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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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頑張れカメオ 〜 暗躍のうねり lxiij

 ソフィアがセリスたちとは異なると思える謎の襲撃者に襲われる。そして、何かに巻き付かれ、魔力が吸われているかもな状況と、今が現(うつ)し身であること、さらには、それを解くことができないことをマコトは知る。


 今起こっている事態、その深刻さはソフィアとマコトの理解を遥かに超えていたようだ。そうなると、マコトの脳裏にはひとつの記憶がまざまざと蘇る。S国からの帰国便でソフィアの魔力が枯渇しかけて記憶喪失に至ったまさに悪夢のそれだった。マコトは見開く瞳に涙を滲ませ、痛ましい記憶に身体を震わせる。


  『え? それヤバ……このまま連れてかれたら、またママ、枯渇しちゃうよ……』


  『……そ……よね。ごめ……さい……マコち……』

  『今パパが向かってるはず。マコもこの後向かう。それまでなんとか、ママ!』


 まさかこんな場面で身体や魔力への干渉がまったくできない事態になるとは夢にも思わなかったソフィアだった。


  『……』


 こうなったら、身体への干渉に足掻きながらも、自身にできなければ助けてもらうほかはないと、念話ができているうちに少しでも状況を伝えなければと、外部への意識干渉に藻掻くばかりだった。


  『……』


 しかし、もうソフィアは念話に発することもできなくなる。意識として発してみるが、念話そのものの発信ができないようだ。


 抗うことも叶わないばかりか、自由をひとつひとつ失いながら、なすすべもなく、ソフィアはカプセルの中に整えられていく。


 それと同時に、カプセルが理由(わけ)のわからない言葉を発し始める。


  〔75% …… OK …… Very Good!〕


 そんな中、聞き取れた言葉はこの部分だけで、ソフィアの何かを測定解析でもしているのか、あとはひたすら言葉の羅列が垂れ流される。


「ほぉ、ソフィアとはこれほどの上物だったか。これはいよいよ? いや長居は無用! 引き上げるぞ」

「はっ!」


 男はカプセルをヘリへと頑丈なロープで吊り縛ると、引き上げを指示する。


 このときのカプセルはゆっくり閉じようとしている状態だが、既に内部に無力化し拘束済のソフィアが抜け出すことはないと思えることから、蓋の閉鎖途上ながらも、急速に吊り上げられる。


 そこへジンが到着。上空から飛びかかり、ソフィアが包むカプセルの蓋が閉じようとしていたところに間一髪で腕を差し込み、中のソフィアを縛り付けるツルを握りしめる。もう吊り上げ途上で間もなくヘリに搬入されようとする直前の場面だった。


  『大丈夫か? ソフィア!』


 力強く安否を尋ねるジンの声に反応はなく、カプセルに包まれるソフィアの瞳は虚ろな、見えているかもわからない状態だが、ジンの目には力なく微笑んだように映った。


「なんだ貴様!」


 男はそう言いながら、乱入してきた邪魔者、ジンを引き剥がそうとするが、ジンは軽く払いながらまったく動じない。


  『大丈夫だ、ソフィア。今助けるからな!』


 ソフィアは反応を示さないが、諦めずにジンは言葉を重ねる。空いている手で蓋を開こうとするがまったく開く気配は感じられないようだ。


「手を放せ!」


 カプセルを引き上げるロープの、カプセルの少し下側に足がかりを設けてロープに掴まる男は、ジンを引き剥がそうとする手を緩めない。今はジンにも、ツルが腕の肌から魔力に吸い付く挙動を見せ、ジンもそれに抗う様子だが、片手で掴まり、もう片手で蓋を開く状態では、何もできないに等しかった。男のちょっかいに構う余裕のないジンはそれをまともに取り合わないよう、怒りを込めて全身に厚くオーラを纏う。


「痛(いつ)っ!」


 男はビリっとした刺激と軽い痺れを伴ったようで手を弾かれてしまう。


 そこへ、突如、カプセルがビープ音をけたたましく鳴らすと、計測値のような値とともにやや流暢な口調で言葉を発し始める。


  〔Beeeeeee! 500% over …… OK …… It's Great! It's Excellent!〕


 その言葉を境に、閉じかけていた蓋は急速に開き始め、同時にカプセルが形を変化させ始める。それまでの慎重な挙動とは裏腹の、ダイナミックな動きを見せるカプセルだった。


 どうやらジンの魔力を吸い上げたカプセルは息を吹き返したようにその動きを活発化させたようだ。抗うためのジンの魔力は、皮肉にもジンを封じ込める力へと転用され、跳ね返ってくるのだった。


 中から無数のツルが素早くジンへ向かい、アッという間にジンの身体は覆い尽くされる。そしてそのままカプセル内のソフィアに重なるように取り込まれてしまう。


 元々スリムな形のカプセルだったが、ジンの大きさに合わせて自動的にサイズを拡張する。そして、ジンを完全に空間内に取り込めると、蓋はシュンっと素早く閉じる。あまりにも素早く強靭な力にジンは抗う隙すら微塵も見出だせなかったようだ。


「何? こんな動きは見たことがない。何が起こってる? この男は何者なのだ? この数値も驚きだが、もしやあの伝説の……ふっ、今はまぁいい。どうせこいつも動けないんだ。そのまま積み込め。ずらかるぞ」


 ソフィアに続いて、ジンもカプセルに囚われ、そのままヘリは離脱していく。そして男は無線で発信する。


『セリス、アザ、そしてアルマも。ご苦労だったな。ターゲットは捕獲完了だ。急ぎ散開だ。今は日本のヘリが集結中のようだ。急げよ!』チッ


『なに? 親父か? なんであんたが。聞いてないぞ? チッ』


 ソフィアたちを攫うこの男は、どうやらセリスたちの父親のようだ。そして事前に整えた作戦も、その外側に別の作戦を構えていたようで、一切の情報を聞かされていなかったセリスは感情を昂ぶらせながら、父親に食いかかるように文句を放つ。


 今、ソフィアを捕らえ、しかも仔細は謎でも高魔力を有する別の存在、有り余るお釣りまで付いてきたのだから、ホクホク顔の男は、セリスの暴言に気を止めるも、上機嫌ゆえにそれを許して、注意するだけに留める。


『セリス! 「総指揮官」だ! 言葉を慎め!』チッ


『うっ、総指揮官。こちらセリス。承知しましたが、なぜ貴方が作戦に参加しているのですか? 我々を信用していない……ということですか? チッ』


『ふふっ、そう怒るな。現に苦戦していたのだろう?』チッ

『……チッ』


 返す言葉のないセリスは無言で発信を閉じてしまう。


『そんなことより、早く撤収しないとマズい事態になりそうだ。急速接近中の敵に反撃しなければ撃墜されることはないと思うが、このような大掛かりの展開を見せるのだから、おそらく強制連行されることになるだろう。それだって、C国ヘリに対して強制力も知れているから、大した捜査はできないだろうが、作戦内容と我々に関する痕跡だけは気取られてはならないぞ。積載する機器はどうせ音響装置でしかないからそのままでいいがデータだけは消しておけ。それからできるだけ散開すること、ただし、セリスとアザ、アルマ、お前たちは連行されるわけにはいかない。お前たちはオレに合流だ。潜水艦を配備してあるからそこへ離脱し乗艦するんだ。いいな?』チッ


 裏で別の作戦が蠢いていたことに納得のいかないセリスたちだが、一瞬の間を置いて、了承の返信だけ返す。


『了解(ラジャ)  チッ』

『『チチッ』』


 続いてセリスは全軍に対して撤退指示を投げる。


「全軍に告ぐ。1、2番機はあたしに続け。それ以外は事前に打ち合わせた撤退プランに従い、全力で散開、撤収だ。」チッ


----


 一方、カイを救い出そうとするマコトとイル。キメラをポコスカ叩く場面まで、数分遡る。


  『あはははは……マコちゃん、そんなに叩いちゃ、吐き戻したくても無理みたいだよ?』

  『え? あれ?』


 そんなイルの差し込みで、マコトはピタリと叩くのを止めると、キメラはようやく吐き出し始める。


 うぷっ。


  〈よぉーしよし、えらいぞぉ〉


 キメラはゆっくりと戻し始める。そんな姿を見つつ、キメラをオーラの触手で優しく撫でながら語りかけ、ふと空を見上げるマコト。


  『なぁーんだ。早く早くって、マコが遅くしてたんだ……あれ?』


 見上げた先の空高く、キラリと光るものにマコトは気付く。それは直ぐに大きさを増す。


  『……なに? え?』


 直ぐに光と影で明瞭な形がヘリのそれだと気付く。咄嗟にマコトは声を上げる。


  『ママ! 上! 注意!』


 それはほぼ垂直に下向きに急降下する、獲物を狙う鷹の如きヘリの姿だった。


  『パパ? ママが危険、お願い。マコは手が放せない』

  『マコもカイさん助け出せたらすぐ行く!』


 急降下するヘリ(それ)がフレアー(返し操作)をかけると何かがソフィアのところへ転がり込む。その姿を目にしたマコトはただならぬ事態と認識するが、ひとまずジンに預けた状況だ。マコトはそう思いつつ今はカイの救出に専念する。


 眼の前では、V国ヘリの腹部ポッドの大きな割れ目から頭を出し、お腹くらいまでが見えている状態だ。そのお腹をマコトはさするようにオーラの触手で吐き戻しを促している。


 カメレオンっぽい大型キメラは従順に見えるためにどこか可愛らしささえ感じ、直接手で触れたい思いにも駆られるマコトだが、数時間前のキメラと思しきオーラの接触時に嫌な感触を感じ取ったマコトだったから、直接触れてはいけない気がしたことと、実際マコトの小さな手では効果も薄いと感じたのだろう。大きめの柔らかな触手で包み込むように促すようだ。


 キメラは吐き戻す苦しさからか、目に涙を浮かべる。そんな姿を見てマコトは産みの苦しみを連想する。マコトは人も動物も実際の出産などに立ち会った経験はないが、少し前にテレビで涙を浮かべながら産卵する海亀のシーンがよぎったようだ。実際は涙ではないらしいのだが、今はもう出産応援の雰囲気に呑まれるマコトだ。


  〈そうそう……あとちょっとだ! 頑張れカメオ!〉


  『ぷっ、なにそれ、マコちゃん? カメレオンみたいだからカメオ? あはははは』

  『もう! 何よ。この際、名前なんてなんでもいいじゃない。それよりイル? 大きなネットって創り出せる?』

  『うん、できるよ。あー、吐き戻しをキャッチするんだね? 了解、待ってて』

  『ホッ、良かったぁ。落っことしたらヤバいからね。たっぷり大きめのを作ったらカメオの頭に被せて、紐か何かでこのエアボードにぶら下げられるようにお願いね』


  『うん。えぃ!』


 イルはすっかり手慣れたもので、マコトに向き合い抱きしめるマコトの背面で両手を交差しながら動かして、最初の編むような重ね合わせのパターンに注意しながら太めの糸を両手から紡ぎ出す。


 最初に布を織るときとは異なり、キメラの首の後ろ側に巻き付くようにすぼめたネットの輪を形成すると、その糸先を操り、キメラの顔先に向けて交互に編み重なるように進めていく。


 そして、顔先から数メートルのところで萎むように収束させ、器用に結びつける。糸を太めに捩る必要はあるが、布を織るよりざっくり作れることから、アッという間に袋状のネットは完成し、同時設置となる。


 元々イルは器用な性質(たち)だが、ダイナビーもどきの回転初動装填で、自身のオーラを操り、しこたま繰り返した演練が功を奏しているのかもしれない。


  『ふゅーーっ……こんな感じかな? マコちゃん』


  『おぉぉ、流石イル。アッという間にできちゃうんだね。凄い凄い』

  『それとキスも補充お願いね?』


 短い時間とはいえ、消費する魔力量は多めだから、若干の疲労感を伴う作業だった。しかしだからこそ、作業完了の大義名分を得て、憚る必要もなくキスをねだれるイルは、毅然とした態度でにこやかに微笑む。


  『うん。わかってるって……んん』

  『んーー、これこれ。何度してもらっても堪らないねコレ!』


 要求されたお仕事の正当な対価とも言えるから、胸を張って要求し、その快感を貪るイルだった。


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