ポコスカ 〜 暗躍のうねり lxj
おそらくなんらかの影響を受けて変化を遂げたキメラの類だと思われる巨大化したカメレオン(以降、キメラを仮称とする)は、舌で捕らえたカイを直ぐに口内へ頬張りたい。が、ワイヤーを掴んだカイのワイヤーごと締め付ける舌は引き戻せない。
それゆえに、キメラはさらに舌で締め付けながら、グイグイと揺さぶりをかける。そのたびに抵抗する反応を見せるカイの生きの良さは、キメラの食欲をさらに唆らせる。
そうして、舌先にいるカイはたっぷりの唾液に包まれ呼吸ができなくなる。懸命に抗ったが、カイは力尽き意識を失う。
それを見据えたキメラは舌でグイグイと揺らしながら、カイの手からワイヤーを解くことに成功すると、瞳をキュルンっとさせながら、さらに揺さぶりワイヤーの呪縛の解けたカイを一気に飲み込む。
ほぐっ。
〈うぅっ……カイ……さん? 行くしかないか……〉
ソフィアは自分がそこへ赴き、無理やりにでも吐き出させるしかないか、と腹を括る。そのためには動物とはいえ、従ってくれなければ殺めるしかない行為も含まれ、ソフィアはなんとか避けたかった事態だった。何より言葉が通じないから、従ってくれる未来は全く想像もできてはいないようだ。
〈大丈夫大丈夫。マコ見参!〉
するとそこへマコトたちが戻り、そのまま素通りしてキメラのところに向かう。
〈え? マコちゃ、戻ったの?〉
〈うん。遅れてゴメンね。今からちょっと行ってくる〉
〈大丈夫なの? 何か方策あるの? わたしも行こうか?〉
〈大丈夫大丈夫。たぶん……ダメなら力ずくでやるから大丈夫。心配いらないよ!〉
マコトは気負うことも侮ることもない、いつものマコトで、ちょっと散歩に行く、くらいの軽い口調で向かっていく。
直ぐにキメラのところに辿り着いたマコトは、言葉が通じるわけはないが、開口一番、思いっきりキメラを怒鳴りつける。
〈ごるぅあぁ! だめでしょ!〉
普通なら、対空流の荒ぶる騒音の中ゆえに声が届くわけもないが、レイラの話し方、発する声にオーラを纏わせるやり方なら、そしてオーラを操る生物相手なら、初対面のレイラがそうであったように、脳裏にガツンと、とびっきりインパクトのある声を届けられるはず、とマコトは考えたわけだ。
普段は可愛らしいハイトーンの声色のマコトだが、このときばかりは顔まで思いっきり歪めた表情で、低くドスの効いた声と独特の言い回しな言葉を使ったようだ。
マコトの思惑は的中していたようで、間を置くことなく、キメラは反射的に鋭い眼光とともに、敵を威嚇する声を発しながらマコトを向く。
「しゃぁぁぁぁ! ……しゃっ? ……しー……・……・……・……」
しかし、キメラはマコトのそんな顔に驚いたわけでも、凄む声に圧倒されたわけでもないが、返す威嚇の声はしだいに萎んでいく。
〈お! 効果てきめん? どうよ! イル〉
普段のマコトを知るものには潜む可愛らしさが心に滲んでくることから、直ぐ眼の前でソレを拝んだイルは、可笑しさが止まらずマコトの胸に顔を埋め全身を震わせる。いや埋めるほどの胸はないから擦り付けるが適切かもしれないが。
そして、何がどうあろうと、可愛らしいものはどんなに凄んで見せても可愛らしいのだ。とそんな思いを胸に秘めながら、イルはその大きさ、いや今にも吹き出しそうな大きな震えを誤魔化すように抱きしめる力に変える。
懸命に笑いを堪えながら、イルは顔を埋めたまま、急がなければいけないことを告げる。
〈それ、ちょっと違うんじゃないかな? そんなことより早く! カイさん吐き出してもらわないと……〉
〈そうだったそうだった。こら! さっき飲み込んだカイさんを吐き出せ!〉
イルにせっつかれて、今やるべきを思い出すマコトは、大型ハンマーをオーラで咄嗟に作り出すと、キメラの頭をポコスカ叩き始める。
アニメなどでよくある50トンハンマーのようなもので、特に打突面は柔らかい素材としていたから、それはまるでハリセンのように、軽くて叩いても痛くないものだった。だが、だからこそ、一切の容赦なく思いっきり叩けるという利点もある。
そして叩き落とすスピードに応じてキメラの頭も深く沈み、痛くもないから直ぐに頭は元の高さに戻る、そんな上下運動が激しく繰り返される。
しかし、決して痛くはないがハンマーを振り下ろす速度が速いほど、当たって発生する音も鋭く甲高くなり、発する声のトーンの強調具合とも重なり、どれほど怒っているかといった表現はストレートに伝わるようだ。言葉の通じない動物であるからこそ、怒りの度合いを表現するのに適しているのかもしれない。
そして、このキメラはマコトの顔の表情や声の迫力などに圧されることは全くなかった。初めてマコトを向いたキメラはその纏うオーラに覚えがあったのだ。
キメラは、一瞬考え込むも直ぐに思い出すのだが、オーラを掴んで自身をひっくり返すほどの豪胆さを持つ存在であることと、今直接、目の当たりにしたそんな存在が放つオーラの色、厚み、深みなどが、どうやら規格外な大きさであることに、心が屈服させられるようだ。
何をおちゃらけているのか、今繰り出される打撃は軽く他愛ないものだが、本気を出されたら到底敵わないだろうことを理解する。つまりオーラを操り視ることもできるキメラにとっては、その凄まじさを肌で感じ、その圧倒的な大きさで立ちはだかるマコトに畏怖しか覚えない。
そうして、今向けられた怒りのようなものは、つい今しがた飲み込んだ餌のことだと理解し吐き出そうとする。
うぷっ。
だが吐き出したくとも、ポコスカ叩かれ忙しく頭の上下運動をさせられては、とても吐き出すどころではないキメラは、いいように叩かれながらも、困ったようにマコトの顔を覗き込む。
しかし、強面風の表情を作り出し、心を鬼にして、無心に叩きまくるマコトにキメラのそんな機微は伝わらない。
〈ごるぅあぁ! 早く吐き出せー〉
マコトの胸に顔を埋め、懸命に笑いを堪えていたイルがふとキメラを向くと、何かを訴えたそうな表情で頭を上下に揺らされながらマコトを見上げるキメラの姿が目に入る。
これには流石のイルも堪えきれなかったようで、マコトに向けて念話で差し込む。
『ぶはーーっ。あははは。だめだ、マコちゃん。ダメダメー。お、お腹がぁ』
『ど、どうしたのイル?』
『あはははは……マコちゃん、そんなに叩いちゃ、吐き戻したくても無理みたいだよ?』
『え? あれ?』
そんなイルの差し込みで、マコトはピタリと叩くのを止めると、キメラはようやく吐き出し始める。
うぷっ。
『あー、マコってば、なんてこった……』
キメラはゆっくりと戻し始める。そんな姿を見つつ、キメラをオーラの触手で優しく撫でながら語りかけ、ふと空を見上げるマコト。
〈よぉーしよし、えらいぞぉ〉
『なぁーんだ。早く早くって、マコが遅くしてたんだ……あれ?』
見上げた先の空高く、キラリと光るものにマコトは気付く。それは直ぐに大きさを増す。
『……なに? え?』
直ぐに光と影で明瞭な形がヘリのそれだと気付く。咄嗟にマコトは声を上げる。
『ママ! 上! 注意!』
それはヘリに違いないのだが、ヘリとしては見たことのない姿勢、ほぼ垂直に下向きに急降下していたのだ。それはまるで獲物を狙う鷹の急降下のようだった。
『パパ? ママが危険、お願い。マコは手が放せない』
『何? 上から? そうかそれが狙いか! 今行く!』
『うん、お願い』
『上から来てるのね? 了解。』
『マコもカイさん助け出せたらすぐ行く!』
急降下するヘリは、ソフィアのいるところへ一直線に向かうが、200ftくらい手前で急激にフレアーをかけて急減速する。それはまるでオートローテーションのようだった。




