↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/50

44 罪人の告発

「私を通して触れた追憶石は感情ごと記憶を再生します。彼女は心の中で記憶簒奪を拒否していました。彼女は犯したくもない罪を一族の為に無理やり犯していた証明に成る筈です」

「その報告書は読んでいる。フィリア・オブリビオン、あなたを通して再生された追憶石の記憶は当時の感情すらも再生されると。そして、再生された記憶の中で、ロスティ・メモワールは記憶簒奪を拒否していたとも」

「それなら──」

「──しかし、あなたの魔法は法の場で証拠として扱えると証明されていない」


 司法局長が告げる。メモワール家の追憶石は法の場で証拠として扱えると証明されている。

 だが、私の魔法は違う。フィリア・オブリビオンに生まれてしまった特異な魔法。司法局へその効力を示した事も無い。


「追憶石の感情が嘘だと言うのですか?」

「嘘だとは言いません。真実として扱えないと言っているのです。あの感情はあなたが改竄した物である可能性を捨てきれません」


 そんな器用な事を私はできない。

 そんな事ができたのなら、心狂いと呼ばれていない。

 私にできるのは自分の感情をただ相手にぶつける事だけだ。


 しかし、それを言っても意味が無い。事実だけがこの場で意味を持つ。

 私はアルベルト様を見る。蒼玉の瞳は怜悧に細められたままで、助け船を出してくれる様子は無かった。


「フィリア様」

「分かってる」


 追憶石を持つ私の手をロスティが握った。

 私とロスティは知っている。どれ程の絶望にロスティ様が囚われていたのかを。

 だが、それは今この場において証拠には成らないのだ。

 であれば、次の言葉を吐くしかなかった。


「……ロスティ・メモワールを脅迫した犯人を指し示します」


 一瞬、シンと部屋が静まり返った。その後、すぐに聴衆達がざわめき出す。

 言ってしまった。もう取り返しがつかない。

 バベルの魔水晶は濁っていない。

 それを認めた後、司法局長がガベルを振るい、傍らの魔光紙へ私の発言が記録された。


「それは新たな罪人を告発するという事ですか?」

「はい。その通りです」


 ロスティの手が震えていた。いや、震えているのは私の手かもしれない。

 言葉は取り消せない。魔法紙にはもう記録されてしまった。


 聴衆のざわめきが収まらない。

 期待、興奮、驚愕が混ざった感情が纏わりつく様に伝わってくる。


「よろしい。では、新たな罪人の告発を」


 司法局長が許可を出す。会場中の視線が私達に集まった。

 心臓がうるさい。今から私はロスティ様へ罪を犯させた犯人を示さなければならないのだ。


「順を追って説明させていただきます」


 言葉も、そしてそれを言う順番も間違えてはならない。


「まず、紫の追憶石の記憶についてです。ロスティ・メモワールが呼び出され、命令を受けた場所は王城でした。彼女は王城をしばらく歩かされ、何処かの部屋に入りました。これは犯人が王城に入り込める身分の人間である事を意味しています」

「よろしい。主張を認めます」


 声が震えていないかが不安だ。私の手を握るロスティの体温だけが頼りだった。


「次に、紅の追憶石について。ロスティ・メモワールはシュバルシア領の領主から奉納する筈だった魔石の生成方法を奪っています。魔石は他国との戦争や魔物との討伐に必須の生産物です。この記憶簒奪には国の兵力を弱体化させる意図が感じられます」

「横暴な論理の飛躍ですが、良いでしょう。解釈として大きくはずれてはいません」


 頭の中はいっぱいいっぱいだ。

 少しでも気を抜けば話すべき内容が飛んで行ってしまいそう。

 ああ、そうか。ロスティ様はずっとこんな怖い場所で悪役令嬢を演じていたのか。今更ながらに私は理解した。


「蒼の追憶石では他国の国力に関わる記憶を奪っています。穀物の生産量、国の権力争い、その国の魔石不足。これらの情報を使えば、リムナント王国は政治的に優位な交渉ができます」


 アルベルト様とクライン様を見た。二人の王子は態度を変えない。黙って私の言葉を聞いている。


「翠の追憶石の記憶を見てください。メモワール家へ記憶簒奪を強要していた者を、ロスティ・メモワールの父であるクロニク・メモワールは、〝上〟、と表現しました。メモワール家はこの国でも高い地位の貴族です。それよりも上の地位を持つ者はそう多くありません」


 息が上手く吸えているのか分からない。

 だけど、口から出ている言葉はまだ言葉の形を為していた。


「そして、金の追憶石。ロスティ・メモワールはカーラ・シャーマニアに自身へ破滅の呪いを掛けさせました。そして、自分の罪をしたためた手紙をアルベルト様へお書きに成っています。今回の一連の騒動は彼女によって計画された事を意味しています。彼女は自身の破滅を万全にするために呪いを掛けたのです」

「了承しましょう。確かに今回、ロスティ・メモワールの罪が暴かれたのは彼女自身の告発による物でした。アルベルト様より提出された手紙と記憶の中の手紙は筆跡を含めて一致しています」


 司法局長が私の発現と魔光紙の記録内容を見比べ、こちらの主張を認める。

 会場のざわめきは大きくなっていた。

 深く息を吐く。肺が呼吸の仕方を忘れたみたいだった。


「情報をまとめさせてください。ロスティ・メモワールへ記憶簒奪を強要した犯人は、①王城に入り込める人間で、②メモワール家よりも高い地位を持ち、③リムナント王国の兵力を減退させ、④他国との政治戦を有利に進めたい人間です」


 私はもう一度、アルベルト様とクライン様を見た。アルベルト様は表情を変えていなかったけれど、クライン様は考え込む様な動作を見せている。


「後者二つが大事だと私達は考えます。リムナント王国の兵力を減退させたいのに、他国との政治は有利に進めたい。これをして得をするのは王城のどの派閥でしょうか?」


 言い換えるならば、


「魔物や隣国との戦争を担う武官の力を減退させ、他国との交渉を担う文官の力を増幅させる。得をするのはどなたでしょうか?」


 大きなどよめきが起きた。観衆の眼がある二つの方向へ注がれる。

 一つはアルベルト様、もう一つはクライン様だ。


「アルベルト様とクライン様、お二人はそれぞれ武官と文官からご支持を受けています。ロスティ・メモワールが犯した罪によって得をするのはどなたでしょうか?」


 息を大きく吸う。ロスティの手を強く握り返した。

 そうだ、告げなければならない。

 誰が、ロスティ様を貶めたのかを。

 人差し指を伸ばし、私はその者へと向けた。


「犯人はあなただ。セルヴィス・トールギス」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もし「面白かった」「続きが気になる」と思ってもらえたなら、ブックマーク、評価、感想等をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。