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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
202/220

組成と躍動 〜 暗躍のうねり lxxij

 現(うつ)し身の解除に成功したソフィアは自身の本体へと還っていく。ジンの魔力増加により対話型会話モードに移行したカプセル、エオは、ジンを内部に抱えたまま、眩しさを振りまき大気圏外まで真っ直ぐ垂直に急上昇する。その到達点の場面まで遡る。


 意気揚々と宇宙空間の縁まで飛び出したエオだが、真下に広がる地球表面の光景を見て驚きの声を上げる。


  〔アレ? ここ地球よね? すっかり地形が違って……うーん。困ったわね。迷子だわ……まぁいいわ。さっきの海で龍脈を感じたから、そこから行きましょう。どのみち潜る必要はありそうだしね〕


「え? 龍脈? 潜る? 何を言って……それにさっきまでが誰か、もまだ聞けてない……」


 目まぐるしい変化に戸惑うジンだが、まずは尋ねた答えがまだなことを投げかける。問われたエオは、やや億劫気味に話し始めるが、何かを思い直したように、しだいに語りは熱を帯び始める。


  〔あー……そうよね。誰かは重要よね? そう、特に貴方には知ってて欲しいところか?〕


「ああ、もちろんだ……ん? オレ? なんでオレ?」


 迷子の状態となった今、大気圏の外側という高さから、不用意に下側に向かうと、元の位置に戻ることも難しくなる。ここは何もしないが正解だと、引力に引かれるままに、エオは自然落下に任せることにしたようだ。


 ただし、カプセルが如何に強固でも、加速が過ぎると断熱圧縮による高温度化に晒される。自由落下ゆえに数千度まで上がりはしないが、それでも数百度の熱を帯びることとなる。


 仮にカプセルは無事だとしても、その熱が伝わるカプセル内部が灼熱地獄と化してしまえば、ジンはもちろんエオすらも無事ではいられない。


 そうならないように、エオは時折重力の反対の向き、つまり上昇方向の力を加え、地表の海面と陸地の為す形を何度も見返しながら、その見え方がズレないようにエイミング(Aiming)を保持するようだ。


 そんな力学的・空間制御的なことを当然エオは知る由(よし)もない。


 しかし、元はヤンチャな性格の精霊で、カプセルに封じられた以降、幾度となく力任せに大気圏外へと飛び出しては、元の場所がわからず帰ることに難儀した経験を多く重ねてきた故の経験則なのだ。


 それゆえに地球の地表は何度も見ていたエオだから、一目見ればどこへ向かうかもわかるつもりが、地表の姿の異なりから迷子と成り果てるのだった。


 だが迷子となっても、ではどうすればよいか、といった次の思考を連ねられるほどの成長があったようだ。


 幾星霜もの気の遠くなるような果てしない悠久の旅路も無駄ではなかったのだな、としみじみと噛み締めるエオの心象風景は、殺伐とした白黒のイメージから、僅かにパステル系の淡い光に包まれ、心を擽(くすぐ)られるような感傷に浸るエオだった。


 そして今、ジンの問いに応えるべく、エオは語り始める。


  〔ちょっと長くなるけれど……それはわたしとも言えるけれどわたしじゃない。わたしは魔力が1000%に到達しないと顕現できないのね? それまでは、100%に達した以降、途中の状態を知らせるメッセージとかを出せるように組み上げているの。スペル(Spell)・ウィービング(Weaving)って呼ばれてるやつが近いかも?〕


「スペル・ウィービング? 聞いたことないぞ?」


  〔あら、そう? 今の時代だと、プログラミングっていうのがそれに近いのかしら? でもそれで組み上げたものって、今の時代じゃ電気や機械なんて無機物のものばかりじゃない?〕


「ん? いや、それはそうだが?」


  〔大昔、いえ、古のものはほとんどみんな有機物よ?〕


「え? そうなのか? いや、もしかしてそれ、催眠術か妖術か何かで生きてるものを無理矢理操るってことか?」


 ジンは有機物と聞いて、息づく何かに思いを寄せる。その是非は置いても、ジンは意思ある何かを操ることへ僅かに嫌悪感を募らせるのだった。


 それを察したエオは、呆れた様子を前面に、きっぱり否定で返す。


  〔は? 馬鹿なの? 違うわよ。例えば小さな虫はあんなに小さいのに力強く素早い巧みな動きができると思うけれど、今の機械文明がどんなに栄えようとも、あんなにも小さな虫のサイズで、虫と同等の機能は再現できないでしょう?〕


 何かを為す、その大きな力を得るために、多くの命を従わせるものとジンは捉えたように思うエオは、まずは力の生み出され方の本質的な違いに触れる。


「確かに。たいていはいちいち電気を使った機械的な仕組みだから、歯車やら電池やらでゴテゴテになって、かなり大きく重くなるな」


 無機物である機械では、制御可能な持続的な力は、電気で生み出した回転力を複数の次元で回りくどい力換算の末にようやく押し引きの力に昇華させられる。まずはその生み出す部分だけで、大きさも重さも桁違いに跳ね上がる。


 つまり虫のサイズの中にそんな構造を持たせること自体が究極の困難さを孕むというわけだ。ひとまずジンにもその違いは共有されたようだ。


  〔そうでしょ? けれど有機物による組成と躍動、つまり生体エネルギーから物質化した筋組織、そしてその収縮・弛緩の機能を魔力で促せるよう組み上げ、意に介する挙動を|スペル・ウィービング《Spell Weaving》、そしてまた、それを魔力による制御で実現できるってわけね〕


 エオが言いたかったのは、無機物である機械のそんな回りくどい方式ではなく、筋組織の収縮弛緩する有機物特有の仕組みを生体エネルギーからネイティブに生み出すということだった。そしてそれはジンの懸念する生き物からの力拝借ではないということだ。


 現実でも人工的な筋肉組織を培養・育成する取り組みが活発に研究されているが、生物型(バイオ)アクチュエータに化学物質を燃料として与えることで、本物の筋肉のように自律的に動かすことが可能となってきている。もちろん、そこに電気配線や駆動するモーターなどは不要となる。


 ここでは、生体エネルギーから筋組織を組成し、それを動かす燃料そしてその制御を、魔力で細かく補うという寸法だ。その生体エネルギーに思いを至らせたエオは、ジンやソフィアの振る舞いの中に覚えた既視感から、それを確かめる言葉を零す。


  〔そういえば……なにやら貴方たちは既にオーラって呼んでいる生体エネルギーをいろんな形に組成してるわよね?〕


「あー、元々は北欧の魔女の技なのか、シールドみたいなものを作成していたんだ。それを見て、娘が何かと器用で、柔軟な発想と構成力に長けていてね」


 元々はソフィアが見せてくれた生体エネルギー(オーラ)からシールドを創造する技だった。そして、そこからマコトが独創的なアイデアとイメージで、DIYと称して、次から次へと生み出していく様を見てきたジンは誇らしげに話す。


  〔ほぉ、娘が。それにさっきのソフィア。そこに魔力で躍動させる仕組みを重ねるから、あんなにも自然に動かせてるってわけでしょ?〕


 生体エネルギーから独自に創り上げるという状況を聞いたエオは、つい先ほどまでカプセル内にいて、エオ自身、それまで見たことのない『不思議な存在』と捉えていたソフィアのその状態が、創り出されたものであることに合点がいったようだ。ジンも肯定の意を返す。


「それこそ、娘によるものなんだな」


  〔やはりそうなのね? でも……ということは教わったわけでもないってこと? それにしては、なかなかうまいものね。とっくにできてるんじゃない〕


 すると、エオはまた別の視点。つまり、親ではなく娘が生み出したというのなら、それはまさしく独自の発想によるものというわけだ。エオは驚きとともに称賛の声を上げる。


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