41 あなたの我儘
***
光は消え、私達は元の世界に帰ってくる。
「ひどい、こんなの、ひどい。諦めないでなんて言わないで」
また、瞳から涙が溢れた。胸の奥から感情が溢れて来る。
叫びたくなる様な悲しみと怒りの中で、私は黒の追憶石を握り締める。
頭の中で記憶が再生され続けた。
舞踏会の前夜、眠る私のすぐ横でロスティ様は最期の時を過ごされていたのだ。
眼の奥から涙が溢れる。胸の奥がカァッと熱くなる。
今、私はロスティ様に怒っていた。
「……ロスティ・メモワールはフィリア様を選んだんです。フィリア様ならば、記憶を探し出してくれると、きっと黒幕を見つけ出してくれる筈だと」
選んだ、とは何だ?
信じた、という事か?
死に等しい忘却の、後始末を任せるという事か?
ふざけないで。
一緒に破滅して。ただ、一言そう言ってくれればいくらでも頑張れたのに。
あの人はその言葉を吐かずに、勝手に自分だけ破滅してしまった。
裏切りだ。何故、私を連れて行ってくれなかったのですか?
怒りと悲しみが私の中を駆け巡る。
その記憶は触れ合うロスティにも伝わっている筈だ。
「……今思っている事を、言ってください。全部、わたしに吐き出してください。きっと、それが必要なんです」
「っ」
弾かれた様に私は追憶石ごとロスティの頬を掴んだ。
「何であの人は私を頼ってくれなかったの!? ねぇ! あなたなら分かるんじゃないの!?」
「言ってくれれば私は何でもやった! あの人の地獄に付いて行った! あの人の破滅のお供をした! なのに、なのになのに! 何であの人はたった一人で全部決めちゃったのよ!?」
「おかしいでしょ!? あの人だけが破滅するなんておかしいじゃない! あの人はずっと頑張って来たのに、それが何にも報われなくて、今のあなたに成っちゃった! そんなの、そんなのって無いよ! ふざけないでよ!」
堰を切った様に私の喉から声が流れた。息がロスティへかかる。
激昂にロスティは何も言わない。ただ、瞳に私を映すだけ。
紅玉の瞳に映るのは夜の髪をした女の姿は感情的で、一番嫌いなフィリア・オブリビオンの姿だった。
一体どれ程叫んだだろう。喉が痛くて、息が荒げた頃、熱い涙が枯れ果てた。
「ロスティ様、何で一人でやっちゃったの? 後始末だけ任せるなんて、酷いですよ」
ロスティごとベッドに仰向けに倒れ、黒の追憶石を掲げる。
初めて私はロスティ様に激怒していた。
辛かったのなら言って欲しかった。
きつかったのなら頼って欲しかった。
苦しかったのなら吐き出してほしかった、
だって、ロスティ様がおっしゃったのだ。
「私は、あなたの、友達だったんでしょう?」
あの人は私をたった一人の友達だと言って、だから私に後始末を任せた。
それは決して可愛らしくない我儘だ。
けれど、ロスティ様が初めて自分の為に言ったかもしれない我儘でもあった。
大きな息が喉を通る。
なら、仕方が無かった。
私はロスティ様の友達なのだから。
「ねぇ、白の追憶石を出して」
「こちらです」
隣でロスティが白の追憶石を掲げる。その石はもう光らなかった。
「……この黒の追憶石が最後なのね?」
「はい。これが最後の追憶石です」
ロスティが言う。もうこの記憶探しは終わりだと。
ロスティ・メモワールが黒幕を見つけようと遺した記憶はこれで全部だと。
「ねぇ、一緒に考えて。誰が黒幕なのか」
「ええ、喜んで、フィリア様」
ロスティを見る。その顔は強く頷いていた。
「私達で、ロスティ様の願いを叶えるのよ」
「はい。わたし達で黒幕を見つけましょう」
たった一人の友達が初めて言った我儘だ。
それがどんなにふざけた物でも、聞いてあげなければ。
そうじゃなければ、私の友達が報われないのだ。
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