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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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裸族レイラ 〜 暗躍のうねり lxvj

 概ねカイの全身の拭き取りは終わり、ようやく触れられるようになったところで、レイラはカイの心肺蘇生に取り掛かる。


  〈これからオレは心肺蘇生にかかる。ただし、大体胃酸は拭けたがカイが身につけている衣服にも胃酸がたっぷり染み込んでいるのが厄介だ。すぐに脱がす必要あるがそれは難しいから、もし切るものがあったら切って全部ひん剥いてくれ〉


 こんなときのために、マコトはハサミやナイフをオーラから作成済の状態だ。それゆえに、いつでも創り出すことが可能だ。イルにも渡して、レイラの話を聞き終わる前にもう上着もズボンも切断済だ。下着も同じで切って良いものと思えるが、切断にあたり、念のため確認を入れる。


  〈了解。切るものはあるから大丈夫だし、もう半分以上切っちゃったよ。パンツまで全部でいいんだよね? そんで全部細かく拭くんだよね?〉


 レイラは話をしながらも脇目を振らず、懸命に心臓マッサージを繰り返していた。そこに「パンツ」の言葉が紛れ込み一瞬動揺して手が停まる純情なレイラだった。


  〈パ……そうだな、全部切って大丈夫。早いな。いや早くしないと身体に障害を残すわけにはいかないか。あっ! 大人の男の裸だが大丈夫か? オレは同僚だから、その……あまり見るわけにはいかないが、お前たちはまだ子どもだから、その……大丈夫……だよな?〉


 レイラは心臓マッサージをしながら気道確保し、1回目のマウスツーマウスで反応は得られず、「まだだ、諦めるな!」と自身を鼓舞しながら、再度繰り返し、2回目のマウスツーマウスを吹き込む手前で話をしていたところだ。


 そこでふと、マコトたちをチラ見して驚く。既に下半身は下着を含めて剥き終わり除去済で、マコトたちは全体を拭き終わり、股間を念入りに拭き始めていたのだった。


 その速さも驚きだが、純情なレイラは、大人になってからまともに男性器など見たことがなく、目に飛び込んできたソレに一瞬で赤面してしまう。レイラの問いにすぐさまマコトが返す。


  〈あ! 大丈夫だよ? マコもイルも前にオジさんのオムツ取り替えて拭き拭きしたことあるもん〉


 このオジさんとは、S国からの帰国便のハイジャック事件で、拘束する犯人たちにイルのオムツをはかせたときの話だ。今目の前にあるカイは若々しいが、そのオジさんたちは、もう少し上の30代から50代くらいの、うだつの上がらない、人生を諦めかけたような、ややしょぼくれた印象のオジさんたちだった。


 それと比較するなら、子どもとはまた異なるが、どこまでも若々しく、鍛え上げられたはち切れんばかりのボディに見えるようで、興味津々のマコトとイルだった。


 そんな経験もあってか、レイラの受け止め方とは異なり、マコトとイルはなんら躊躇うことなく摘んで持ち上げて裏の裏、お尻の割れ目まで丁寧に拭き上げていたのだ。むしろ瞳を爛々と思いっきり輝かせつつ、ホーホー言いながら楽しんでいる素振りだった。


 恥ずかしくて直視できないレイラは、ドキドキ鼓動を震わせながら、それを掻き消すかのように息を思いっきり吹き込み、次いで、また心臓マッサージに戻る。どちらが大人かわからない構図だった。すると、レイラの強い吹き込みに呼応したのか、ふとカイに僅かな変化が訪れる。


  〈そ、そうなのか。(……最近の子どもは凄いんだな……)それなら頼んだ……お! 少し反応が! いいぞ、カイ。戻ってこい!〉


 ピクリとカイの顔の表情に変化が差し込まれる。息を始めようとする素振りが見られた、と思ったら突然咳き込む大きな変化を見せる。これにはレイラの瞳も大きく拡がり、直ぐに続けて涙が溢れ出す。


「ゴホッ、ゴホゴホッ……」


  〈おぉぅ! 良かった。凄いぞ。偉いぞ! ……ズズッ……時間がギリギリだったから間に合うか不安だったんだ……本当に良かった……ぅぅぅ〉

  〈うわぁ、良かったぁ。良かったね、レイラさん、カイさん! スン〉

  〈うんうん……良かったね、カイさん……ススン……良かったね、レイラさん〉


 今現実に、着々と息を吹き返しているカイの姿に感極まり、号泣する姿を見せるレイラ。マコトとイルも、それに釣られて涙ぐむ。


  〈あぁ……あぁ……ズズッ……間に合って本当に良かった……〉


 意識が少し定まったようで、カイはゆっくり瞳を開いていく。最初に映したのはレイラの泣き顔だった。


 そして、次第にカイの視界が広がり、レイラの顔の周りの光景、そこにはレイラの上半身がその瞳に映り込む。


 周りの情景はもちろんだが、いつもは強面(こわもて)で見たことのないレイラの泣き顔など、カイにはあり得ない、非日常の光景だった。すなわち、これは夢、いや死んだ後の世界で見る勝手な妄想なのかと思いながら、カイはブツブツと呟きを垂れ流す。


「あ、あれ? オレは一体……あ、レイラさん! おっ! あー、死んじゃったのかぁ。じゃなきゃレイラさんのこんな姿……死んでもドキドキだなぁ……」


 そんなカイの言葉を耳にしたマコトは違和感に気付く。


  〈……ん? あれ?〉


 レイラとカイの関係性はわからないマコトだが、今、全裸でも構わずに蘇生を行ったレイラだから、そういう親密な関係か、またはレイラ自身がオープン、つまり裸族志向の人なのかと思っていたのだ。


 しかし、カイの言動から察するに、初めてソレを拝んだかのセリフに思えたのだ。


「天使はレイラさん似か、なんか幸せだなぁ……レイラさんがオレのために泣いてくれてるみたいで……あぁ、これはオレの願望かぁ……そうか。オレはレイラさんが好きだったんだなぁ……そうかそうか」


 カイの呟きは止まらない。感無量な心境なのか、言動からは死んでいると誤解しているように取れるが、気持ちの高まりはカイの本心を晒してしまう。


  〈なっ、何を……カ、カイ?〉


 これにはレイラも驚き、慌てふためく表情を浮かべる。イルもマコトと同じように感じたようで二人は顔を見合わせる。マコトは少しだけ確認してみたくなる。あくまで念のための確認だった。まさかレイラが気付いていないはずはないのだと思いながら……。


  〈あ、でも、今さらでちなみにだけど、レイラさん、裸見られちゃっても平気な系?〉


 恐る恐る言葉に乗せてみたマコトだった。レイラも堂々とした態度は変わらず言葉を発し始めたのだが、発しながら気付いてしまう。


  〈裸? そんなの平気なわけ……って、え? えーーーっ! オレは裸じゃないか! み、み、見るなー!〉


 バシーン!

「ぼへぇっ!」


  〈オ、オ、オレは一体いつから?〉


 それは自身が裸だったことだった。沸騰するヤカンの如く、一瞬髪が逆立ち、顔を真っ赤に染め上げるレイラ。慌てながら左手で胸を隠し、右手でカイの頰を思いっきり引っ叩く。狼狽えながら、マコトたちに裸であるのはいつからかを聞き正す。


  〈え? 最初からだよ? 知ってて裸なのかと思ってた。とても綺麗だから、マコたちは目の保養! ってねー。イル?〉

  〈うんうん。レイラさん素敵なものをありがとうッて感じ? あ! でもそうか。カイさんには刺激強かったかも。ね! マコちゃん?〉


 マコトもイルも、最初からだと、あっけらかんと感謝の意を返す。


  〈は、早く言えー。うぁぁ……お嫁にいけない……仕方ない……こいつの記憶を抹消するか?〉


 気付かない本人が一番悪いわけで、本日2回目のお嫁に行けない宣言をしたかと思えば、本気ではないだろうが怖い行動を口にする。どうやら心が迷走中のようだ。


  〈えー、だってぇ……そのたわわなお胸がぶるんぶるんしているのに気付かないハズがないし、マコはてっきり裸族なのかと〉


 マコトにしてみれば、泣くほど大切に思う部下を懸命に救い、その部下も好きだと零すのだから、後はくっつけばいいだけ、みたいなめでたい感覚でいたため、ニコニコ顔でいた。それゆえに、言葉も軽く素直な感想を述べたようだ。


  〈だぁー、誰が裸族だー。ちょっとカイの手当ての続きを頼む。オレは服を着るから、コッチを向かせるなよ〉


 裸族レイラは、ようやく服を着る気になったようだ。


 カイはというと、レイラからの強打で迂闊にも失神していた。ただ一箇所元気なままで、マコトとイルの注目を浴びていた。


 そんなワチャワチャな空気をぶち壊すような声が突如轟く。


  『ハッ……あれ? ジン? ジーーーーン。はぁはぁはぁ』


 念話と肉声の両方でソフィアは渾身の叫びを放つ。どうやらソフィア本体に意識が戻ったようだ。


  〈ママ? 意識が戻ったんだね。良かった……パパはどうなったの?〉

  〈あ、マコちゃ、イルちゃにレイラさんも……ってことはわたしは戻ってこれたのね。はぁはぁ……ジン……そう……ジンは? あ、向こうか! 呼び直すわね〉


 マコトはソフィアの帰りを心底喜ぶ。が、次に気になるのはジンの顛末だ。続けてジンの状況をソフィアに尋ねる。帰ってこれたことに嬉しさを滲ませるソフィアだが、マコト同様、ソフィアもこの瞬間のジンの状況を掴むために念話を投げる。


  『ジン? 聞こえる?』

  『ジン? 聞こえたなら返事して!』

  『ジン? ジン?』

  『ジン? お願い! 返事して!』

  『そんなぁ。ジン……』


 何度念話で尋ねてもジンからの返事が返ることはなかった。ソフィアはただただ泣き崩れる。


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