02 記憶簒奪の罪
確かにロスティ様には敵が多い。言葉は苛烈で誤解される事もある。
けれど、罪を犯す様なお方では無かった。
「アルベルト様、お聞かせくださいませ。わたくしの罪とは何でしょうか?」
光輪に体を締め上げられ、額に脂汗を流しながらも、ロスティ様の態度は変わらない。
アルベルト様が右手を挙げる。瞬間、窓から舞踏会へ王国ホウキ隊の面々が現れた。
「カイル、魔光紙を」
「こちらです」
ホウキ隊の中、隊長服を着た男からアルベルト様が一枚の紙を受け取る。紙はホウホウと光っていた。あれは魔光紙だ。王国が公的文書だけに使う特別な紙だった。
「この魔光紙に使われる魔液は王国特製。何人たりとも書き換えは不可だ」
司法局の文字はこの国の法において絶対の意味を持つ。それが今アルベルト様の手にあった。
魔光紙に書かれた文章をアルベルト様が読み上げた。
「ロスティ・メモワール、君は王侯貴族へ無断で魔法を行使し、その記憶を簒奪した。ここには現時点で確認できている数十件の被害リストが記されている」
会場が大きくざわめいた。今の言葉はただ言っただけでは許されない。
記憶魔法。メモワールの一族が持つ固有の魔法。ロスティ様は歴代最優の記憶魔法の使い手だった。
記憶魔法の無断での他者への行使は重罪だ。王侯貴族への記憶簒奪とも成れば、死刑さえもあり得る。
それが確認できただけでも数十件?
「あり得ません! ロスティ様がその様な事をする筈がありません!」
「フィリア・オブリビオン、下がりたまえ。今ここは君の話を聞く場ではない」
「確かにロスティ様はアルベルト様のご存じの通り、悪役令嬢と称される程のお人です! けれど、ロスティ様は気高いお方です! 記憶魔法を悪用するお方ではございません!」
魔石の杖を強く握る。アルベルト様も分かっているはずだ。
なのに、その怜悧な蒼玉の瞳は細められたまま形を変えない。
「では、この魔光紙に書かれた罪状をどの様に説明する? 君は我が国の司法局が不正を犯し、ロスティ・メモワールへ冤罪をかけていると言うのか?」
「……それ、は」
蒼玉の眼が説明してみろと告げられ、私は言い淀む。
司法局は法の番人だ。それがロスティ様へ冤罪を仕掛ける?
理由が思いつかない。
ロスティ様がこの国の第二王子の婚約者だから?
それを快く思わない何者かがロスティ様を貶めようとしている?
言うのは簡単だ。けれど、証拠も無くそれをこの場で口に出してはならない。
魔光紙には罪状が書かれている。これらは司法局の人間が本当にあったと判断するに足る事柄なのだ。
「でも、だって、」
魔石の杖が震える。ロスティ様の罪を否定したいのに、私にはその材料が無かった。
「……下がりなさい、フィリア。わたくしがアルベルト様と話をしているの。邪魔をしないで」
ロスティ様の声がする。いつもならば心強い。何度もこの声に助けてもらった。オブリビオン家や学園から迫害された私をこの声は何度も勇気づけてくれた。
けれど、状況が違う。断罪されているのはロスティ様でそれを助けられる人間が居ない。
「退きなさい、フィリア。アルベルト様の顔が見えないの」
あ、と私の体は横にズレてしまって、ロスティ様とアルベルト様の視線が再び合った。
「ロスティ・メモワール。アルベルト・リムナントの名の下に貴殿へ問う。このリストに記された罪は本物か?」
「アルベルト様はどう考えているのかしら? わたくしがその様な罪を犯すとお考えで?」
「質問しているのはこちらだよ。君は答えなければならない。ホウキ兵の魔石が見えていないわけではないだろう?」
杖や腕輪や指輪に取り付けた魔石をホウキ隊は既に向けている。ロスティ様へ魔法を放つ準備はできていた。
「見くびられたものね。このわたくしにただの魔法が通じるとお考えで?」
「通じさせるさ。そのために僕が居るのだから」
最優がロスティ様であるならば、最強はアルベルト様だ。
この国が誇る最強戦力の一角。何人たりとも真正面からは敵わない。
「おしゃべりをする時間ではないよ、ロスティ。答えるんだ。罪の所在は誰にある?」
「……」
ロスティ様は黙っていた。第二王子であり、婚約者であるアルベルト様からの問いかけに。
普段ならばあり得ない。高笑いを繰り返し、数多くの舌戦と魔法戦を繰り広げて来たのがロスティ様だ。
ピシリとホウキ隊に緊張が走る。兵達がそれぞれの魔石に魔力を込めようとしていた。
「ロスティ」
それを悟ったのか悟っていないのか、アルベルト様の声が低くなる。
「君の口から僕へ真実を話せ」
その直後だった。
ロスティ様の胸元に淡い光が産まれた。
その光景を見た瞬間、私の背筋は凍り付いた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし「面白かった」「続きが気になる」と思ってもらえたなら、ブックマーク、評価、感想等をよろしくお願いします!




