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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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愛らしい存在 〜 暗躍のうねり lxxv

 エオの解呪のために付いていくことに、ジンは無事ではない可能性の確認を差し込む。それに対してエオは、自問自答の結果、身を切るような思いで、無理な話と結論づける。うまくいく可能性は確かにある。しかし、そうではない場合の解決策がどうしても見出だせなかったようだ。


「おいおい。誰が行かないと言った?」


 そんなエオの叩き出した一大決心を打ち砕くように、ジンはニヤリとしながら覆す言葉を差し込む。諦め一辺倒のくすんだ心の壁を、諦めなくてもよいとの光であちこちが一斉に照らされ始める、そんな情景変化がエオの脳裏に巻き起こる。


  〔……ふぐぅ……ふっふっ……ずずっ……〕


 聞き手に回ったかの、終始無言を貫くが、どうやらエオは泣き崩れる一歩手前で、堪(こら)え啜(すす)るような吐息を漏らす。


 ジンは丁寧に、言葉を繕(つくろ)うようにゆっくり優しく語り始める。


「あー、そうだな。オレだって帰れないや、死んでしまうようなことは絶対に避けたいから、途中で諦めて引き返すかも知れない。だけど、そこには決して小さくはない可能性があるってことなんだろ?」


 それは、絶対の成功ではなく、失敗を見据えて撤退するという選択肢もあるということ、つまり、得るものはないが失うものもないゼロという立ち位置を基点に考えることで、そこから次に何かを掴むための可能性の扉を開くということのようだ。


「オレだって無力な人間のつもりはない。きっと何かしらの力にはなれると思う。だが、エオがそこまで言うのだから凄く強い、真っ向から闘ったなら絶対に敵わない相手ってことなんだな?」


  〔……うん強いよ……本気で怒ったら……辺り一帯、消し飛んじゃうかも? ……〕


 そんな言葉を聞かされたジンは、当然エオが指し示す相手が何者なのか、気になって仕方がなかった。


 いや、聞いてもわかるはずもないなと。封印したり反省を求めるあたり、妖精だったというエオの種族の長なのだろうかと。数多の物語から想像していた妖精は軽やかな印象だが、実は恐ろしい種族なのではないか。などと疑問符で連ねながらジンは辺りが消し飛ぶ情景を想像してみる。


「ひぇぇ。震えがきそうだね。だけどね。ここ一番重要なところ。それは言葉の通じる相手だってことだとオレは思うんだ」


  〔え?〕

「え?」


 なぜかエオは驚きの声を上げる。人間の大人ならば、ここは気付きを得るような場面だとジンは思っていたから、妖精界は違うのだろうかと、ジンも驚きを隠せない。


 エオは、言葉を交わすのは当たり前過ぎることだと思って肩透かしを食らったのか、はたまた言葉は日常の挨拶や用件などの意思疎通のためだけに交わす飾り程度の認識でしかなかったのか、など微妙な反応だと思いながらジンは続ける。


「だって『心から反省。主従関係を築けるくらい互いに強く信頼できる相手が現れたなら』って言ったんだろ? そして『解放してやる』とも。これは裏を返せばエオをただ心配しているだけにしか聞こえないぞ?」


  〔あ!〕


 どうやら後者……今気付きを得て心に響いたようにジンには思えた。


 人間界では、子どもには学校があり、社会に出れば職場での付き合いがあり、常に言葉を交わし、その一言に喜び、傷付き、言葉の重みを感じながら成長していく。


 しかし妖精界では、おそらく、身近な仲間と交わす会話がそのほとんどなのだろう。多くの経験を経て得たものを言葉により継承する機会も少ないのかもしれない。ジンはそう思いながら、さらに丁寧に紐解いていく。


「きっと怒って言ってるわけじゃないと思うぞ? 察するに、エオはちょっとそそっかしいのではないか?」


  〔はぇ?〕


「エオがキチンと生きていくためには、エオを見守ってくれる相手と、その相手がエオに心を許せるほどに、エオは心を尽くして相手の信頼を勝ち取る必要がある。つまり、誠意を尽くせる心を養って欲しい、という願いを込めて封印したのでないかと思うんだ」


  〔ふゎぁゎ……ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、ジン……ぜぇっぜぇっぜぇっ……貴方とわたし、ついさっき出会ったばっかりよね?〕


「そうだな。それがどうした?」


  〔だって、なんでわたしがそそっかしいって知ってるの? さっきから今までのわたし、ちゃんとしていたはずよ? おかしい……人の寿命ってすっごく短いはずなのに……まるでわたしの過去を見てきたみたいに……もしかして貴方、実は神さまなの?〕


「ふふっ……ふふふふ……あはははは……はぁはぁ……オレは神さまなんかじゃないよ? でもエオはどうしてそう思ったんだ?」


  〔だ、だってぇ……(わたし、そんなにおかしなことを言ったかしら?)……わたし自身を奥まで見透かしているようでとっても不思議なんだけど……身ぐるみすべて剥がされたみたい? あら? なんだかエッチだわ〕


「お、おい! なにがエッチだ! 人聞きの悪い、誰か聞いてたらどうするんだ! だいたいまだ姿すら見たことないんだぞ!」


  〔あら、それもそうね。でもエッチ!〕


「おい!」


  〔……まぁ、そんなことよりも……わたしを封印した御方の言葉からその真の意図を見抜くなんて凄いことだし、その奥、さらに奥の奥にある意味や願い? みたいなものまで炙り出したように……ただの言葉のはずなのに……聞かされたわたしの頭の中にはそんな光景が彩り豊かにぱぁーーっと浮かび上がったんだよ?〕


「そうなのか?」


  〔うん、そう。すっごい不思議。まさかこれが科学? いや、そんなはずはないよね? これはもしかしてそういう魔法なの?〕


「ふふふふ。姿は見えないけれど、妖精とはこんなにも愛らしい存在だったんだな」


  〔あーーっ。もう! その言い方、表情! わたしのほうがずぅーっと歳上なのよ? なのに、なんだか……子ども扱い……されてるみたいじゃない?〕


「いやそんなことはないさ。うんうん。細かいことはまた後から話しよう。今はひとまず話を進めるね?」


  〔う、うん……わかった〕


「それで……その考え方が今も変わっていないなら、きっと臆することもなく、無事にコトは進むんじゃないかな? それに、もしも思わぬ方向に話が進みそうな場合でも、悪い結果とならないようなんとかオレも協力するよ。そうやってもしも上手く進められたなら、何ひとつ失わうことのない輝く未来が待ってるってことなんだろ?」


 エオはたた意図を解せていなかったということ。エオに気付きを得て欲しいとの願いではないかとのジンの言に1万年の時を経て、ようやく響き渡り、心を揺さぶられるエオ。


 次いで、そんなあれこれを的確に見透かすジンに驚きとともに恥ずかしさを伴いながら、エオは心を洗われていく。


 残る危惧、もしもの事態が起こったとしても、エオだけが頑張る必要はなく、後押しできるジンという存在、それを頼ることでエオに不足があれば補えると思えること。結果失わないように進められたなら、それは成功を形作るのではないか、ということのようだ。


  〔そそそ、そうだけど……でもどうして……さっきまでお願いしようとしていたわたしが言うのもなんだけど、もしものことが起こったらどうするの? なんで貴方がそこまで身体を張る必要があるのよ。死ぬかもしれないのよ? ……わたしは確かにこの約1万年を耐え忍んできた。苦しかったし、これからもそれが延々と続くことを考えるともう気が狂いそうになるわ。でもそれだって、封印されたのは私の咎(とが)のせい。自業自得なの。それに貴方には何一つメリットなんてないはずでしょ?〕


 エオの言を聞きながら、『確かに』と頷くジンだが、危険を伴い困難を極めるかもしれないミッションに際し、自身の心の苦しみや在り様をひた隠して、明るい素振りで上っ面の協力をただお願いしていた最初のエオと、今のエオでは、心の境地が全く異なる様相であることを気付かされる。


 自身がそれらを踏まえてなお、何としてでも得たい未来であるなら、相応の情熱や覚悟を示す必要がある。そしてそこに秘め事があってはならない。


 また相手が意思のある存在ならば、危険や困難を伴うからこそ、その成否を分けるのはほんの些細なこと、感情の機微、恨み嫉(そね)みや嗜好的な要素であることも多い。またそれに気付けるのは自身ではなく第三者であることも少なくない。つまり思いつく限りの関係性まで、自らを曝け出す必要があるとジンは思うのだ。


 誰も何の得も得られないことに首を突っ込むはずはない。そこにリスクを伴うならばなおさらだ。しかし、そこに義理人情を纏う熱い関係性が築かれた場合の日本人なら話は別だと、ジンは考えている。


 もちろん命の危機を伴う場合はまったく別の話となるが、それでも手をこまねくのではなく、起死回生の一手を考えあぐねながらも最後の最後まで諦めない。そんな泥臭くも諦めの悪い、それこそが大和魂。命を賭ける場面にすべてを諦める「潔さ」などクソくらえだ、とも。


「ふふっ、そうだな。確かにオレにはメリットなんてあんまりなさそうだな。オレなんてまだ30年も生きていない若輩者だ。そのたった数十年にだって苦しさもあるが、嬉しいこともいっぱい詰まっている。だけど、エオはそんなにも果てしない年月を償ってきた。封印されていたのだから、その間に嬉しいことなんて何ひとつもなかったんじゃないか? エオが何をやらかしたのかは知らないが、今日まで頑張ってきたんだ。もうそろそろ報われてもいい頃だって、思ってもバチは当たらないだろ。こうして知り合えたのも何かの縁。まぁ乗りかかった船とも言うからな。この出会いは、きっとエオが報われるための、神さまへのそんな合図だったんじゃないか?」


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