03 メモワール家の記憶の魔法
「え」
初め私は分からなかった。ただ、この光が何であるのかを知っていた。
だからこそ、今ロスティ様が何をしているのかが理解できなかった。
淡い光は星の瞬きの様にその姿を変え、無数の色に分かれて煌めいた。
紅、蒼、翠、紫、金。
数えきれない程の宝石達が、泡の様にロスティ様から溢れ出す。
「メモワール家の記憶の魔法……?」
会場の誰かが呟いた。
そうだ、これはメモワール家の秘奥、記憶を象る宝石、追憶石の生成、ロスティ様の魔法だ。
「ロスティ、止めろ!」
アルベルト様が左手の魔石の指輪へ魔力を込め、光輪がロスティ様を止めようと放たれた。
「リメンバー【アルベルト】」
しかし、アルベルト様が放った光輪へ、ロスティ様もまた全く同じ光輪を放ち、相殺する。
「リメンバー【カーラ】」
同時にロスティ様を拘束していた光輪が解呪の魔法を浴びてパリンと割れた。
「カイル!」
「分かってます!」
ホウキ隊がロスティ様へ急降下する。速度に躊躇いは無い。ホウキをぶつけてでもロスティ様を止める気だ。
「ロスティ様!」
ロスティ様が怪我をしてしまう。そう思った。無意識に、私はロスティ様の前に体を入り込ませ、魔石の杖を掲げる。
けれど、私が魔法を使う前に、ロスティ様は次の魔法を使っていた。
「リメンバー【シルヴィア】」
それは結界の聖女の名前。ロスティ様は私ごと包む様に聖女の結界を発動する。
「っ!」
外敵の侵入を排除するシルヴィアの結界。ただの突進では破れぬと悟ったのだろう。ホウキ隊が結界の前で急停止する。
「オーホッホッホッ!」
そして、ロスティ様の高笑いが会場に響き渡った。
そのお体から産まれる記憶の宝石達がロスティ様を煌めかせる。
「ロスティ!」
アルベルト様が右手を突き出した。
会場が狼狽する。その右手の指輪には壊滅の魔石があるからだ。
この国で最強の魔法。聖女の結界だって破れるだろう。扱いを間違えればこの会場ごと壊滅してしまう。
「お止しになってアル様」
ピシャリと、アルベルト様を止めたのはロスティ様の声だった。
「今、わたくしはとっても気分が良いの。ええ、本当に気分が良いのよ」
ロスティ様が宝石と共にクルリと回る。
声は確かに楽しそうだ。顔は確かに晴れやかだ。
けれど、私の胸にあるのは恐怖と絶望だけだ。
「ああ、もう、本当に、愉快な気分だわ」
歌い手の様にロスティ様がアルベルト様へ手を向ける。
「ロスティ、今すぐその魔法を止めろ」
アルベルト様の言う通りだ。
そうだ。止めなければ。追憶石の生成を自分に使うなんて狂気の沙汰だ。
だけど、私は知っている。ロスティ様はこの様な時、止まってくださる方ではないのだ。
ならば、誰が止められる? この聖女の結界の中で?
答えは一人しか居なくて、それは私、フィリア・オブリビオンだった。
「ロス、ティ様、お願いです。その魔法を止めてください」
震える杖をロスティ様へ向ける。だけど、ロスティ様のお声は変わらなかった。
「フィリア」
ロスティ様と目が合う。傲慢で優しい紅玉の瞳が私を射抜く。
私はロスティ様の為に魔法を使うと決めたのだ。それをロスティ様へ向けたくない。体が勝手にそう思って魔石の杖から魔力が抜ける。
記憶の魔石が無数の光となってロスティ様を彩った。
綺麗だ、と思った。ロスティ様の魔法はいつも綺麗だったから。
「オーホッホッホッ!」
そして、ロスティ様が高らかに腕を上げ、舞踏会の面々へ胸を張った。
やめて、と声が出なかった。ロスティ様の絢爛たる笑い声が会場に響く。
足が動かなかった。
紅、蒼、翠、紫、金。
宝石の一つ一つが眼を眩ませる程に美しい。
「それでは皆様、ロスティ・メモワールはお暇をいただきますわ」
追憶石が記憶を見せる。
ロスティ様の記憶だ。楽しかった事、悲しかった事、嬉しかった事、苦しかった事。
歩んできた日々の全てがロスティ様を彩り輝かせている。
最期にロスティ様と眼が合った。同じ結界の中に居たからだろう。ただそれだけの理由なのだ。
杖を落とした私は縋る様にロスティ様へ手を伸ばす。
「ごめんね、フィリア」
それだけ言ってロスティ様はまた前を向いた。視線の先に居るのはアルベルト様だ。
「ロスティ、止めろ」
アルベルト様のお言葉にロスティ様は晴れやかに笑った。
「ごきげんよう」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし「面白かった」「続きが気になる」と思ってもらえたなら、ブックマーク、評価、感想等をよろしくお願いします!




