24 聖女の結界
***
光が消える。記憶の再生が終わる。
心臓が激しく鳴っていた。不快な鼓動だ。流れ出す背中の血も気に成らない。
今の記憶はロスティ様が罪を犯した理由だった。
メモワール家のために、実の父に縋られて、ロスティ様は死に値する罪を犯したのだ。
「何、それ? 何だ、それ?」
声が震える。そんな事が許されて良いのか。優しいあの方が、その優しさを家族に付け込まれたというのか。
バァン! その時、部屋の扉が押し開けられた。
入ってくる一団の先頭に居たのはたった今記憶の世界で見た男の顔だ。
「居たぞ! 侵入者だ、捕まえろ!」
男の、ロスティ様の父親の、メモワール家の当主の命令で背後の兵隊達が杖や魔石をこちらに向ける。
「下がって!」
魔石の杖を取り出し、私はがむしゃらに魔力の壁を生み出した。
それは一歩早かったけれど、強度が足りない。
兵隊達から放たれた魔弾は私が作り出した壁をたった数発で撃ち破る。
威嚇用か、捕縛用か、ひとまず殺傷用では無かったらしい。放たれた魔弾は私の体へ届き、ロスティごと対面の壁へと撃ち飛ばす。
「かっ!」
衝撃に肺から空気が出た。鍛える事なんてしてこなかった。弱い私の体は痛みに立ち上がる事もできず、床へと倒れ込み、左肩からの血が床へと跳ねた。
「フィリア様っ!」
声がする。ダメだ、ここで意識を絶てば、ロスティは私の目の前から居なくなってしまう。
「コ、ール・憤怒」
胸を押さえ、肺に残った空気で詠唱し、杖先から魔弾をでたらめに放つ。
ほとんどの魔弾は魔力壁に阻まれる。けれど、でたらめに放ったおかげか、一つが魔法兵の肩を掠めた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!」
瞬間、魔法兵が叫び出す。顔に血が上り、どうしようも無い怒りに襲われて。
「っ! 落ち着け!」
暴れ出した仲間を魔法兵達が抑え込む、だが、他の感情を破壊する程の怒りは躊躇いなく拳を震わせ、何名もの魔法兵の頬を打つ。
追撃を、否、逃走を。次にしなければならない事が頭の中を走り回る。だが、肺には空気が無く、体がこれ以上動かない。
憤怒の魔弾の効果は一時的だ。すぐに相手は対応する。
そうなれば次の魔弾からロスティを守れない。
「──げ、て」
枯れた声はロスティに届かない。綺麗な紅玉の瞳が私とメモワール家の当主達を交互に見た。
「フィリア様、動かないで」
そして、ロスティが胸元から何かを取り出し、床へと投げつけながら言った。
「リメンバー【シルヴィア】」
投げつけたのは追憶石。告げられたのは聖女の魔法。
瞬間、聖女の結界が私とロスティを包み込む。
私の思考が止まった。これは他者の魔法の再現だ。ロスティ様の記憶の魔法だ。
それを何故、今のロスティが──
「撃ち込め!」
私が考えるよりも早く、当主の号令で魔弾がこちらへと撃ち込まれる。威力は先程とは比べ物に成らない。一つ一つが私達を殺すのに充分な魔力が込められている。
けれど、聖女の結界は頑強だ。罅の一つも入らずに、その形を保った。
メモワール家の魔法兵達の驚愕が伝わる。記憶魔法の精度は魔法使いの練度に依存する。
目の前の聖女の結界の強さはかつてのロスティ様が再生した物と同等だった。
「なん、で?」
喉から問いが漏れる。それへロスティの声が答えた。
「……アルベルト様が持たせてくださったのです。使えるのであれば使ってみるが良いと」
何で、どうして? ロスティが記憶を取り戻したから?
そうだとして、理解できない。なぜ、アルベルト様は貴重な聖女の記憶石を罪人である筈のロスティに持たせたの?
「フィリア様、まずはお体を起こしてください」
まだ体は上手く動かない。だから、結界の中でロスティの腕で起き上がらせられる。少しだけ息が楽に成った時と同時だった。
「悪い。遅れた」
低い声と共に空気が沈む。声は扉の向こう、当主と魔法兵の超えた場所から聞こえた。
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