25 メモライズ
「鎮まれ」
静かな命令。カイルの指輪の淡い光が当主達を飲み込む。
直後、一団は膝から一斉に崩れ落ちた。
「ぐっ……!」
「か、体が……!」
膝をついたまま、メモワール家の当主がこちらを睨む。魔法兵達も同じだ。力が抜けた体はその場から動けない。
静寂が落ち、聖女の結界が記憶石と一緒にパリンと割れる。
「……終わった、の?」
「ああ、良く頑張ったな。ちょっと見せてみろ」
当主達を跳び越えて、カイルがこちらの隣で膝をつき、私の体を数度触った。
「ったぁ」
「……骨は折れてねぇな。多分だが、内臓も無事だ。後で治癒魔法師へ連れて行ってやる。左肩の怪我も痕は残らんさ。ロスティはどうだ?」
「わたしは大丈夫です。フィリア様が守ってくださいましたから」
ジンジンと痛みの波が強くなっていく。眼がチカチカとして足に力が入らない。
「ロスティ?」
その時、私達の声が聞こえたのか、こちらを睨んでいた当主の眼から力が抜けた。
「……ああ、ロスティ! 我らの娘! そうか、無事だったのかっ!」
安堵の声だった。愛していた存在へ向ける様な、そんな声だ。
おかしい言葉だ。この場にはそぐわない言動だ。だけど、その声から伝わる感情は間違いなく喜びで、そこには愛すらも含まれていた。
「何を、言ってるの?」
痛みの中で私は当主へ問う。今、この男は何を言っているのか? 今更、娘の存在に気付いたというのか。
「待っていたぞロスティ。お前を心配していたのだ。学園での生活はどうだ? 新しい友はできたか? お前は我らの誇りだ。アルベルト様にも気に入られた。このまま精進するのだぞ」
嫌な声だ。まるで何もかもが無かったみたいな気の抜けた声。
気付けばロスティはゆっくりと一歩前に出ていた。
「待って──」
止めるべきだと心が叫ぶ。だが、痛みに縛られた体では動かない。
誰も止める事も無く、ロスティは跪いた当主の前に立った。
「ロスティ……ああ、ロスティ。我らの仕事は熟せているのだな。素晴らしい。さすが最優の記憶魔法使いだ」
当主の声は狂っている。その声をロスティはすぐ近くで浴びていた。
「……あなたは」
ロスティの声が冷たく部屋に響く。
「間違えました」
場の空気が凍る。「は……?」当主の何処か間抜けな声が響く。
紅玉の瞳がまっすぐに当主たるロスティ・メモワールの父へ向けられる。
そして、ロスティの両手がその頭を掴んだ。
「だ──」
──め。私の声は届かない。ロスティの手に魔力が集まった。
「メモライズ」
ドサリ。力を失った当主の体が倒れる音がする。
その音のすぐ傍でロスティはまっすぐに立っていた。その両手には今の今まで無かった筈の魔石が、当主の小さな追憶石が置かれていた。
「……なん、で?」
気付けば、私の口は問いをロスティへ投げていた。
今、何故、父親の記憶を奪ったのだ。
確かに私は怒っていた、ロスティ様の父親に。だって、この男がロスティ様に罪を犯させたのだ。それも親子の情を使って。
許せない。だけど、それでも、ロスティが断罪するのは違う。違うではないか。
だって、ロスティ様であったなら、こんな事はしない。
こんな断罪をロスティ・メモワールは望まない。
「ごめんなさい、フィリア様」
ロスティが困った様に笑う。その手を胸に当てながら。
私は何も言えない。何も言う事はできない。
「カイル様、こちらを。きっと重要な情報に成ります」
困った様に笑ったまま、ロスティがカイルへ当主の追憶石を手渡し、懐から白の追憶石を代わりに出した。
その瞬間、白晶の追憶石が光り出す。道標がまた一つの方向へまっすぐに光を伸ばした。
その様に、「ああ、やっぱり」とロスティが呟く。
「フィリア様、次の追憶石は第一王子、クライン・リムナント様のお部屋にあります」
声は遠い。ロスティ様の物とは全然違う。
それを聞きながら私は痛みの中で意識を手放した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし「面白かった」「続きが気になる」と思ってもらえたなら、ブックマーク、評価、感想等をよろしくお願いします!




