しゅるるる……べちょ 〜 暗躍のうねり lix
アザとの意思共有を鮮烈に整えたセリスは、すぐさま全軍への指示を済ませると、早速自機を駆ってダイナミックに攻撃位置へ占位する。
ヘリの操縦そのものはパイロットが行うが、セリスが思い描く最短かつ効果的な機動とするために、その飛行機動をセリスは言葉で操る。
「パイロットは今から指示通りに操縦して! ピッチアップ15度、遅い!」チッ
「ハッ」チッ
「返事はいい。ロールライト40度バンク、シャープに! 圧かけろ!」チッ
「ロールレフトハード、よし圧抜け! 水平線切るようにピッチ戻せ。よしロールアウト。いいぞ! そのまま機体を安定させながら、テイルハッチオープン!」
セリスは天性の感の良さから、かつてはジェット戦闘機では組織随一の腕を誇るエースパイロットでもあった。そこから若くして指揮官育成のカリキュラムが課せられ操る対象が飛行機から人へとすげ替えられる。
しかし、思い思いの意志や感性と、癖や未熟な練度の新人たちの能力を、言葉ひとつで自身の感性の域まで引き上げることに格段の醍醐味とやりがいを見つけたセリスは、その才能を遺憾無く発揮する。
自身の腕を揮わずとも、その機動がもたらす体感と客観的な結果検証から、今でも十分現役の感性は磨かれ続けるわけだ。
そして言葉で操ることは、その間空いてしまう手足や、時分割レベルで思考や視界を別の挙動に費やせることから、作戦遂行の盤面で次の事態を予測しながらの俯瞰した新たなロジカル思考が育まれていく。つまり更なる進化を遂げるセリスであった。
そして現在、機体の状態と、ソフィアたちと、周りのヘリとの相関配置をモニターで確認しつつ、自機の位置・姿勢・各諸元の定常状態を口を動かすことで作りあげながら、セリスの両手は同時並行に、丸い大きな刃の回転を始動する。
次いで、自席のモニターほかを調整し、後ろ向きに座って、開き出したテイルハッチの開口部との視野調整を目まぐるしくチェックしながら、それと並行して、現在とこのまま保持し続ける意図をセリスは機内に指示する。
「ターゲットから見て2時の方向やや上側から、今ターゲットにケツを向けて、反対向きにアプローチしている状態だ。ターゲットの鼻っ面の少し前にAimingを合わせる感じだ。このまま諸元と状態を保持しろよ」チッ
「イエス、マム」チッ
さらに次いで1、2番機へ無線の指示だ。
「1番機2番機とも、3番機の左舷と右舷の前方約100ft、幅500ft、やや高め大体150ft上に占位。ターゲットにケツを向けた状態で後ろ向きにアプローチするから隊形、特に幅と高さを保って付いて来い。キャビンクルーは後ろを向けないパイロットに編隊内の相対距離の変化を助言しろ! チッ」
指示しながら、開いたテイルハッチの開口部からソフィアの居場所を初めて目視したセリスは驚く。そこには真っ白い流線型の繭が形成されていたのだ。この繭はイルとマコトが形成したオーラのシールドで、さらにソフィアが重ねることで、音響装置によるパラメトリックの攻撃を阻み、目映く美しい白の輝きを放っていた。
「ん? あれは繭なのか? どうやらターゲットは繭に籠る蚕らしい。せっかくの美しき様相だが、繭の上部を掻き切って無理やりにでも蛾を飛び出させるぞ! これから本機は丸い刃をターゲットに向けて放つ! 戻りの刃に気をつけろよ! チッ」
「チチッ」
全機了承の意を返す。
「シュート、ナウ! チッ」
セリスは、掛け声と同時に、高速回転する丸い刃を後方のソフィアの少し前方位置へ向けて投げ放つ。
よく研ぎ澄まされた刃は超高速に回転しながら、触れれば航空機の金属の表皮などスッパリ両断する鋭さを備える。それはセリスの制御下で、ソフィアの籠る繭のようなものへ向けて静かに唸りながら真っ直ぐに飛んでいく。
しゅるしゅるしゅるっ…………。
それを見た結集途上のマコトは慌ててソフィアに知らせる。
『ちょちょ、ママ? 敵が何か円盤みたいなもの、切れ味の鋭いカッターみたいなのをそっちに向けて放ったよ! 気を付けて!』
『わかった。ありがとう。念のため、わたしたちのいる部分の内側、右前方には固めのシールドを上下に逸らすように何層か張ってみるわ。また何かあったら教えて』
『うん。わかった。気を付けてね』
この刃は高速回転を維持しつつ、ジャイロにより姿勢を保持しながら、その進行方向を無線操縦により操れるようだ。しかもその進行方向へのジャイロ補正を重ねた諸元情報を無線で飛ばし、セリスはヘリにいながらインパクトの直前まで、画面に映る接近映像と予測ラインや速度・方向などの数値状態をモニターしながら精緻な操作で巧みに制御する。セリスによるオーダーだが、そんなハイテク武器を生み出したアルマのモノ作りは、技量はもちろん、それを組み上げデジタルな仕組みで制御するその繊細な感性・センスもなかなかのもののようだ。
刃の回転体は、しだいにオーラの繭に接近し、繭の中腹より少し上側に切れ込む。中にいるソフィアの背丈より少し上のギリギリを狙ったのだろう。おそらく繭の上部1~2割が削り取れるものとセリスは予測していた。しかし、ソフィアは直前に、繭の直ぐ内側に、上下の後方へいなすためのシールドを張っていたのだ。
繭の外皮を切り裂き内部に侵入する刃の先は、それに沿うような角度の滑らかなシールド面に触れた次の瞬間、流れるようにいなされ、自然に受け流される。
丸い刃は斜め上方にせり上がるように抜けていく。結果、上部を斜めに削り取るとその勢いのまま、その先にあるV国のヘリのお腹に抱えるポッドをも抉り突き刺さる。狙ったわけではないのだろうが、C国ヘリから別途繰り出された攻撃は、なぜかまたしてもV国ヘリ腹部に抱えるポッドに被弾する。
通常は、そのまま無線操縦により放った側に戻ってくる想定のものだが、繭とV国ポッドの2箇所を削った際にその回転力を大きく失ったまま、突き刺さるというよりは金属構造の接合部に挟まった形で動かない状態となってしまったようだ。この金属構造に与えた衝撃はその金属音をV国ヘリ内に大きく響かせる。
レイラの状況をウォッチしていたV国のカイは、この衝撃音に途轍もなく驚く。と、その前にその攻撃のものがレイラのいる場所への攻撃だったことへの繋がりに気付き、慌ててハッチから顔を出しレイラのいる繭の状況を確かめながら声を放つ。繭の2時方向が抉られた様子に痛ましさを覚えるカイ。
〈レイ、カイ、大丈夫っすか? 無事なら返事を!〉
一方、放ったセリスは、何度も丸い刃で削りながら炙り出すようにソフィアを外へと誘導して出たところを攫う、そんな思惑でいた。しかしその予測を裏切る事態となったため、丸い刃は諦め、ソフィアのところへ慌ててヘリで近づいていく。
セリスの丸い刃の攻撃により繭上部はやや削がれた感じだが、それによる繭の捲れがその強固な防御構造への千載一遇の綻びに思えたセリスは、他の乗組員の持つ小銃を奪う。放置すれば直ぐに修復され、突破口は塞がれてしまうと思ったようだ。
「それ寄越せ!」チッ
「は、はい!」チッ
「パイロットはそのまま寄せていけ!」チッ
「了解」
セリスは繭の捲れから、対流の風の力も活かして効果的に繭の上面を吹き飛ばせる位置をスコープから見定める。
〈カイさん? ソフィアです。レイラさんは大丈夫。間もなく意識を取り戻すと思うわ〉
〈はぁぁ……良かったぁ……ソ、ソフィアさん? レイラさんの意識が戻りそうならもう大丈夫ってことですか? それなら今迎えに……〉
レイラの代わりに返答するソフィアだが、今の差し迫る危機に来られては邪魔でしかない、そう思った矢先のことだった。
ダダダダダダダダッ!
カカカカカカン!
セリスの銃撃が連射で放たれる。そしてその多くは、流れ弾となって、またもV国ヘリの腹部ポッドを震わせる。ソフィアとカイは会話にならない声を放つ。
〈きゃ!〉
〈今行……〉
と、そのとき、繭の先のやや後方から何かが飛び出す。
しゅるるる……べちょ……
V国ヘリの腹部ポッドの部分破壊で剥がれた隙間から飛び出したそれは、セリスの搭乗するヘリのハッチの下側の車輪に重厚に巻き付いた。次の瞬間、強引なまでの力で引き寄せられ、加えられた力の位置から機体は腹を見せるように傾き、セリスのヘリは上方に跳ね上げられる。




