40 黒の追憶石
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明日の舞踏会が楽しみですね。
フィリアそう言って向かいのベッドで眠った。
穏やかな寝息が聞こえた後、彼女を起こさない様に、わたくしはゆっくりとベッドから降りる。
「……やっぱり、あなたの髪は綺麗ね」
足音を消しながら近寄って、眠る彼女の髪を見る。
この髪を梳かせてもらえるのに随分と時間が掛かった。夜を吸い込んだ様なこの髪がわたくしは好きだった。
明日、舞踏会がある。アル様の記憶を奪えと命令され、その命令を裏切る日だ。
告発の手紙はもうアル様に届いている筈だ。あの方はとても優秀だから既にわたくしが罪を犯した証拠は揃えているだろう。
どうなるにせよ、わたくしはもう破滅だ。カーラの呪いはこの身に刻まれている。
今この時が、わたくしがわたくしとして過ごす最後の夜だった。
「起きないでね」
フィリアのベッドに腰かけて、その黒髪を撫でる。
この子の記憶の中でロスティ・メモワールはとても気高く美しい人だった。
そうありたいと願った理想の姿を、この子はわたくしに見てくれている。
「わたくしは、そんなに上等な人間じゃないのよ」
フィリアはわたくしを助けようとするだろう。わたくしの事が大好きだから。
それくらいは分かる。それくらい一緒に過ごしてきた。
でも、この子ではわたくしを助けられないし、わたくしは助かってはならない。
わたくしは破滅する。わたくしがロスティ・メモワールを破滅させる。
その破滅をもって、わたくしの誇りを貶めた者達へ復讐するのだ。
フィリアは悲しむだろう。また絶望に囚われてしまうかもしれない。
復讐の為に、わたくしはわたくしの事が大好きなこの子を傷つけるのだ。
「ごめんね、フィリア。わたくしは最後まで誰が黒幕か分からなかった」
調べられるだけ調べたけど、誰がわたくしに、メモワール家に記憶の簒奪を命じたのか分からないままに舞踏会の前夜を迎えてしまった。
時間切れだ。後はもうこの子と次のわたくしに託すしかない。
「明日ね、わたくしはわたくしの記憶を追憶石にするの」
明日、わたくしは追憶石を空へ飛ばす。黒幕に関係がある筈の場面をできる限り完璧に取り出した記憶の魔石だ。それらを黒幕と関係がありそうな場所へ送るのだ。
「わたくしだけじゃ記録の再生に成る。あなたが居ないと再生に成らないの」
追憶石の記憶を記憶として再生するには、感情の魔法使いであるこの子の協力が必要だった。
「巻き込みたく、無かったんだけどね」
付いて来てと言えば、地獄を一緒に歩いてくれただろう。この子はわたくしの事が大好きだから。
でも、それは気高いロスティ・メモワールがする事では無い。
だから、わたくしがこの子に頼れるのは破滅の後だけなのだ。
「もっと、楽に成りたかったわ」
夜の黒髪を撫でる。この感触を次のわたくしは忘れてしまうのだ。
「お願い、フィリア、どうか、あなたが真相を見つけて」
もう片方の手でわたくしはこの記憶を封じ込めた追憶石を作り出す。この子の髪と同じ、夜を吸った様な黒晶の魔石を。
「たった一人の、わたくしの友達。最期に我儘を聞いて」
この記憶もわたくしは明日には忘れてしまうのだ。
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