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26 熱に浮かされて


 裁判まで十三日。


 知らない天井があった。


「……ここ、は?」


 起き上がってみたけれど、体がだるい。背中や節々が痛くて、目の奥が塩水に浸けたみたいな熱を持っていた。

 どうやらベッドで眠っていたみたいだ。だけど、それ以外の事が分からない。


 重い頭には靄がかかっていて上手く物事を考えられなかった。

 何があった? 私は何をしていた?


 ガチャリ。額を抑えていると、扉が開く音がした。


「あ! フィリア様、お目覚めになられたんですね。良かった」


 見ると、ロスティが居た。水が入った桶と布を持っている。


「ここはメモワール家近くにあった宿屋です。あの後、フィリア様は倒れてしまわれたんです。もう、一日中眠られていました。あ、まだ寝ていてください。お医者様はもう少ししたら来ますから、肩の傷も治してもらいましょう」


 その言葉に私はメモワール家での出来事を思い出す。

 ロスティが次の目的地を告げた後、私は気を失ってしまったのだ。


「……なら、早く、次の場所に、行かないと」


 一日時間を無駄にしてしまった。この遅れを早く取り返さないといけない。

 次に行く場所は……そうだ、クライン様のお部屋にあるとロスティは言っていた。なら、まずは王城に戻らないといけない。


 けれど、ベッドから足を下ろそうとする私の体をロスティの腕が抑えた。

 腕の力は全然強くない。むしろ優しいくらいだ。なのに、押された私の体は抵抗もできずにベッドに倒れた。


「駄目です、フィリア様。今日は一日お休みになられてください。酷い熱なんです」


 ロスティがベッド脇のテーブルに桶を置き、紅玉の瞳を私に向ける。


「急がなきゃ。やっと目当ての記憶が手に入ったのに」


 ロスティ様が家に命じられて記憶魔法の罪を犯したと知った。そして、メモワール家もまた何者かに命令されていたことも分かった。

 やっとだ。やっと、ロスティ様の減刑を望めるかもしれない記憶が手に入った。

 私達は足踏みしている場合じゃないのだ。


「活力の魔石があるでしょ? それを使って。そうすれば動けるから」

「いいえ、いけません。あれは怪我を治す物ではありませんし、後で反動が来ます。フィリア様は体力の限界です。ここでお休みになられないと」

「私の体なんてどうでも良いの。早く記憶を取り戻さなきゃ」

「どうでも良くなんてありません。それに、どちらにせよ、わたし達はしばらく動けません。クライン第一王子の自室への立ち入りにはアルベルト様のご協力が必要です。今、カイル様が文でその旨をアルベルト様へお伝えしております。返事が来る明日の朝までわたし達はここで待機です」


 だから、今は休んでください。そうロスティは強引にこちらを説き伏せた。

 言葉は理にかなっている。確かにクライン様のお部屋に入るなど通常ならば不可能だ。必ずアルベルト様のご協力が要る。となればアルベルト様が段取りを付けるまで私達に出来る事は無かった。


 事実を認識した瞬間、緊張が僅かに解けた

 そして、ようやく休めるのだと体が理解したのか、急激に瞼が重くなった。


「……お眠りください、フィリア様」


 瞼の重みに耐えられない。閉じていく視界の中で紅玉の瞳はジッとこちらを見たままだった。


「ロス、ティ様を」


 熱に浮かされて頭に意識が付いていけない。

 言葉は意識の呪縛から浮き上がり、唇から勝手に出ていった。


「助け、なきゃ」


 暗闇が来る。体の感覚が消えていく。

 その中で、額へひんやりと冷たい布が乗せられる。

 それから誰かの指が、そっと私の髪を梳いた気がした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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