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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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瞳をキュルン 〜 暗躍のうねり lx

 ダダダダダダダダッ!

 カカカカカカン!


 セリスの丸い刃による攻撃は、一部を抉っただけの失敗に終わった。しかし、そのときの繭の捲れから、セリスは対流の風の力も活かして効果的に繭の上面を吹き飛ばせる位置をスコープで見定める。


 そして今、それを為そうとセリスの銃撃が連射で放たれ繭上部が削られる。その多くはまたしても、流れ弾となって、V国ヘリの腹部ポッドを震わせる。


 そんな状況に押し潰されるように、ソフィアとカイは会話にならない声を放つ。


  〈きゃ!〉

  〈今行……〉


 と、そのとき、繭の先、進行方向のやや後方から、何かが飛び出す。


 しゅるるる……べちょ……


 V国ヘリの腹部ポッドの部分破壊で剥がれた隙間から飛び出したそれは、セリスの搭乗するヘリのハッチ下側の車輪に重厚に巻き付いた。


 次の瞬間、強引なまでの力で引き寄せられ、加えられた力の位置から機体は腹を見せるように傾き、セリスのヘリは風を孕みながら上方に跳ね上げられる。


 V国ヘリ腹部ポッドに収まっていたのは、カメレオンのような形相で、だがその大きさは、通常のカメレオンの数十倍ものかなりの巨体だった。覗かせるその眼光は鋭く、怒りに震わせ、跳ね上げたヘリを見上げる。


 飛び出した何かとは、この異形の巨体カメレオンの舌だった。おそらくなんらかの影響を受けて変化を遂げたキメラの類だと推測される。しかし、カメレオンの生態的にもとりわけ狂暴な性質を備えるわけではなさそうだが、さんざん攻撃をぶつけられたこのキメラの怒りはそうそう収まることはなさそうだ。


 別の目でその僚機であるヘリの片割れを見据えると、伸ばした舌を引き戻しながら対空流と合わせて、セリスのヘリをそれにぶつけようと、急激に引き落とす。


 遠距離の餌となる獲物を瞬時に正確に捉え呑み込むほどに、元々空間把握能力は本能的にも優れているのだが、身体が大きく変化した分、知恵も増したのか、策謀を講じるキメラだった。


 そんな異常な状況変化など予測もしなかったカイは、既にV国ヘリのハッチから飛び出し、レイラに繋がるワイヤーを手繰って進出していたのだった。


 しかし、自らのヘリ機体の腹部にそんな怪物がいたことも知らなかったカイは、目ん玉が飛び出そうなくらいに驚く。ワイヤーを手繰る手も止まり、ただただフリーズしていた。そんな姿をキメラの瞳は見逃さない。


 一方、跳ね上げられたヘリの中でセリスは、今何が起こったのか全く理解ができず、ひたすらパニックの中にあった。が、跳ね上げられ、自由を拘束された状態から引き落とされ、その舌の拘束を解かれる瞬間、回避の指示をだす。


 状況は的確に掴めなくとも、激突の危機にあり、今がその回避可能な臨界点であることを感じ取ったようだ。


 ただ、たまたま拘束が解かれたタイミングだったことを認識できていたかは定かではないが、セリスにはまだ幸運(ツキ)は残っているようだ。


「パイロット、ロールライトハード! 右下に向けろー! フルパワーで操縦桿(スティック)を引けー!」チッ


 唖然としていたパイロットだが、セリスの声に反応し、思考するではなく、その指示の言葉と本能的な反応に身体を委ねて全力の回避行動を試みる。


 キメラの舌で編隊から引き剥がされた時点で、セリスのヘリのローターは殆ど空気を掴めていなかった。


 しかし、僅かな舵の効きでなんとか右下へ落ちる方向に姿勢を傾けると、強引に推力を高めて空気をキャッチする。


 そうして右下方への行き足を掴むと、そこからは衝突を避けた機動に転じられたようだ。


「2番機は左上方に逸れろ!」


 ぶつけられそうになったのはセリス機の右舷にいた2番機だ。アルマの搭乗機だが、アルマはその年齢からも、操縦経験は皆無なため、ひたすら黙してパイロットとセリスのやり取りや操縦技術に縋るしかないようだ。


 そのパイロットはクルーからの声の情報で事態を知るが、バックミラーではその全容を捉えきれるはずもなく、クルーからのセリス機が落ちてくる報せにただただ混乱のさなかにあった(パニクっていた)。


 そんなところに飛び込んできたセリスからの指示に身体が反応して機体を左へ傾け操縦桿(スティック)を引く。


 すんでのところで両機の直撃は免れたようだが、互いの腹部が接触し、セリス機のローターの端が2番機の後輪を掠め、脚は破壊する。セリス機のローターも揚力は得られたものの、回避後に水平飛行に復するも、やや異音とともに揚力の減少が認められる。このため、それ以上の任務継続はかなり困難な状況に追いやられたようだ。


 ソフィアは繭に籠り、周囲は視えていなかったが、オーラで周囲の状況はそのおおよそを掴んでいた。


 丸い刃で捲れていた部分から、更なるセリスの銃撃により、繭の上面が割れ、捲れにかかる対流の負荷を受けて、バタつき剥がれて飛んでいってしまう。


 拓けた繭上面の後方に向けた視界から、左側に落ちていくセリス機と、その僚機がそれを避けて左側位置から右上に向けた回避行動を取っている一瞬の情景を瞳に映すと、次いで後方側に舌を引き戻すキメラ、そのキメラの正面にワイヤーを手繰り近づこうとするカイがフリーズしている姿が飛び込んでくる。ソフィアは叫ぶ。


  〈カイさん、危ないわ、ヘリに戻って!〉


 目まぐるしい状況変化と眼の前のキメラへの恐怖心から、すっかり萎縮し我を見失ってフリーズしていたカイの意識をソフィアの声が呼び醒ます。


 対空流を浴びながら、カイの瞳には涙が溢れ、糸を引くように後方に流れていくいっぽうだったが、我を取り戻したカイは返事をしながら、恐る恐るV機へと戻ろうとする。


  〈ははは……はひぃぃぃ。戻りま……〉


 そんな変化を捉えたキメラは、その大きな目をギョロリとさせながら、今度はカイに向けて一直線に舌を繰り出す。


 一折のヘリへの行動で少々は発散したようだが、ヘリをぶつける思いはあと一歩で成就せず、怒りはまだまだ収まらない様子のキメラだ。


 そしてそれとは別に、眼の前で動くもの、つまりは餌たる生き物がそこにいることに、食欲を刺激されるキメラは、美味しそうにヨダレを零す状況だったのだ。今はその怒りを置いてでも優先すべきは食欲だったようだ。


 舌に巻き付かれたカイは、必死に抵抗する。カイの持ち前の異能は、オーラを発し、触れるモノを切ったり動かしたりできるが、身体をガチガチに拘束されただけでなく、キメラ自身が分厚い強固なオーラを纏うため、カイの力はひとつも及ぶことはなかった。つまり異能を保有する上でキメラは遥かに上位の存在。キメラにとってのカイは捕食される側、単なる餌でしかないわけだ。


 そして抵抗すればするほど、元気な餌であることに喜びを感じるキメラはヨダレを膨らませ、瞳を輝かせながら締め付けを強める。


  〈なんて力……だめだ敵わない……〉

  〈カイさん、諦めないで……〉


 ソフィアは何とかしてやりたくも、良い方法は浮かばない。ここが地上、つまり無風の状況ならオーラによる攻撃が可能だが、時速200kmもの速度で飛行する空中で距離も離れた状態では為すことも為せないようだ。


 キメラはカイを直ぐに口内へ頬張りたいが、ワイヤーを掴んだカイのワイヤーごと締め付ける舌は引き戻せないため、キメラはさらに舌で締め付けながら、グイグイと揺さぶりをかける。そのたびに抵抗する反応を見せるカイの生きの良さは、キメラの食欲をさらに唆らせる。


  〈ソフィアさん、ちょっと無理みたい……レイラさんにありがとうって、伝え……うぐっ〉

  〈カイさん! ……レイラ! 起きて! カイさんがぁ……〉


 カイはまだまだこれからを生きる世代だが、さすがに最期のときと覚悟を決める。レイラはソフィアの呼びかけにもまだ反応できないようだ。


  〈……ごぽっ……〉


 そうして、舌先にいるカイはたっぷりの唾液に包まれ呼吸ができなくなる。


 懸命に抗ったが、カイは力尽き意識を失う。それを見据えたキメラは舌でグイグイと揺らしながら、カイの手からワイヤーを解(ほど)くことに成功すると、瞳をキュルンっとさせながら、さらに揺さぶりワイヤーの呪縛の解けたカイを一気に呑み込む。


 ほぐっ。


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