20 呪詛師の森
***
裁判まで十八日。
やっと西の果ての森が見えた。
迷いの森、惑いの森、呪いの森、色々な呼ばれ方をするそこは街道から外れ、人気のない丘を三つ超えた先にあった。
木々は歪に捩じれて絡み合い、空気が澱んだ森の前で私達はホウキから降りる。
「……本当にカーラに会えるの?」
「その筈だ。大丈夫だ。仮に呪われてもアルベルト様からも解呪の魔石を預かってる」
不安だけど行くしかない。ここに来るだけで随分と時間を使ってしまった。足踏みしている暇は無い。
カイルが先頭、次にロスティ、最後に私といつの間にか決まりつつある順番で森の中を進む。
整備されていない地面は歩きにくい。ホウキ兵であるカイルと比べて私とロスティの足取りは酷い物だった。
「ッ」
「あっ!」
グラリと、目の前でロスティの足がぐらついた。咄嗟に私は腕を出していてその体を支える。
「ごめんなさい。ごめんなさい、フィリア様」
「……気を付けて。転んだら怪我するわ」
弱々しく、ロスティの体温が私の腕から離れる。蒼の追憶石を手に入れてから、彼女はこうして謝る事が増えた。
今触れた時にロスティから感じた感情は悲哀や絶望、そして自己嫌悪だ。
理由ならば分かる。今まで取り戻した記憶は全て彼女が罪人である事の証明だ。
自覚も無しに自身が罪人だと告げられる。感情が落ち込むのは当たり前だった。
私の所為だ。私が記憶を取り戻すと言った。そして、記憶を取り戻してしまったからロスティはこうして目を伏せている。
責めてくれた方が楽だった。でも、それを私が望むのは卑怯だ。
ごめんなさい、とは謝れない。今もこうして私は記憶を取り戻そうとしている。そうしなければロスティ様を取り戻せない。
そして、何より、ここで記憶の回収を打ち切ってしまったらロスティを待つのは括り首か断頭台だ。
深い森の中を進む。
どの程度日が傾いたのか分からなくなった頃、唐突に木組みの家が目の前に現れた。
「どうやら、呪詛師様は俺達に会ってくれる気らしいぜ」
小さく鼻を笑わせた後、カイルが木組みの扉を叩く。
「こちら、カイル・セディリックだ。アルベルト・リムナント様からの使いである。カーラ・シャーマニア殿はご在籍だろうか、この扉を開けていただきたい」
軋む音を立てて扉が開かれる。
奥の薄暗い部屋の中央に女が居た。
緑と紫が混じった毒々しい髪、血の気の無い白い肌、灰色に濁った瞳。
「カーラ殿、我々は──」
「──要件は分かっているさ。ロスティ・メモワールの事だろう?」
見た目よりもずっとしゃがれた声でカーラ・シャーマニアが手招きをしていた。
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