04 私の悪役令嬢は記憶喪失
次の瞬間、ロスティ様を彩っていた宝石達が流星の様に弾けた。
結界を抜け、窓を割り、稲妻の様な軌道を描きながら夜空へと消えていく。
「ロスティ!」
アルベルト様の叫びは夜に吸い込まれた。私は縋った手を伸ばしたままだ。
星となる宝石を誰も掴めない。
そして、ロスティ様の身体から、力が抜ける。パタリと糸が切れた人形の様に白描の床に倒れた。
「ロスティ、様?」
震える視界の中、私はロスティ様へ近づき、そのお体を抱き上げた。
「ねぇ、ロスティ様、ねぇ」
私の黒髪がお顔に掛かる。ロスティ様は何も反応してくれなかった。何も言わず、何も示さず、力強かったその眼から光が消えている。
「……一体、何が?」
誰かが、震える声で呟く。ああ、きっと今ロスティ様が何をしたのか理解していないのだ。
カラン。力が抜けたロスティ様の右手がゆっくり開く。
そこにあったのは白い宝石。まるで誰かに渡したかったみたいにその手から落ちた。
「何、これ」
私はほとんど無意識にその宝石を拾い──
──その瞬間、頭の中へ記憶が流れ込んだ。
『ごめんなさい』とロスティ様が誰かに頭を下げている。
『ありがとう』と誰かの礼をロスティ様が聞いている。
砕かれた宝石。何かが笑う音。夜星の下を飛ぶロスティ様。
断片的な映像と音声だ。だけど、その感情が私には分かる。
そこにあったのは絶望だった。
私は震えながら腕の中のお人へ問い掛ける。
「何、なんですか、ロスティ様? あなたに一体何があったんですか?」
けれど、もうロスティ様は答えてくれない。
結界魔法が割れる音がして、ホウキ隊とアルベルト様がこちらへと駆けてくる。
手遅れだ。
今、私が拾ったのは追憶石。
込められたのはロスティ様の記憶そのもの
ああ、つまり、
ロスティ・メモワールは記憶を失ったのだ。
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