おい!何聞いてた? 〜 暗躍のうねり lvij
アザと対峙し、見事気後れさせられたそのアザに、姉のセリスから絶賛横槍が入り、状況がどう転ぶのか、その動向変化に気を揉むマコトとイルだった。
そんなところへ、もう一人の指揮官クラスである、妹のアルマから接触が図られる。多くの謝罪とさまざまな事情を聞けば、敵側ではあるが、敵ではないと、マコトとイルは判断したようだ。そうして、短い時間ながら打ち解け、連絡手段のメモだけ受け取り戻ろうとするところに、ジンからの念話が差し込まれる。
『マコト? 状況はどんな感じだ?』
『あ、パパ! うん。敵の指揮官、心胆寒からしめる作戦は実行したよ!』
『ほう。してその成果は?』
『うん。バッチリ、というかちょっとやり過ぎた感もあるけど、撤退させる決断までさせたよ。あ、でもアチラさんは3兄妹の指揮官クラスがいるみたいで、その指揮官の姉に撤退指示を覆された状況で、今その二人が意見統合の真っ最中っぽい。それでどう転ぶかが変わるのだと思う。というか、時間、ずいぶん経ったよね? そろそろ何かしらの方針転換でもあるの?』
ジンがわざわざ連絡を差し込むのは大抵は伝えたいことがあるからで、いつものこととマコトは察するのだが、娘から問われ、ジンは嬉しそうに返す。
『お! 鋭いな。そう。今もまだパラメトリックを応用した攻撃は縮小しながらも継続中みたいだが、もう大した危機はない状況のまま推移している。敵さんの攻撃パターンが変化すると厄介だったんだが、マコトたちが敵中枢のメンバーの相手をして時間を稼いでくれたおかげで、こっちも体勢を整えられそうなんだ。だから引き上げてこい、マコト!』
『え? じゃあ、もうこれ以上はちょっかいかける必要もないってことね?』
マコトにとって、これは予想もしていなかった朗報だった。あまり公にできない事柄が多く含まれる状況の場合、対処はしても表沙汰にはしたがらないのがジンの常だが、既にチヌークを手配されている時点でそうもいかなかったのしれないとマコトは推測するようだ。
マコトにとってはモノ作りの成果を確認できる貴重な機会でもあるのだが、それもおおよそ完了しており、危険を伴う状況からは早く脱したいのが本音なのだろう。
『ああ、そうだ。陸海空の自衛隊と海上保安庁から現場制圧と誘導のためのヘリが多数、救援に駆けつけることになった。あと緊急時の武力制圧が必要な場合にAH-1Sが1機、さらに無いとは思うが、もしも相手が大掛かりに武力行使してくるような場合に備えて、百里基地でF-15Jがホットスタンバイしてくれるようだ。だからもう大丈夫。引き上げるぞ!』
ジンから溢れ出す対応の数々にマコトは度肝を抜かれ、目を丸くする。S国からの帰国便でのテロ事件から、内調が特別視している節は否めないが、あまりの豪華過ぎる布陣にマコトはドキドキが止まらないようだ。
『おぉぉ! 凄い布陣だね。パパはそういうの嫌がると思ってたけど、そんな大袈裟にして良かったの?』
『ああ、まぁ、まったく公開してないから非公式ではあるが、素性をさらけ出すならソフィアは国賓級のVIPでもあるからな。兄貴、マコトの伯父さんな。それに状況を伝えたところ、大慌てで対策会議を開いて、世間には非公開だが、水面下で作戦を展開することになったらしい。V国だけなら話も単純だったんだが、U国やC国も関わっているし、さらには世界的な武器商人の組織が絡むとなるとそうもいかないらしくて。事後処理が面倒そうで気が重いんだけどな』
マコトにとって、然るべき機関が対応してくれることは嬉しく、何よりも安心感があるが、今までの生活が激変しそうな予感に内心がざわつくようだ。
『そっかぁ。なら安心だね。だけど、それ、マコも取り調べみたいなの受けるのかな? 魔力とか……いろいろと話せないことも沢山あるから億劫そう……あ! 大袈裟になって、その……ママもそうだけど、その……マコもN国王女っとか言われたら、入学早々、明日から学校に行けなくなるのは嫌だなぁ。まぁN国、行ったこともないから、大丈夫そうな気もするんだけど……』
『あぁ、そうだな。隠せるものは隠したいとは思ってるが、まぁそれは後から考えよう』
『りょ。じゃあ、全部放り投げてママのところに戻るね』
『ああ。気を付けてな!』
『うん!』
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一方、アザとセリスとの会話、アルマと目が合った頃まで時は遡る。
アザはマコトのお仕置きを受け止め、即座に撤退命令を投げるが、そこにセリスが待ったをかけ、一時保留でアザの命令を打ち消す。アザは人の理をあからさまに逸脱する力を目の当たりにし、部隊壊滅も危惧して屈辱に甘んじたわけだが、アザからの又聞きの説明では、そんな状況を解さないセリスが指揮を引き継ごうとする。そんなセリスに対して納得させられる説明を持ち合わせず、アザはうまくコトを運べない歯痒さとジレンマの中にいた。
当然のことではあるが、アザ一人の報告では信用されにくいため、セリスは必ず自分も問われる場面を予測する。セリスは自身が納得できなければ、組織への報告も満足にできないと考えるようだ。
〝(『そう……なら、作戦は様子見ながら進める、ってことで……あたしはまだ何にも接触してないから、アチラさんの言葉のニュアンスもよくはわかんないワケだし。別にアザのいうことを疑ってるわけじゃないけど、一人の意見や判断だけなら上も信用してくれないだろうしね。何よりあたし自身が自分の目で見て、本当に継続不可能なのかどうかも見極めたいからね』チッ)〟
〝『そうか。時間の都合もあるし、……はぁはぁ……オレもすべてを話しているわけじゃないからそう思われても仕方ないが、これだけは言っておく……ごふっ。ペッ。はぁはぁ……恐ろしいほどの力を見せつけられた……そして、受け入れたオレは交渉のテーブルに着いたはずだった……はぁはぁ……だが、どうやらオレは逆鱗に触れてしまった……らしい……ゴホゴホ。ペッ……それでオレはこのザマだ。このまま継続するなら……はぁはぁ……待ったなしで途轍もない攻撃を受けるかもだぞ?』チッ〟
セリスの言葉はもっともだと思いながらも、今のアザは他に良い方法が浮かばず、言葉を変えて説明を重ねた形だ。
〝(『ふーん。そうか。そう言えば女神と妖精っとか言ってたね? そんなファンタジーな世界が本当にあるのなら、一目見ておきたいところだけど。まぁ、アザ、おまえがそこまで引き下がるんだ。人智を超えた、よほどの力で横槍を入れてくる存在がいる、ということなのね? ……震えが来ちゃうね、まったく……だけど、たとえ引くとしても、理由が足りない……それが真実だとしても、何一つアタシは見ていない。納得が足りてない。進むしかないじゃない……』チッ)〟
セリスもセリスで、アザの言葉を受け入れつつも納得を得る必要性を語った。
〝『やっぱり信じないよな……はぁはぁ……そうだよな。オレも同じ立場なら、たぶんこう言うよ。何かの仕掛けがあるんだろ? ってな。……ごふっ……おぇぇぇ、ペッ……だが、少なくとも物理的な仕掛けは一切見当たらなかった……視えない力だけ……って、はぁはぁはぁ……あれ? いやちょっと待て、オレは結果を見せられただけで実は肝心なところは何も見てないんじゃ?』チッ〟
アザもアザで、思い起こしながらの言葉を重ねるが、ふと何かの気付きを得たようで、軽く握った右手の人差し指を顎に当てて、考え込む。
〝(『ふーん? アザ、いい感じに醒めてきたんじゃん? だいたい今回の標的は魔女らしいから、もうとっくに超常世界上等なんだよね。ウチのアルマだって、地味そうに見せるけど、幼気な可愛らしさを纏いながら、かなりぶっ飛んだことをしれっとやってのけてるからね。まぁ、見た目で判断するのは危険ってことなんだけどね』)〟
アザの変化に気付いたセリスは、思考の足しにでもなればと、魔女という言葉をモチーフにいくつか思うところを並べて返す。
〝『……そうか、魔女かぁ。そんな規格外がソフィア以外にもいるのなら。魔女なら、何か特殊な力? ん? 』チッ〟
〝(『お? なんだ? 何かわかったのか?』チッ)〟
早速、何かしらの思考の融合と展開でもあったかの変化を見せるアザにセリスは期待を膨らませる。
〝『いや、だがオレが知る魔女は、アルマの母親か、ほかの攫った魔女数名だが、確かに特殊な力があって、宙を浮いたり、魔力だかオーラだかでテレパシーのような会話ができたり……な、ことができてしまうが……もちろん、常人には不可能なことでも、現代の科学を駆使すれば、人は空も飛べるし、熱も光も風も水も地味な形だが、十分に操れる時代だから、それに比べたら、たいして凄いことはできないはずだぞ?』チッ〟
アザが気になったのは、自身の知る魔女という存在が為し得る力だが、不思議な力とはいえ、現代では科学的な解決により実現できている、つまりそれほどだいそれた力ではないという事実だった。
〝(『あー、そうね。普通の魔女ならね。普通といっても昔と違って自由に動けない魔女は弱体化もしているだろうしね……でも、だから今、ソフィア王女なんでしょ?』チッ)〟
〝『あー、そうだな。確か漆黒の魔女とか言ったか? サラブレッド級どころではない、一桁も二桁も違うとんでもない力を秘めているらしいな。撃墜されて海面激突する旅客機の落下速度を妨げるくらいの力は確かに凄いな。それとS国からの旅客機のテロ事件で戦闘機やV国のレーザー兵器を凌いだってのも眉唾ものじゃなさそうだが』チッ〟
そのうえで、アザはソフィアの特殊性に着目する言葉を並べる。ようやく話のテーブルが重なってきたことにセリスは好感触とともに返す。
〝(『でしょ? だから親父たちが目の色変えてソフィア強奪に躍起になってるわけで、そんな力が揮えるのって、もう普通の人間を遥かに超えるよね? つまり神とどこが違うの? ってことよ』チッ)〟
〝『そう。そこを妖精から「生ける女神」だってキツく叱られたよ。だが、本当に女神なら、オレたちが攫っていいものなのか?』チッ〟
ソフィアの生ける女神説が浮上し、それが神ならば、人間がそれを攫うという不敬かつ傲慢さの是非を問うアザ。
〝(『あー、もう。だから日和ってるって言ったのよ。あれほどの力なんだから、「神」ってのは承知の上の作戦でしょ? 親父たちがやりたいのは神の王国再建で、それには神の力でもない限り不可能ってこと。本物の神だから必要ってことなんでしょ?』チッ)〟
〝『そ、そういえば、そんなことを言ってたような……』チッ〟
どうやらアザはいつもの傲慢な態度で軽く聞きかじっていただけだったのか、理解の深さが足りていなかったようだ。
〝(『おい! おまえ! 何聞いてた?』チッ)〟




