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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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明鏡止水の狂気 〜 暗躍のうねり lij

 敵対する指揮官の男の言は、愛する母、ソフィアを人として見ないばかりか、まるで猛獣などに対する人間都合を押し付けた論理、果ては魔女は狩れ発言までやってのける。


 マコトにとって、これ以上の赦し難い言葉はなかった。マコトは怒りに打ち震える。異常に握りしめた拳からは血の雫が滴り落ちる。


 ツゥーーーーッ、ポタッ。


 その直前、如何に悪辣な組織であろうとも詳細がわからない以上はお仕置きまで、とイルに釘を刺す言葉を自ら吐いたマコトだった。にもかかわらず、ソフィアを含む自分たちの存在、そのすべてを否定し愚弄し害をなそうとする暴言、そして今まさに実害を被る真っ最中なら、それらの暴言は必然の未来と同義と言え、流石のマコトも冷静ではいられなかったようだ。


 劣るものなど何ひとつもない魔女に対し、この男が何故(なにゆえ)に上から目線の人間様ムーブなのかはわからないが、相手を殺して捕食するような生殺与奪を握る狩る側の目線で、相手の生命(いのち)を軽んじる輩であるならば、情をかける余地など微塵もない屠(ほふ)るべき敵であると認識するのは、太古の昔からの生き物に備わる自然で当然の道理。


 マコトに秘める本能が刻み込む。目の前に在るものは、自身とその周りの者を否定し、今を逃せばいずれ刃を向けてくる。衝突は不可避。共存は不可能。他の選択肢はない。「ヤらねばヤられる」――それは思考を凝らす戦略ではない、生存本能が呼び起こす純粋な自己防衛の衝動。ただ剥き出しのソレは理性を押し流し、明鏡止水の狂気を纏って、今すべてを放つ。


 自我を持たぬマコトの意識は、逆流するように自身のオーラを伝って男を包む自身のオーラへと移り、その場に透明な自身の写し身が顕現する。その姿は妖精のようなフォルムだが、一切の笑みはなく可愛らしさなど微塵も感じさせない冷え切った表情で、透けて視えないソレが何らかの挙動を見せるとき、光の反射の加減からか、初めて無機質な様相がその一部を垣間見せる。


 それと同時に、マコトのオーラが迸り、無数に枝分かれした触手のようなものが男の目の前で超高速で猛り狂う。


〝ひっ! 何が起こってる?〟


 このとき、マコト本体は抜け殻のような状態で当然スコープを覗き込めるわけもない。そんなマコトの常軌を逸した姿を見て、またマコトのオーラに触れ、その繋がった先、前方のヘリ内に集約される無我の意識と空間の歪みを感じ取ったイル。慌ててマコトの顔を押し出すように自身の右目をスコープに当て、イルは覗き込む。


 すると、その先で起こる異常な状態を見たイルは驚愕する。そこには男を蹂躙するように、無慈悲かつ強大な力を揮うマコトの写し身があった。


  『マコちゃん! マコちゃん!』

―― ダメだわ。怒りに呑まれて意識が跳んでる? マコちゃん還ってきて!

―― このままじゃ、マコちゃん、怒りにまかせてアイツを殺しちゃうよ!

  『マコちゃん? 戻ってきて!』


 オーラの触手は男の足に当たり、血が飛び散り、床、壁を叩いて、激しい打撃音を撒き散らす。男の血飛沫はマコトの透明な写し身の表面に付着する。ふとマコトの写し身の眉が上がる。


〝ギャッ、い、痛い〟


 しかし、そんな男の声はマコトに届かない。無情なまでの力が続けざまに男の全身を叩き、それにより男の位置を正確に捉えたマコトの自我を持たぬ意識は、鋭く細い針状のオーラを男の身体の数百箇所に同時に突き刺す。


〝ぐはっ、お願いだ。やめてくれー。〟


 そんな叫びにもマコトは反応を見せない。ただ、無数の針状のオーラが男の体中を突き刺し針が貫通するとき、男の体内の血が一斉にマコトのオーラに触れ、マコトの挙動が僅かにスローダウンする。


―― ダメだ……いったいどうしたら? ……!

―― そうだ、こんなときにマコちゃんの深層意識に問いかけるには……。

  『マコちゃん? イルだよ? 届いて!』


 そう言いながら、イルはマコト本体に口づけをする。かつてマコトがしてくれた反対の方法、イルは祈りを込めて自身のエネルギーを注ぎ込む。


―― 呑まれたらダメ! お願いマコちゃん! 還ってきて!


 男の声にはまったく無反応なマコトだが、自我を持たぬ意識の奥で、触れた血、命の血潮にはオーラが反応しているように見えた。そんなところへ、イルのエネルギーがマコトの写し身に届き、凝り固まったような自我を持たぬマコトの意識が大きく揺らぐ。それをきっかけにふとマコトの写し身の視界が拓ける。そして、今自らが行(おこな)っていた結果の、その惨状を目の当たりにしたマコトは心で呟く。


―― あれ? この状況、酷い有り様。マコはいったい……

―― と、これはイルのエネルギー? どこまでも無垢な温かさ……

―― マコが目を醒ませたのは……きっとこの眩しさに気付けたから? 


  『イル? 呼んでくれてたんだ』


 怒りに呑み込まれていたところで血飛沫と、続くイルの波動を捉えてハッとするマコトだった。しかし、マコトの体内に溢れかえる魔力、放出へと向けられたソレの勢いは、如何に当の本人であろうとも止めることは叶わない。


  『よよよ、良かったぁ〜。マコちゃん還ってきたぁ!』


 しかし、滾(たぎ)るような魔力とは裏腹に、マコトの思考は無意識に近い、冷えた状態だった。怯むことも慌てることもなく、今の状況を受け止め、瞬時に男の身体を避(よ)けるような力の運び方を選び取る。


  『でも、今のマコの状態、ヤバいね。力が暴走しそう……別の方法で発散してみるよ』

  『うん。よくわからないけど、なんとかなりそうなんだね?』

  『うん。たぶん。でも急がないと、この指揮官の男、助けられたとして、後遺症残っても後味悪すぎるから……まずは溢れかえる魔力を捌かないとだね』


 既に刺さった針状のオーラはそのままに、別の新たな触手のようなものを無数に伸ばし、マコトはソレに溢れかえる魔力を流し込む。この新たな触手は高速に動き始めるが、男に当ててはいけない、しかし早く吐き出さなければ、傷付いた男の身体は保たない。


 そんな葛藤を抱えつつ、マコトはふと、当て馬とする対象を見付ける。それは、くにゃっとへし折れた銃だ。ソフィアを狙った銃ゆえに、憤る魔力の捌け口としてはちょうど良い攻撃対象でもあった。


  『いい捌け口(ターゲット)見つけた!』


 マコトはその壊れた銃に狙いを定めて、数回軽く当てたのち、ソレを刻む方向で、触手の形状を刃のように鋭く変化させる。


 さらにその切れ味を向上させるために、触手の速度を上げ、反りのある日本刀の円弧(カーブ)を描くような引き切りで、さらに鋭くスムーズに切り込みを入れていく。


 疾く薄く鋭く……と、気を精錬するように、グングン速さと切れ味を増すソレは、瞳に捉えることも困難となる。その場におけるソレは、いつしか音とともに掻き消え、風切り音すらも無い静寂が、その場を支配するようになる。


  『ほよょぉ。凄いねマコちゃん。こんな力が発揮できるんだ』

  『あー、うん、そうだね。この力の使い方は研究の余地ありすぎかも?』


 ただ、そんな静寂に染まる空間で、そのときどき、まるでリンゴを切るようなシャクッとした音が混じる、と直ぐに、トンッと刺すような短い音が続く。床に置かれたへし折れた銃はしだいに短く形を変えていく。バラバラに掻き切られる破片が、機内の方々(ほうぼう)の壁面に突き刺さる音だった。


  『そうだよね? たぶんマコちゃんの怒りのパワーが凄すぎたんだと思うけど、普段なら出そうと思ってもなかなか出しにくいかもね?』


 それが安定しだした頃、マコトは突き刺した針状のオーラに癒しのエネルギーを注入する。鋭く細い針であったため、皮膚も臓器も傷つくほどではなく、患部に直接癒しのオーラが届きながら、ゆっくり治癒していくスピードに合わせながらゆっくりと引き抜いていく。抜き取った直後では、まるで何事もなかったかの状態となっていた。


  『そうなんだよね〜。怒りで我を失うのはやっぱり怖いから、まずは怒りの制御をテーマにしないとだよね? それに一人だと怖いからイルに手伝ってもらわないとね? あっ、大体終わったかな? イルも見てくれる?』


 その間、あまりの痛みと超常現象振りに怯え、男は固く目を瞑っていた。マコトの癒しで痛みは和らぎ、いつしか綺麗さっぱり痛みも無くなっていたが、身体を強張(こわば)らせていたため暫く気付くことはなかった。


 その後、あまりの静けさに男はようやく気付く。恐る恐る目を開くと、周りの兵員が前方隅っこに震え縮こまる姿、そして無数に細かく千切れた銃の破片がめり込んだ無惨な壁面の情景が目に飛び込む。


〝ひっ〟


  『うん。たぶん大丈夫だと思う。この男の怖がり方はアレだけど、怪我はもう何とも無いように見えるし、マコちゃんの力も収まっている感じで、銃も綺麗に調理された感じだし、バッチリじゃない? それに、この男の人にも良い経験ができたんだと思うよ』


 男は慄(おのの)き声を詰まらせ、瞬きを忘れた瞳は涙を貯めながら、ソファーの背もたれにガタガタと震わせる身体を押し付けていた。


  『イル? ありがとう。イルが呼び止めてくれたから、大事に至らず間に合ったんだと思う。この指揮官の男にはちょっとやり過ぎた感もあるけど。まぁせいせいもしたけど……やっぱりやり過ぎたよね? 収拾着かないかもどうしよ?』


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