38 夕暮れと銀髪
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光が消え、現実の世界が帰ってきた。
その世界は滲んでいて、私は自分が泣いているのだと遅れて理解した。
涙は止まらない。追憶石から手を離したのに、ロスティ様のお記憶が何度も頭の中で繰り返された。
「……ああ、やっぱり」
隣から声がした。ロスティは怒りと悲しみが混ざった感情で金の追憶石を見下ろしていた。
「やっぱり?」
ただ同じ言葉を繰り返す様に尋ね、ロスティがこちらを見た。
夕暮れの光を浴びた紅玉の瞳。その中に私の顔があった。
「やっぱりって、何?」
子供の様に繰り返す。でも、私にも分かっている。同じ記憶を再生したのだから。
「ロスティ・メモワールは自分で破滅を選んだんです」
「そんなの、無い。そんなのって無い」
馬鹿な言葉だ。何を言っても事実は変わらないのに、唇は愚かにも同じ言葉を繰り返す。
膝から力が抜け、私は地面に座り込んだ。
「俺も見させてもらう」
頭上でカイルが何か言って、金の追憶石に触れる。
「……そうか。あの告発はロスティ・メモワールが出した物だったのか」
しばらく考え込む様に黙った後、カイルが私へと言った。
「フィリア・オブリビオン、喜べ、これでロスティ・メモワールの罪の理由が分かった。アルベルト様を救おうと自分の罪を告発したんだ。減刑を望めるかもしれない」
言われて初めて気づく。今の記憶はロスティ様がアルベルト様を助けようとした確かな証拠だ。探していたロスティ様を減刑させられるかもしれない情報だった。
「……なら──」
──良かった。
言葉は続かない。
記憶の中でロスティ様は、この破滅は自殺の様な物だと思っていた。
分かっていたのだ。記憶を全て追憶石にしてしまえば、もう二度と元には戻れないと。
「カイル様、破滅の呪いとは何ですか?」
「カーラ・シャーマニアが掛けられる呪いの中でも特別やばい魔法だ。運命にすら干渉する呪い。これを掛けられた者は必ず破滅するって言われてるな」
そんな物を自分にかけさせた。そんな事をする様なお人では無かった筈なのに。
私はロスティ様を助けたいと思っていた。
でも、
「破滅を、ロスティ様は望んでおられた?」
なら、私がしてきた事は一体何なの?
きっと、私は絶望に包まれていた。だけど、もう感情が壊れてしまっていて、眼の奥から涙が流れるだけで、魔力の泥は溢れない。
「フィリア様」
ロスティが膝をつき、私へ視線を合わせた。
紅玉の瞳にまた私の顔が映る。それがただ辛かった。
「……これを、見てください」
ロスティが出したのは白の追憶石で、私は「え?」と声を漏らした。
「まだ、追憶石が残っています」
私達を導いてきた白の追憶石。それがまだ光っていた。
その光は強く、指し示す方角には心当たりがあった。
「次が最後の追憶石です」
わたしには分かるのだとでも言う様な強い瞳だった。
夕暮れの光を銀の髪が反射する。その美しさはロスティ様と同じだった。
「最後の記憶を見に行きましょう」
美しい紅玉の中に醜い私が居る。辛いのに目を離せない。
「何、で?」
問いかけの意味も私には分かっていない。ただ、足に力が入らなかった。
ロスティの言葉が続く。その眼にはかつて見て、今も憧れた輝きがあった。
「そうでなければ、ロスティ・メモワールの誇りが報われません」
放たれた言葉に私は息を止める。瞳からは涙が流れ続けていて視界は滲んでいたけれど、ロスティの姿だけははっきりとしていた。
「ロスティ様の、ため?」
「いいえ、ロスティ・メモワールの誇りのためです」
言葉の違いを私は理解できていない。ああ、だけれど、私がロスティ様のために何かできる事が残っているのだとしたら、それが何であっても良かった。
「立って、フィリア様」
ロスティの手が私を掴み、立ち上がらせる。
「二人で、この記憶探しを終わらせましょう」
銀の髪が揺れる。夕暮れの光を浴びたそれは美しかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
いよいよ次が最後の追憶石です。
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