さっきまでのは誰? 〜 暗躍のうねり lxx
ヘリはホバリングし、間もなくその目的地に到着、接地しようとしていた。
ジンはソフィアに、隙を見て現し身を解くこと、またその後は、全力でこの場から脱出することの約束を交わし、ジンは小指を絡めながら最後に唇を重ねる。さっきまでの昔を懐かしむ会話が二人の頰を緩ませたまま、小さく拳をコツンと合わせて、互いにニッと笑み返す。
バラバラバラッ……。
バタバタバタバタ……ゴシン……ゴトッ。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……。
ヘリはゆっくりと接地し、スロットルはアイドル状態に絞られる。
ガチャガチャ……ガーーーッ。
クルーがカプセルの拘束具を解くと、テイルハッチが開かれ、外の光が一面に差し込んでくる。司令官の男は、準備が整ったことを確認すると、クルーに大声、上機嫌な声色で指図する。
「よーし、運び出せ。専用の台車がある。丁寧にな(なんせ王女さまだからな……くくく)」
「はい」「「了解!」」
ヘリのクルーは元気よく返事をするとそれぞれ配置につく。
「せーの!」
タイミングを合わせてカプセルを持ち上げ、機外に運び出す。これが一般貨物なら、機内のローラーでガラガラ滑らせガタンと降ろしたりするのだが、仮にも人、しかも王女なのだからと、最低限の扱いはするようだ。
そうして、指示のあった台車を見据えてその上まで運び、停止する。
「よーし、降ろすぞ」
クルーはカプセルを下ろし始める。ここでジンはソフィアを見て合図を出す。
「よし、やるぞ!」
「うん」
ジンは即座に抑えていた魔力を解き放つ。ジンの身体は特大のオーラに包まれる。膨れ上がる魔力を検知したカプセルは、ビープ音とともに、いきなり言葉を発し始める。
〔BEEEP. WARNING! WARNING!〕
ガタッガタン。
カプセルはその扉とカプセル胴体の上半分に赤く光ったメッセージを表示する。そんな文字の異常さと、鳴り響くけたたましさに驚いたクルーは、思わず手を滑らせて接地直前のカプセルを落とす。爆発か何かの変化を恐れて、クルーたちは皆、そのまま逃げるように10mほど後退る。
「バ、バカ! 落とすんじゃない……ってどこに行く! 離れるんじゃない!」
司令官の男は大きく目を見開きながら、咄嗟にクルーを叱咤する。
「痛っ! 乱暴だな! 大丈夫か? ソフィア」
「大丈夫。なんともないわ」
「ホッ。良かった。この衝撃でも扉は開かないか……このボタン……ってダメか」
高低差は小さいが落下の衝撃でジンは頭上の扉の壁に頭をぶつける。ソフィアを気遣うが問題ないようで、引き続き魔力を高めていく。と同時に衝撃で扉が開いていないかを確かめるが、扉はきっちり閉まったままだった。周りに開閉ボタンのようなものもあるが、押しても開かない状況だ。
〔Massive magical power surge detected.〕
〔Measurement unavailable.〕
「なな、なんだ? 何が起こってる?」
司令官の男は想像もしなかった変化に驚くばかりで、それ以上、出せる指示もなく、変化を見守るしかないようだ。
〔Switching to automatic mode.〕
ジンの放つ魔力量が急上昇するに従い、カプセルは四方八方に光の筋を放ち始める。尋常ではないその光景に、まわりの男たちは固唾をのんで見つめていた。
〔700%... 900%... Unable to track via current mode due to rapid fluctuation.〕
カプセルの放つ光の筋はどんどん増えていき、その光量も眩しさを増していく。まわりの男たちは、爆発するものと、さらに後退りして、20m以上離れていく。
「ん? 開閉ボタンが光った。これを押せば開くのか?」
ここで、ジンの眼の前にあるカプセルの扉の開閉ボタンらしき表示が緑色に灯る。それを見たジンは、すぐさま押してみた。
〔1000%... Over High-purity energy has saturated. Commencing the ultimate premium mode.〕
その直後に1000%超過のメッセージが流れるとカプセルが放っていた光は一瞬消える。同時にジンの押したボタンで扉がゆっくり開き始める。
〔 Engaging interactive conversation mode.〕
すると、カプセル全体が薄緑色に灯り、開き始めた扉の隙間が、ソフィアの離脱に充分な幅まで開き、それを見逃さないジンはソフィアにGOの合図だ。
「よし! 今だ! ソフィア、また後でな!」
「うん。じゃ、行くね。気を付けてね! 待ってる!」
「ああ」
その会話を交わした瞬間、ソフィアの現し身は、サラサラと崩れるように扉の隙間から流れ出て、すぐに消えていった。今の今までそこに居たソフィアの空間が空っぽになった、その空虚感はジンの心を軽く締め付ける。もちろん、すぐに後を追うから大丈夫だと、ジンは思い直すのだが、それでも寂しさは感じてしまうようだ。
「よし! たぶん成功だな。後はオレの番だ……が……思いの外、魔力を使ったみたいだ。あとひと踏ん張り、行けるか?」
いつものジンなら、相手が誰もいないときに、言葉は基本吐かないのだが、気を取り直そうとするジンは、今の今までそこに居たソフィアとの会話の名残りか、必要のないひとりごとを漏らすようだ。
そんなジンに何かが不意に語りかける。(著者注:以降、日本語にて)
〔ハ〜イ! 貴方のお名前は……確か『ジン』よね? わたしはエオ、よろしくね? さっきの『ソフィア』は貴方の番かしら? うまく隙を突いて抜け出してくれたわね。まぁわたしは雌型だから貴方がいるなら構わないわ。同じ雌型だけど、ソフィアの心根も見目も悪くないから一緒に来てもらいたかったけれど、まぁ仕方ないわね。というか、ソフィアは人間の姿をしていたけれど人ではなかったわね。不思議な存在ね〕
「なんだ? カプセルが喋った? いや、さっきまでも言葉を垂れ流していたがアレは機械的なメッセージだった。だが今のこれは……もしかして人工知能か?」
〔人工知能? あー、そうね。この時代ではそういう名称かぁ。まぁ似たようなものだけど、少しだけ違うわね。その人工知能って、命がない、つまり機械なのよね? そこがわたしとは大きな違いね。わたしは精霊。ここは東の果ての国だったかしら? たしかこちらでは付喪神ってのがいると思うけど、それと大体同じかな?〕
「え? じゃあ、さっきまで喋っていたのは誰?」
〔あー、ちょっと待って……外の下等な人間どもがどうにもうるさいわ。ここはいったん逃げるが勝ちよね?〕
「え? 彼らが貴女、エオ? の使用者ではないってこと?」
〔エオ。そのまま呼び捨てでいいわ。あー、そうよね。確かに。形としてはそうなってるかもしれないし、わたしを貴方に引き合わせてくれたことには感謝しかないけれど、何の力も持たない薄汚れた思考の持ち主なんてまっぴら御免よ。ともかく煩わしいし、今はここを立ち去るのが先決ね。後は道すがらで追々お話しましょ?〕
「え? ああ、そうだな。いったん離れるでいいか」
〔わかったわ。じゃあ行くわよ? 舌を噛まないようにね〕
エオはそう言いながら、カプセル全体を目映く光らせる。そのまま一気に大気圏の外に向けて音もなく急速上昇する。おそらく瞬間15G程度のGが掛かり、徐々に和らぎながら、以降は2〜3G程度に落ち着き、光も消えた状態となる。
横目にジンは見下ろす。さきほどまでいた場所はどうやら潜水艦の上甲板だったようだ。そのまま潜水して連れ去るつもりだったようだ。眩しさに目が眩んだ司令官やその配下の男たちは、エオの動きを捉えられず、無音で垂直に飛翔していったことにも気付かず、懸命にあたりを見回しているようだ。
もう豆粒ほどの大きさだが、理由もわからず右往左往している様子はジンにとってなかなか痛快だったようで、頰が思いっきり緩むジンだった。




