42 夜空と黒髪
*
「……それが最後の追憶石か?」
「ええ、黒幕に繋がる情報は無かったわ」
朝、部屋を出てカイルへ黒の追憶石を渡す。彼は言葉通り一晩中部屋の外に居た様だ。
「で、どうするんだ? もう追憶石は終わりなんだろ? このまま裁判を待つか?」
「うん。もう記憶探しは終わり。でも、裁判の前に一つ頼みがあるの」
カイルを私は見る。思えばこの記憶探しの初めから終わりまでこのホウキ兵は良く付き合ってくれた。彼の鎮静魔法が無ければ、私は何度も魔力を暴走させていただろう。
「カイル、王城に行かせて」
「王城に? どうしてだ?」
カイルの質問に答えたのはロスティだった。
「最後に王城を歩かせて欲しいんです。何か見落としがある気がして」
銀髪を揺らしてロスティが言う。何処か確信を持った光が紅玉の瞳にはあった。
しばらくカイルは答えなかった。顎に手を当てて少し考え込み、少ししてから口を開いた。
「それは、真相を知るために必要なんだな?」
「きっと」
「分かった。良いぜ。許可してやる。早速今から行くか」
「ありがとう、カイル」
「良いさ。アルベルト様からお前達を手伝う様に言われてる」
ホウキの準備をしてくる。そう言い残してカイルが外へ向かう。
その背を見送った後、私はロスティの手を握った。
「……これで良いのね」
「はい。これで全部分かります」
手から伝わる感情は、不安と少しの恐怖。
それで十分だ。私達は行かなければならない。
「良し。行きましょう」
「はい。行きましょう、フィリア様」
手を繋いだまま私達は寮を出る。
この場所に戻ってくる事はもう無いかもしれなかった。
*
半日かけてホウキを走らせ、私達は王城に着く。
昨日、私から溢れた魔力の泥は全て排除され、白石の床が綺麗に光っている。
「わたしを先に歩かせてください」
「ああ、分かった。やってみろ」
ホウキ乗り場を降りて、ロスティが前を進む。
ロスティ、私、カイルの順で王城を歩いた。
ロスティが選ぶ道筋はとても奇妙だった。
右に曲がり、後ろに下がり、上に登り、下へ降り、元来た道を引き返し。
ただ無茶苦茶に歩いている様にしか見えない。
だけど、何かをずっと考える様に真剣な顔をしていた。
道中、ロスティはずっと無言だった。
とても長い間歩いた。その間誰も声を出さない。
カツンカツンと、光を反射する床が私達の足音を吸い込んでいった。
日が落ちた頃、私達はまたホウキ乗り場へと帰って来た。
「……もう良いのか?」
「はい。もう十分です」
カイルの問いにロスティが答え、そのまま私を見た。
「フィリア様」
ロスティが私の手を握る。魔力を介したのだろう。感情だけでなく、その記憶が私に流れ込んだ。
私も理解する。確かに、もうロスティには全てが分かっていた。
「カイル、アルベルト様に伝えて。私達の準備は終わったって」
「司法局との裁判までまだ四日ある。本当にもう良いのか?」
「……良いの。もう、分かったから」
カイルが「そうか。分かったのか」と呟いた。
「アルベルト様に伝えてくる。そうなったらお前達は直ぐに捕まる。最後に何かしなくて良いのか?」
「なら、私達を二人にして。ここで待っているわ」
「お願いします、カイル様」
短く頷いて、カイルがアルベルト様の元へ向かう。
誰も居ないホウキ乗り場で私とロスティは二人きりに成った。
「……一緒に追憶石を探してくれて、ありがとう」
「わたしの記憶を見つけてくれてありがとうございました」
夜空を私は見る。短くなった黒髪にも慣れてしまっていた。
ロスティの手を握り返し、私はロスティ様の事を思う。
独りで決めて、独りで破滅してしまった悪役令嬢の事を思う。
銀の星々を見つめたまま、呟くように私は言った。
「……この記憶探しを、ロスティ様の破滅を、私達で終わりにしましょう」
「はい。一緒に、最後まで」
それで言葉は最後で、私達は二人でただ夜空の星を見上げた。
そして、私とロスティは司法局から拘束された。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次の話よりとうとう裁判が始まります。
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