永遠の16歳 〜 暗躍のうねり lxxiij
元々はソフィアが見せてくれた生体エネルギーからシールドを創造する技だった。そしてそこから、マコトが独創的なアイデアとイメージで、DIYと称して、次から次へと生み出していく様を見てきたジンは誇らしげに話す。
そうして、生体エネルギーから独自に創り上げるという状況を聞いたエオは、つい先ほどまでカプセル内にいて、エオ自身、それまで見たことのない『不思議な存在』と捉えていたソフィアのその状態が、創り出されたものであることに合点がいったようだ。ジンも肯定の意を返す。
「それこそ、娘によるものなんだな」
〔やはりそうなのね? でも……ということは教わったわけでもないってこと? それにしては、なかなかうまいものね。とっくにできてるんじゃない〕
すると、エオはまた別の視点。つまり、親ではなく娘が生み出したというのなら、それはまさしく独自の発想によるものというわけだ。エオは驚きとともに称賛の声を上げる。
「そうか? でも、少しばかり方式が違いそうだな。エオのいう筋組織による内側からの骨格挙動ではなくて、外側から思い描く挙動に沿わせる感じじゃないかな?」
マコトのそんな取り組みをつぶさに見てきたジンだから、エオの言との異なりに着目して返す。つまり筋組織を動かすという視点ではなく、現し身というフォルムそのものを思いのままに動かしていたということだ。
〔なるほど。そこは興味深いところね。でも、まぁ、そんなわけで、それまではスリープモードっていうのかしら? ほとんど寝ているような状態で、でも聞こえてくる会話は時折聞いているから時代の変化はなんとなくだけど理解はしているわ〕
エオはマコトに関心を寄せるが、その当人には会ったこともないことから話を区切り、次の話題へと話を進める。
そしてエオの言葉に含まれる『時代の変化』に着目するジンは、時間的スケールの大きさを推し量るように尋ねる。
「じ、時代? どれほど長い間を生きてきたんだ?」
〔さあね。最後に魔力がチャージされたのって、一万年くらい前の話よ?〕
誰が魔力をチャージしたのかも気になるところだが、それよりも気の遠くなるような年数に驚きを隠せないジンは、うっかり年齢が気になってしまう。
「え? い、一万年? ……長生きのおばあさん、どころじゃないんだな? いったいいくつ……」
〔こら! 歳をとらないだけなの! 永遠の16歳に向かってなんて失礼な! だいたい古今東西、レディーに年を尋ねるなんてご法度極まりないことよ!〕
姿はカプセルだが、精霊で雌型、つまりは女性であるエオにすれば、いつの時代も年齢など問われたくはないようで、やや怒り口調で文句を垂れる。
〔だけど……そうね……年齢の話ができる日が訪れるなんて……そうよね。今の地球上の生き物って、ほとんど魔力を持ってないから、こんな日がくるなんてすっかり諦めてたわ〕
しかし、そんな会話でも、とても懐かしい響きに、姿は視えていないがおそらく頰を緩ませながらの表情で、少し嬉しそうにエオは付け足す。
「そうか、良かったじゃないか……ところでなんで16歳?」
ジンにもそんな嬉しさは伝わったようで共感を返すが、次いで、エオの言葉に含まれる年齢の数字に引っかかったジンはそれを尋ねる。
〔え? 人間の……華の乙女や、花も恥じらうお年頃は16歳っていうんでしょ? それならこのピチピチした美しいわたし! どこからどう見ても16歳よ。フフン〕
どうやらスリープモードの中でも、人の話す言葉の中からエオは学んでいたらしい。そして誰にも見ることは叶わないのだが、自身の見た目を自画自賛するエオだった。
〔まぁ、そういうわけだからフルチャージしてくれた貴方は、ひとまずご主人さまのようなものね。よろしくね! ジン〕
だが、そんな姿など、垣間見ることすらできないジンには当然のことだが、まったくピンと来ないようだ。
「そ、そうなのか。美しいとか華の乙女とか言われても、カプセルの姿じゃなぁ……それに悠久の時間を生き抜いてきたにしては、驚くほど若く饒舌なんだな。そして、なかなか興味深い話なんだが、まぁ、それはそれとして、今はまず帰りたいから、このカプセル、開けてもらってもいいかな?」
ジンの言葉を聞きながら、いろいろ反論を返そうとしていたエオだが、それよりも、なによりも、帰りたい意向を漏らすジンの言葉に、耳を劈くような金切り声で却下を返す。
〔ダメーーッ!〕
「え? だって、よくはわからんが、オレがご主人さまなんだろ? そうなら言うことを聞いて欲しいんだけど……」
〔ふぅ……ふぅ……、そうよね。帰りたいのは理解したわ。でもそんなことよりも、もっと重要なことが二つあるの〕
大きく感情を掻き乱したエオは、重要なことと前置いて、つらつらと語り始める。
〔ひとつは直ぐに会って欲しい人、いや人と言えるかどうかは怪しいけれど、とにかく一緒に行って欲しいところがあるの〕
エオは、まずはひとつめ目的を告げる。
〔……わたし、昔は、いや随分と大昔になるわね。その頃のわたしは若すぎたのね。いわゆる『若気の至り』というのかしら? つい、やらかしてしまったのよ……あははは……〕
姿は視えないが、恥じらいを醸す口調で、どうやらエオは自身の黒歴史に触れたようだ。
〔それでこのカプセルに封じられて早一万年。さっきも言ったけど、世界から魔力そのものが薄れていった中、こんな日が来るとは思ってもいなかったのよ。それなのに、まさか、貴方のような稀有な存在に出会えるなんてね〕
次いで、そんな黒歴史の何かが原因で封印されたことを、どこか遠くを見上げるような哀愁を漂わせる口調で語る。そして今、そんな身の上を払拭させるかもな出会いをまざまざと噛み締めるような様相だった。
〔今日、わたしは自我を取り戻せたようなもの。わたしが封印されるときに言われたの。おまえが心から反省し、主従関係を築けるほどの、互いに強く信頼できる相手が現れたなら会いに来いって。そのときにカプセルから解放してやるってね〕
そんな哀愁とも決別できるかもしれない一大イベントであること、そしてその内容を吐露する。
〔ただ、初めて自我を取り戻してから7日以内でなければ解呪は不可能になってしまうの。だから、どうしてもそれに付き合って欲しいのね〕
ここでようやく、エオの話したい中核が語られる。ただ行けば良いわけではない。そこには時間的制約がある、ということだった。
たいていの場合に付随する、『ただ』の言葉で連ねられる制約事項に続き、それを理由とする本旨がジンに向けられる。
〔なぜ7日かというと、それだけあれば、地球のどこにいてもやって来れるはずだ、という期限らしいの。とはいえ、そうそう簡単に行ける場所ではないから、まったく余裕のない期間でもあるのよ〕
聞き手に専念するジンだが、ここで新たなスケールを示す言葉の提示に心をざわめかせる。地球のどこにいても7日で行けるものなのか、ということだった。
現代の航空機を使うならわからなくもない話だが、エオの話の舞台はおそらく1万年前の世界なのだ。その時代の人の文明なら、生涯をかけて地球を1周できるかどうか、ではないかとジンは考えたからだ。
となれば、魔力ありきの話であることに絞られる。つまりはファンタジーな世界の話なのだ。しかし、それでも、そうそう簡単には行けない場所なのだとエオは言う。ジンの心の中で憶測が憶測を呼ぶことから、ジンは心を強くざわつかせるのだった。




