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43 裁判


 裁判当日。


「これより、ロスティ・メモワールの裁判を始める」


 私とロスティの前で司法局長がガベルを振るう。机を叩いたそれは魔法を発動し、部屋を魔力の波動が包んだ。

 逃亡を阻む魔力壁だ。司法局長の意識がある限り、何人もこの部屋から出られない。


 期待、興味、嘲り。感情が私達に刺さる。

 周りを見れば、聴衆の眼がある。それらは罪人服で首輪を嵌めたロスティへ注がれていた。

 記憶探しで関わった人達の姿がある。

 アルベルト様とカイルは武官に囲まれ、クライン様とセルヴィス様は文官に囲まれている。

 二人の殿下を囲む様にして王侯貴族の面々が立っていて、端には私の父や拘束されたロスティ様のお父上も居た。


 カンカンカン。ガベルが音を鳴らす。

 司法局長が私達を見下ろし、静寂の中で口を開いた。


「被告人、ロスティ・メモワール、前へ」

「はい」

「続いて、弁護人、フィリア・オブリビオン、前へ」

「はい」


 ロスティと共に私は一歩前に出る。空気が緊張し、聴衆達の息遣いすらも耳に届いた。


「ロスティ・メモワール。あなたには王侯貴族の記憶簒奪の罪が告発されている。本裁判はその罪の裁定を下すための物である。この理解に相違は無いか?」

「ありません」

「フィリア・オブリビオン。あなたはロスティ・メモワールの罪を弁護するためこの場に立っている。そして、あなたは正規の手段ではなく弁護人を引き受けた。この国の法に従い、ロスティ・メモワールの罪が確定した時、あなたにも相応の処罰が下される。それを理解しているか?」

「理解しております」


 ロスティの罪は私の罪だ。それくらいの代価を支払わなければ私はこの場に立てない。

 一度だけ、父の方を見た。父の眼が私から逸らされる。

 一昨日、オブリビオン家から正式な絶縁状が届いていた。もしも私が罪人に成ったとしてもオブリビオン家にはもう何も関係が無い。この人が来たのは当主としての義務感からだろう。

 絶縁された事に心は動かない。初めから分かっていた事だ。

 ロスティ様の罪と向き合う事だけを私は考える。


「よろしい。では、まず初めに、告発された罪について述べる」


 司法局長は魔光紙を広げ、ロスティ様の罪を良く通る声で読み上げる。

 罪を告げる声はきっとロスティ様がアルベルト様へ告発した自身の罪のリストから作られている。

 私達がまだ知らない罪がいくつもあって、知ってしまった罪もいくつかあった。


「──以上、これらの罪は真実であるか?」


 司法局長が問い掛ける。その傍らにはバベルの魔水晶がある。

 嘘は通じない。誤魔化しは無意味。

 大丈夫だ。私達は真実を語る為、ここに居る。

 ロスティは背筋を伸ばしたまま、一度強くまばたきをした。


「……いくつかの罪について今のわたしには記憶がございません。しかし、わたし、ロスティ・メモワールが記憶簒奪の罪を犯した事は事実です」


 魔水晶は濁らない。わずかに聴衆がどよめく。


「次にフィリア・オブリビオン、今のロスティ・メモワールの発言に弁護はあるか?」


 ロスティの手が罪人服の裾を少しだけ強く握っていた。

 少し息を吸って、私はロスティ様の様にお腹へ力を入れて声を出す。


「確かにロスティ・メモワールは無許可での記憶簒奪を行いました。しかし、それらは自身の意思による物ではございません。彼女は外部から強要され、記憶簒奪を行ったのです。この魔石をご覧ください」


 白、紅、蒼、翠、紫、金、黒。七つの追憶石を手袋越しに掲げる。

 記憶探しの旅で集めた七つの魔石が裁判場の光を反射する。


「これらは追憶石と呼ばれる物です。舞踏会の日、ロスティ・メモワールは自身の記憶を封じ込めたこれらを各地へ飛ばしました」


 お前達も見た筈だ。掲げた追憶石を聴衆達にも見せる。

 七つの追憶石は少し重かった。ちゃんと掲げたいのに、指先が震えてしまう。


 震えを誤魔化したくて声を一段強くした。


「この三十日間、私達はロスティ・メモワールの追憶石を探し、その記憶を調べました。彼女はメモワール家を人質に取られ、記憶簒奪の罪を強要されていたのです」


 魔水晶は濁らない。私の言葉が嘘ではないと伝わった筈だ。

 追憶石の内容は既に司法局へ提出されている。

 静かに資料へ目を向けた後、司法局長がこちらへ視線を戻した。


「フィリア・オブリビオンの言葉を一部認める。ロスティ・メモワールは何者かから脅迫され、記憶簒奪の罪を犯していた」


 再び聴衆がどよめいた。先ほどよりも大きい。

 私達がロスティ様の記憶を探していた事実が今初めて明かされた。


 あの心狂いが?

 記憶簒奪の強要とはどういう事だ?

 誰がやった?


 口々に聴衆達が声を出す。

 カンカンカン! その声を区切る様に司法局長のガベルが鳴った。


「しかし、ロスティ・メモワールの罪は消えない。これらの記憶は同時にロスティ・メモワールが罪を犯した証拠だからだ」


 奥歯を噛む。その通りだ。追憶石はロスティ様が罪を強要された事だけでなく、彼女が記憶簒奪を行った事も証明してしまっている。


「ロスティ様は無理やり魔法を使わされたのです。それを罪とは裁けないはずです」

「否。追憶石の記憶の中でロスティ・メモワールが記憶簒奪を拒んだのはただ一度、実父から要求を受けた時だけだ。それ以外の記憶の中でロスティ・メモワールは淡々と罪を犯している。始まりが脅迫であったとしても、ロスティ・メモワールが途中から自主的に記憶簒奪を実施した可能性は消えていない」

「っ」


 追憶石の記憶が脳裏に駆け巡る。司法局長の言葉は正しかった。

 実父、クロニク・メモワールとのやり取り以外で、記憶のロスティ様は一度も記憶簒奪を拒否していない。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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