誰だ! 〜 暗躍のうねり xlix
これ以降は少なからず他者に何らかの影響を与える行為を伴うフェーズだ。迷いはコトの成否を揺るがす。さらに相手が悪辣ゆえに失敗は程度の大小はあれど誰かの命に跳ね返る。イルとマコトは2人の間にわだかまるひとつひとつを紐解き、意識の共有を図る。気持ちをひとつに、お仕置きを成し遂げる誓いを立てる。
周波数を僅かにずらした2つの真空ビーをそれぞれスケボーのハンドルに装着したパイプにセットし、波長にマッチするようパイプの長さを最終調整する。
真空ビーとは、真空のダイナビーもどきのことだが、外部と遮断したその内側は真空状態に保たれ、内側のメイン回転軸にはボールベアリングなどはなく、魔力による非接触の回転軸となるため、その回転方向に一切の摩擦は生じない。一度回転を始めたなら、延々と周り続ける。また、真空状態のために蜂の羽音も発生しない。
ただし、回転を加速するために使用する、メイン回転体の外側の次元の異なるもうひとつの回転軸は、その外郭に回転軸(軸というよりは回転するためのレールのほうが適切かもしれないが)を接しているため、可聴周波数である蜂の羽音は出ないが、内部回転による振動のみが外郭に伝わる。すなわち、166hzの周波数の振動のみが外に伝わる状態となるわけだ。これにより、セットされたパイプの中では、166hzの振動数のみが純粋培養される、という寸法だ。確認と調整が終わると、マコトはパイプを開いて真空ビーを取り出し、イルに手渡しする。
『じゃあイル? 使うそのときまでコレ持っててね?』
『イル了解』
そこまでの準備が整えば、あとは戦闘エアボードに乗り込むだけだ。これまでの単純スケボーではないため、注意事項説明とともに、マコトはイルをエスコートしていく。
『はい、じゃあイル? さっきと同じようにハンドルを背にマコに抱きつくように乗ってくれる? あー、風除けとイルの防護や居住性を高める意味でシールドと裏に柔らかいマットみたいなのを付けたから、寒くないし銃で撃たれても弾くし、背を預けても感触良いと思うし、それで安定したイルが抱きしめてくれるなら、マコも安定するし温かいし快適感は増したと思うよ?』
実戦経験としての単純スケボーでの運用から見えてきたいくつかの解消観点から、改良を施して、安全性と快適性は随分増したようだ。さらに今回の追加装備が生み出す安定感や精悍な佇まいは2人の目を抜群に輝かせるようだ。
『ふぅゎぁ……凄い進化! 居住性向上も凄いけど、両側にパイプ? レールポッドだったっけ? これがあるといざというときに掴まれるから安心感・安定感も凄い! なによりこの装備のゴテゴテ感が戦闘ヘリ? みたいな精悍な格好良さが半端ないね?』
イルは興奮気味に語る。剥き出しの素朴なエアボードだが、相対的な変化の大きさにラグジュアリー感を抱いたようだ。
『あははは、気に入ってくれた? じゃあ、行くよ? ママ、行ってくる』
『うん!』
『了解! わかっているとは思うけれど、マコちゃもイルちゃも無理はしないのよ? ……ん? ちょっと上空のヘリも気にしたほうがいいかもね?』
『うん、わかった上空ね。大丈夫!』『はーい!』
マコトとイルを乗せた戦闘エアボードはシールドを乗り越えて、前方へと発進する。前方サイドのヘリとソフィアのいる場所を結ぶ直線の少し下側、進行方向に対して少し左側をゆっくり加速しながら距離を詰めていく。
マコトとイルはステルスポンチョを羽織り、フードから見え隠れする顔と手足の先部分以外は空気に溶け込むように周囲からはまったく視えない状態だ。エアボードや装備するパイプも非光沢の透明仕様のため、よほど注意して見ない限り視認は困難なようだ。金属は皆無のため、レーダーに補足されることもない。
ただし、ハンドルに装着するスコープの筒自体は漆黒だ。正面からは視えにくくても横からは丸見えとなる。照準調整等で触るためステルスシートで覆うことは難しく、スコープを使用しない飛行中はうまく覆い、スコープ使用時のみ外すようだ。
しかし、ここでいくら覆っても、ハンドルへの接合部分が透けた先に視える小さな範囲だけは隠しようがない。小さな黒い固形領域が下方から視えてしまうが、ポンチョに隠れぬ足とともに、目立たないように飛行するほかないようだ。
とはいえ、C国ヘリ群の目は下方に存在しない。気にすべきはU国潜水艦だ。今のところ関わりは少なく、当初はそれから離れる方向への経路取りだったが、C国ヘリ群に囲まれたことから、本土への接近を断念し変針中の今は、U国潜水艦へと絶賛接近傾向にあるわけだ。
そうして今、正面のC国ヘリへ0.3NM付近の位置へ遷移完了するところだ。今一度、装備を確認し、解放された後部ハッチから覗かせるヘリ内の状況をマコトはスコープで確認する。
『イル? そろそろ着くけど準備は大丈夫?』
『うん。真空ビーは回転数を保持してるし、唸りもちょうどいい感じだよ?』
『OK。向こうはマコたちに気付いてないね。よしよし。ひとり、偉そうなヤツが怒鳴ってる? 何かいろいろ喋ってるみたいだけど、聞こえないからなぁ……あっ、そうだ』
相手の様子は見えるが、声が聞こえなければその意志判断が難しいことから、なんとか声を聞く方法がないかと、マコトは思案する。ふと今のようなシチュエーションでの会話した身近な記憶が脳裏に浮かぶ。それは少し前の時間にしたU国のベルとの会話だった。
『え? どうしたの? マコちゃん』
『あ。確かイルは寝てたときか。ある人とオーラを使った特殊な会話ができたんだ。もしそれができたなら、ここからC国ヘリ内の会話も聴き取れるかなぁって』
『え? それ便利そうだね。少しでも情報あると有利だから、マコちゃんやってみてよ』
『うん。わかった。どうやるのか、よくはわかってないけど、オーラの端っこを震わせる感じだったような? たぶんこうかな?』
マコトはそーっと自身のオーラを前方に、オーラの縁付近を膜のようなピーンと張った感覚で拡げていき、ターゲットの偉そうなヤツまで伸ばし、神経を集中する。すると、掠れるような声の片鱗に触れる。
〝…………(ざざっ)…………(ったいどうなっ)…………(ざざっ)…………〟
『き、聞こえた! 英語っぽいね。でもちゃんとマッチしてない? ちょっと調整をトライしてみるけど、イルは聞こえた?』
なんとなく、ラジオのチューニングをしているような感覚で、マコトは自身のオーラと相手のオーラの片鱗がより確実に接するように位置の微調整を図っていく。相手に多少の動きがあっても外れにくいような接し方が重要そうだ。
『ううん。まったく』
どうやらイルには聴こえないらしい。それもそのはず。オーラという接点が結ばれていないのだから当然と言える。マコトはそれに気付いて、今のオーラ接触の方法や今今理解途上の仕組みについて、わかってきたことをイルにレクチャーする。
『そうだよね。マコもまだよくわかってないけど、この方法はね、オーラの端っこを震わせるみたいな感じで、なぜか、こんな騒音の中だけど、口から発する言葉がオーラに乗るみたい。同じようにオーラを感じてると、それが鼓膜に響くのか、けっこう明瞭に聞こえるみたいなの。たぶんだけどね。だからマコのオーラの端っこにイルのオーラも重ねると、もしかしたら聞こえるかもだよ。気を付けなきゃなのは、口を動かして出た言葉はそのまま乗っちゃうから気をつけてね?』
『へー。また便利な方法があるんだね。ちょっとやってみるけど、オーラの端っこって何?』
『あー、イルにはまだ視えてないのかな? マコは前方に伸ばしてるけど、後ろは背中の10cmくらいのところだから、イルはそこを手で触れれば意外と行けちゃうんじゃない?』
『あー、うん……』
すると、まだチューニング途上の相手の声の片鱗がイルの耳にも届いたようだ。
〝…………(ざざっ)…………ったく。壊れたのなら代わりの銃を…………〟
〝ゎ! 聞こえた!〟
突然、鼓膜を震わせたその声に驚いたイルは、会話する上での耳とセットになる口が無意識に反応して声に零してしまう。
『あ! バカ! イル、声に出しちゃダメだってば』
念話でイルに注意を投げると、相手も声に反応したようだ。
〝ん? 誰だ! 誰か何か言ったか?〟
『ゎゎゎ、ゴメンマコちゃん』




