無邪気な妖精 〜 暗躍のうねり l
正面ヘリのテールハッチ開口部から垣間見える偉そうな男をターゲットに、何を話しているのか確かめたくなったマコトたち。マコトはU国のベルと行ったオーラを通じた会話を思い出し、オーラ同士の縁を重ね声の片鱗に触れる。が、イルには聴こえなかった。
それはオーラという接点が結ばれていないからだと、マコトの背中付近に触れれば聞こえるかもと促すと、まだ調整途上の相手の声が突然イルの耳に飛び込んでくる。
〝ゎ! 聞こえた!〟
しかし、鼓膜を震わせたその声に驚くイルは、無意識に反応を声に零してしまう。
『あ! バカ! イル、声に出しちゃダメだってば』
念話でイルに注意を投げると、イルの声に反応したターゲットが声を上げる。
〝ん? 誰だ! 誰か何か言ったか?〟
『ゎゎゎ、ゴメン、マコちゃん』
今はまだ情報を何も聴けていないから、何とか今のこの場面を乗り切る必要があるとマコトは考え、誤魔化せるなら誤魔化してしまえ作戦を決行する。
『もう。こうなったら仕方ない。しらばっくれるよ。話を合わせてね? イル』
『え? どどど、どうするの?』
他に方策が何も思い当たらなかったマコトは、「妖精のせい」にするようだ。
『うーんと、こんなときは妖精のフリに限る。うーんとそうだな? マコが、マコト、コト、うん「コッティ」、イルが、イルゥ、イルル、うん「ルル」ね。ここは神秘的な海域という設定で。ミュージカルみたいに、トークはどこかふざけた感じで行くよ!』
やるなら徹底的に、とハッタリのざっくり設定をイルに告げる。聡明だが律儀で生真面目なイルは、そんな雑な設定でよいのかと、どこか訝しそうだ。
『え? そんなので通用するの?』
『や、わかんないけど、やるしかない!』
マコトはスゥーッと息を吸い込むと、顔の表情から成り切り、屈託のない顔で話し始める。そんなマコトの顔を見上げるイルは驚きながらもウットリ見惚れてしまう。
〝クスクスクス……だめじゃないルル、声に出しちゃ……聞かれたらどうするのよ?〟
どうやらマコトは妖精の囁きから始めるようだ。早速話を振られたルルは、慌てながらイルは棒読み気味に返し始める。
〝え、えェー?〟
『頑張れ! ルル。すっとぼけるんだよ。無邪気な感じでね?』
マコトのアドバイスもあり、ひとまず発声もできたことから、少し芯が座ったイルは、小さく頷くと、少しおどけながら続ける。
〝だってぇ……おっきい声にびっくりしたんだもん〟
『そうそう、そんな感じ。いい感じいい感じ』
『わかった、なんとかやれるかも?』
いざ始めてみればイルもなかなか役者の素質はありそうで、やや乗り気な様子だ。
〝え? 誰だ? 誰なんだ?〟
ターゲットは対話の舞台に登ってきたようだ。
『ほら、かかった。かますよ』
〝あれー? ほらー、ルルのせいで聞かれちゃったみたいよ? あなたはだーれ? こんなところで何しているの?〟
素っ頓狂に、可愛らしい妖精のフリで、マコトは情報引き出しにかかる。
〝お、オレに話しかけているのか?〟
〝そーよ? ほかに誰がいるのよ?〟
〝嘘だ。どこにいる? 騙されないぞ! 姿を現せ! なんでココにいる?〟
まだ半信半疑な様子が覗えるが、ここからがマコトのアドリブの真骨頂だ。さもありなんな会話を繰り出していく。
〝騙すも何もあなたの眼の前よ? あれ? あれれれ? もしかして視えないのかしら? あ! そうか。わたしたちの姿って、あなたたち下等な種族、人間には視えないのかもね。ふふふっ。それになんでココに、って、それはコッチのセリフでしょ? あなたたちがわたしたちの聖域に侵入してきたんでしょ?〟
〝下等だとぉ? ふざけるな! オレは神の一族、その末裔だぞ〟
すると、一人芝居のようなターゲットの行動に首を傾げる、周囲の、妖精の声が聴こえない者から声が掛けられる。
〝(指揮官どの? 誰とお話しされているので?)〟
これは信憑性を高める、マコトたちに都合の良い差し込みだった。マコトのオーラと接続しているわけではないため、この指揮官以外の周りの者の声は、指揮官に届いた声として反射されるように流れてくる間接的なもののため、マコトたちにはかなりか細い音量となるようだ。
〝なに? お前たちにはコレが聞こえないのか?〟
〝(はぁ……何も聞こえませんが)〟
そんな、ファンタジーなら有り得そうな論理で尋ねられ、目に視えない現実や言葉の道理に乗せられたこの指揮官の思考は、ゆっくりとマコトの言葉に傾倒していく。
〝ははーん。神の一族ねぇ。何か証拠でもあるのかしら? 自称、神の一族の末裔さん?〟
〝ダメよコッティ。仮にも初対面の方に対して失礼よ? きっと何かがあるんだわ。ホントかどうかは疑わしいところだけれど、まぁ、わたしたちの声が聞こえるのだから、1ピコくらいは混じってるのかしら?〟
〝そうよねルル。人は神の血が滴って創られたともいうから、誰でも末裔と言えるのかもしれないしね? 尊重する、って大事なことよね?〟
コッティとルルはターゲットを続けざまに詰りにかかる。信憑性を深めつつ、情報引き出しのために激情を誘う算段だが、コッティもルルもノリノリでどうやら愉しくなってきたようだ。
〝証拠はあ……る……いや、うちのジジイが言ってた……〟
間をおいて、この指揮官の男は言葉を絞り出す。が、どうにも薄すぎる根拠に言葉尻の締まらなさからも、言葉はしだいにか細くなっていく。そんなシドロモドロな男の様相に堪りかねたコッティは吹き出してしまう。
〝あーはっはっは。そっちも自称っぽいわね。くっくっくっく、お腹が痛いわ。あなたが世界のどちらで育ったのかわからないけれど、この東洋の国、日本には厨二病(著者注:すみません。この時代にはまだ存在しない言葉です。約10年後に産まれるこの言葉のニュアンスに代わる良い言葉が見つからず、でもどうしても使いたく)という大きな病があるとされているわ。あなたのお祖父さまも、きっとそれに罹っているのね。ぷぷぷぷ〟
〝ダ、ダメよコッティ。プププ。言ったでしょ? ププ……し、信じて差し上げなければこの方も立つ瀬がないわよ?〟
〝そういうルルこそ。ぷぷ。そんなことよりあなたは何処のどなたかしら? どんな目的でこちらにいらしているのかしら? さっきから尋ねているけれど、もしかして答えられないくらいの小物さん? ぷぷっ〟
好き勝手に罵りまくる2人の妖精、コッティとルルの言葉にワナワナと拳を握り込み、額に血管を浮かべながら真っ赤な顔で怒鳴りだす。
〝だ、黙って聞いてりゃ、愚弄するにも程があるぞ? オレの名はアザ。アザ・アミン・エル=マムーン。大西……いや、M国の名家の長男だ。妖精といえどこれ以上の愚弄は許さない。今すぐ姿を表し詫びるのなら赦してやっても良いんだが?〟
名乗りながら、小銃を手にし、指揮官の男は前方に向けて構える。
マコトはこの機を待っていた。降ろされていた銃の銃口がコチラに向けられる瞬間を。まずはこの銃を無効化したかったようだ。
実は少し前からこの機のために、ジンにも手渡したダイナビーもどきの螺旋ガイドライン表示とともに高速回転弾を発射する版と同じもの、ここでは仮に螺旋ビーとするが、その螺旋ビーにマコトは回転を装填しておいたのだ。それを構えてスコープの照準に集中する。
この螺旋ビーはその進行する予定方向をオーラのガイドラインで示す仕様だ。それを合わせれば大体その方向に進んでいくというものだが、今の状況では、この一発に集中できるため、的中するその瞬間までマコトはオーラで補正可能だ。
スコープ内で拡大される情景に映る螺旋状のガイドラインを銃口中心に据えながら、螺旋ビーから弾を捻り出すと、今弾が発射し、ガイドラインに沿って突き進む。
〝ほぉぅ。まだ、というかまったく立場がわかっていなかったようね〟
そんな言葉を放ちながら、マコトはミリ秒単位の時間粒度で集中しながら弾の軌道を見守る。約0.3NM、大体500mの行程を、弾丸より進行速度はやや遅くとも、超高速回転で安定直進する。しかし、対空流やヘリの吹き下ろし流による乱れで若干補正が必要となり、ガイドラインのオーラを操り誤差を補正していく。
仮に的中せずにこの男やヘリに当たっても、弾頭の柔らかいシールドから怪我や破壊には至らない。そして今、精密な軌道補正により、指揮官の男の構える小銃の銃口にスッポリと収まる螺旋ビーの弾。
ぎゃぎゃぎゃぎゃ……。
ここでマコトは弾の胴体を広げる。すると高速回転する弾は銃口内で激しい摩擦を生み出し、銃口内の螺旋の筋は掻き切られ、続いて激しい摩擦は瞬く間に高熱を帯び、銃口は赤く仄かに光りながら熱により銃身はくにゃっと曲がる。
しゅぅぅぅぅ……。




