご苦労だ」
二人の殿下の言葉を見届け、私は司法局長を見上げる。
「司法局長、ここに全ての罪は暴かれました。これでもロスティ・メモワールに罪があると言うのですか?」
たった今得られた証拠に司法局長がガベルを振るう。
「よろしい。ロスティ・メモワールへ罪を強要した犯人は見つかった。彼女は自らの意思ではなく強要され記憶簒奪を犯した。この証拠を受け入れます」
だが、と司法局長は言葉を続ける。
「無許可の記憶簒奪は死罪相当の罪が適用されます。他者に強要された事を考慮し、減刑したとしても終身刑相当と成りましょう」
分かっていた。これがこの国の法だ。今、法を改正する事は叶わない。
私はアルベルト様を見る。殿下の力を使えば、もしかしたら、と期待する。
だが、駄目だ。司法局長の判断にアルベルト様は口を挟めない。
アルベルト様は王ではない。司法局への権限を持っていないのだ。
「……終身刑」
誰も声を出さない裁判所でポツリと漏らした私の声が大きく響く。
「それだけ、なのですか?」
「はい。現行の法に従う限りは」
司法局長の眼は揺るがない。こちらを貶める意思はそこから感じられない。
ただひたすらに自身の業務を遂行しているだけだ。
分かっている。分かっているけれど、
「彼女は利用されました。誇りとしていた記憶魔法で罪を犯させられました」
繋ぐロスティの手に力が入る。
「捨てられました。人生を壊されました。それでも、裁くのですか?」
一度、司法局長は眼を細め、変わらぬ調子で言葉を告げた。
「法は感情で動いてはならないのです」
もう一度アルベルト様を見る。彼の方はやはり何も口を挟まなかった。
落ち着かなきゃと思うのに、腹の奥から湧き上がっていく感情が叫ぼうとしていた。
「あなた達は、皆様は、何も知らなかったのですか?」
聴衆達へ体を向ける。私の動きに僅かなざわめきが起こった。
「シュバルシア領での領主、シーロリオ領での異国の使者、ロスティ様は他にも多くの罪を犯していました」
貴族の世界は狭くて深い。誰かの弱みは風の様に伝わっていく。
文官長の力だけで罪を隠し通せる物ではない。
「本当に、誰も、ロスティ・メモワールの罪を知らなかったの?」
眼を見開いて彼らを睨む。
聴衆達の感情が私へ流れて来る。
困惑、疑念、後悔、逃避、焦り、罪悪感。
それらの感情の中で、眼を逸らす者や冷や汗を垂らす者達が居た。
「誰かは知っていた。誰かは噂を聞いていた。誰かは見て見ぬふりをした。そして、誰一人止めなかった」
断定する様な問いが口から出た。
「酷い、ひどい、事よ。あなた達がした事は」
そもそもこの裁判を見に来た事、招待に応じた事がおかしいのだ。
わざわざこの裁判を聴衆する理由が彼ら彼女らには無い。
でも、来たのだ。ロスティ・メモワールの破滅を見たいと思ったからだ。
自分達を苦しめた悪役令嬢の破滅を見たいからこの場に来た。
「ロスティ様の罪を知っていた筈なのに」
誰かが見て見ぬふりをしたのに。
「ロスティ様を救えたかもしれないのに」
誰もが見て見ぬふりをしたのに。
「なのに、破滅だけは見ようとするの?」
これは八つ当たりだ。私はロスティ様の罪に気付けなかったし、あの人を救えなかった。
「……フィリア様」
ロスティの手が強く私の手を握った。
「もう、良いんです」
手からロスティの感情が伝わる。
「本当に、もう、良いの?」
分かっているのに私は聞き返す。紅玉の瞳は真っ直ぐにこちらを見たままだ。
「そっか」
私はロスティの手を強く握り返した。
「なら、私も、〝もう良い〟や」
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