10 魔石のピアス
裁判まで三十三日。
ホウキを飛ばして寮に戻り、私はクローゼットをひっくり返していた。
机の上にはアルベルト様からいただいた捜査の許可書がある。この許可書が有効である間、私はロスティ様の記憶探しができる。
許可書の有効期限はロスティ様の裁判までだ。
時間が無い。今すぐにでも動かなければ。まばたきの時間だって無駄にはできない。
窓を見る。既に日は落ちている。今日はもうロスティ様の追憶石を探す時間が無い。
夜明けと共に出発しよう。
そう決めて部屋中から使えそうな物を探し、頑張れば私一人入れそうなトランクに毛布や着替えを詰めていく。
「あの、フィリア様、」
見ないようにしていた場所から声がした。
「…………何?」
手が止まり、私はゆっくりとロスティ様のベッドを見る。
そこでは罪人姿のままの彼女が座っていて、困った様に笑っている。
帰って来た筈なのに、その表情は似ても似つかなかった。
「わたしにも手伝わせてくれませんか?」
「駄目。そこに座っていて」
「でも、わたしの分の旅支度もしているのですよね? 服を畳むくらいならば、何も知らないわたしでもできます。手伝わせてもらえませんか?」
「気にしないで。あなたはそこで座っていて。先にそのベッドで眠ってくれて大丈夫だから」
あの後、白の追憶石は彼女が触れた時だけ光る事が分かった。だから、追憶石探しには彼女の協力が必要で、アルベルト様は条件付きで彼女の同行を許可してくれた。
その条件は私の左耳と彼女の右耳に着けられている。
未だ新鮮な痛みを主張する魔石のピアス。彼女が逃げようとした時、私が彼女を逃がそうとした時、全身に激痛を走らせる呪具だった。
私の視線に気づいたのだろう。彼女の右手がぎこちなくピアスを触った。
「どうして、わたしのために、ここまでしてくれるのですか?」
「ロスティ様のためよ」
彼女は本当に分からないという表情をしていた。ロスティ様がしない表情だ。
私は荷造りを再開する。用意しなければならない物が次から次へと頭に浮かんだ。
「……あなたはホウキに乗れそう?」
「すみません。乗った記憶がありません」
「そう」
ロスティ様はホウキに乗るのがお好きだった。誰にも邪魔をされない場所で風を感じるのが好きだとおっしゃっていた。
共に空を駆けた記憶さえも彼女には無いのだ。
後は無言だった。私は部屋の中を駆ける様に歩き回りながら荷物を詰めていき、彼女はそれを困った様に眺めるだけ。
そうして準備が終わった時、空は私の髪と同じ深い闇に染まっていた。
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