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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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ヘテロダイン効果 〜 暗躍のうねり xlviij

 レンズと筒を組み立て、マコトはガリレオ式望遠鏡を作成する。それをスコープとして、ハンドル付きスケボーのハンドルに取り付ける。また、真空のダイナビーもどきを振動源とする2つのパイプをスケボーのハンドルの両側下部にレールポッドのように装着する。


  『ズレていて欲しいんだ。秒間4回くらいがいいかなと思ってるから、もしかしてちょうどよい感じ?』


 それぞれの真空のダイナビーもどきは微妙なズレが必要とのマコトの言に、イルは理解が伴わない。その不可思議な微妙なズレは流石にイルの思考を淀ませる。


  『それなら、たぶんそのくらいかな? 4回くらいになってると思うけど、なんのために? 説明あると嬉しいな?』


 指示に対していちいち口を挟むことはしないつもりのイルだったが、ここはどうしても説明が欲しかったようで尋ねてみた。


  『だよねー。えーっとね、いまからこの低周波を増幅したものを相手にぶつけようと思うんだけど、そのままぶつけられても、166hz(ヘルツ)くらいだから、秒間166回の振動は速すぎて、ブルッとするくらいで突き抜けちゃうのね。要するに何にも効果はないってこと。だけどこれが秒間4回くらいの大きなうねりの場合はちょっと別の話で、これを受けると身体の内側が揺らされることになるからヤバいんだ。そんな状態を作るのがこの2つのパイプ、その元は真空ビー。この説明でわかる?』


 マコトから返ってきた説明は、わかりやすい簡潔なものではあったが、その後半部はやや悪辣な香りを纏うものだった。普段の可愛らしく純粋無垢なマコトの放つ言葉とは到底思えないもので、ごく直近のマコトの表情に含まれる黒さの正体がそれであると察したイルは肌が逆立つ感覚を感じながら、ふと思い立つ類似の状況を交えて尋ねる。


  『わ、わかったけど……こ、これがマコちゃんの黒さに秘めるカラクリってことなのね。なんだかゾォーとしてくるけど、それでこんなことを虎視眈々とマコちゃんは考えてたわけか。あっ、でもそれってソフィーやレイラさんの状態に似てるね?』


 そんなイルの疑問に、マコトはまた淡々と語り返す。


  『うん。そうそう。少しだけ手法が違うんだけどさ。あっちは音響機器で超音波を向けて産み出してた。マコには超音波が作れないから低周波から近距離直接って感じで、パラメトリックなんちゃらのお返しをして差し上げるわけね? あー、今やろうとしてるのは「パラメトリック音響放射」とか言うらしい。パパに教わった。音響工学関連の技術で「パラメトリック(Parametric)・アレイ(Array)」とか、その応用で「ヘテロダイン(Heterodyne)効果」そのものの理論に基づいているものらしい。完全に受け売りなんだけどね。元々はそれで音を再生するための平和的な技術なんだけど、利用の仕方を間違えたらこんなにも悪辣。エグいよね?』


 マコトは悪辣であることをわかっていながらも、それを技術的な知識とともに淡々と説明する。


  『そ、そうなのね。ちょっと怖いね』

  『そうだよね。こんなことはコレを最後にマコもしたくない。だけど、あいつらはそんな凶暴なことを大切なママに向けた。その巻き添えでレイラさんは死にかけた。うまく凌げたけれど、マコもイルも同じく浴びてるんだよ? 何もしなければ、イルもマコも死んでたかもしれない……そんなの赦していいの?』


 イルのやや後ろ向きな気持ちを察したマコトは、今の行動に及ぶ理由を事実として羅列する。それを聞きながらイルはハッとする。マコトが今の行動に至るのは、ソフィアという大切な存在が害されたことへの怒り、そしてレイラだけでなく、いつの間にかマコトもイルも受けていたという事実、気が付けなかったのは、イルはいつの間にかマコトによって守られていたということ、それを思い知らされたイルは納得を返す。


  『それは……うん。イルも嫌かな』


  『でしょ? 相手を殺そうとする者は反対に殺されることもある。つまり殺される覚悟をもって臨んでる。反対に殺される覚悟のない者は相手を殺そうなんて思っちゃいけないんだよ。けどあいつらは違う。自分たちは何食わぬ顔で遠くからただ音を投げつけるだけ。当然何の予告もなし。しかもまったく見知らぬ人たちなんだよ? 銃火器やミサイルじゃないから、誰も攻撃しているって気づきにくい。だって聞こえはしないけど音波だもん。誰も音響機器で人が死ぬなんて思わないよ。何をされたかは死ぬまで誰も気付けないほどの特殊な方法で、何かをされていることに気付いたときには死んでいくんだよ? 前例もないし直接の接触もないから証拠も残らない。どこまでもイヤラシイ卑劣極まりない手段。絶対に赦せない』


 相手の卑劣さを説くマコト。ひと息置いて、どうしたいかの自身の意志を続ける。


  『でもマコは相手が誰であろうと誰かを死に追いやるつもりはないよ。だけど、苦しめられたのなら、同じ苦しみは返して然るべき。理由(わけ)もわからず大切なママがいたぶられて、外見は怖くて強そうだけど中身は純粋なレイラさんが殺されかけて、その上、今は銃撃まで向けられて……マコは本気で怒ってるんだよ。大体、会ったこともない得体の知れないあいつら。裏で糸引いてるのは武器商人らしいけど、ずーっと昔からママを執拗に狙う存在で……』


 さらにマコトから人間同士が争うことの理(ことわり)、そんな対等な位置ではなく、何もわからないまま相手を見えないところから死に貶めるというありえないほどの卑劣さを説かれる。


 わからないようにことを為そうとするからか、目立たないそんな状況から、イル自身は怒りすら湧いていなかった、そんな自身のエセヒューマニズムさ、気付けない愚かさをあらためて気付かされたイル。


 強い語気で語るマコトのそんな怒り。今ようやくその真実に目を向けられたという恥ずかしさ。そんな怒りを抱えるマコトが、それでも命を取るではなく、苦しみだけは返すという奥ゆかしさにイルは心を震わす。


 そしてその末尾で、そんな卑劣なことを行う正体が武器商人である、ということを知って、イルは激しく動搖し、確かめ返す。


  『そうだよね。赦せないね。イルも同感。って、え? 武器商人って言った? 今襲ってきているのは武器商人なの?』

  『うん、そうらしいよ? 詳しくはわからないけれど、あちこちの国や団体を焚き付けて戦争の火種を撒く悪魔のような団体なんじゃない? それがどうしたの?』


  『う、うん。今、相対してるのは、そういうヤツラなんだね。それならマコちゃん、思いっきりやっちゃって! イルも全力でサポートするから! うぅぅ……』


 武器商人が相手だと知ったイルは、意見を完全に急反転し、マコトを鼓舞しながら涙を零し始める。


  『え? なになに急にどうしたの?』

  『ズズッ……うん。ゴメン、思い出しちゃった。だって武器商人がアチコチに武器をバラ撒くから、アフリカって、ホントあちこちで内戦だらけなんだよね……ズズッ……アイツラがいなかったら、パパも弟たちも、今頃きっと元気に生きてた……』


 イルは、アフリカ全土で戦火が絶えない現状とともに、かつて失った自身の家族に思いを至らせる。失う原因の大元に武器商人という存在があるのは明白な事実だったからだ。


  『あぁ、テロ組織かなんかの抗争に巻き込まれてバスが爆発したって言ってたね。イルも、いやアフリカに住まう多くの人たちまで……はらわた煮えくり返りそうだね。わかった。容赦なく徹底的にやろう! でもさっき言った通り、いたぶり返すまでね。詳細がわからない以上、人というレベルで、今のアイツラがママやイルの昔の事情に関わったかどうかもわからない。悪辣な組織だとしてもそれを成敗(せいばい)するのは別な大人たち、国なんかのキチンとしたところに任せればいい。先のことはわからないけど、今のマコたちは、今受けている仕打ちに対して、せめてキチンと思い知らしてあげること、悪さに対してお仕置きすることだと思うから』


 マコトはイルの思いに寄り添い、容赦なくやることを誓う。しかし、それでもやるのは、今ある事実に対するお仕置きまで。あくまで現行犯的な確かな眼の前の悪行に対象を限定し、思い知らせる程度に留めるということだった。


 イルもそんなマコトの姿勢に完全同意を返す。


  『うん。それでいい……ズビッ……』

  『はい。イル。涙を拭いて…』

  『……ズズッ……チーーン。フン! フンフン! やるよ! マコちゃん。イルも頑張るよ!』

  『オー!』


 気持ちを盛り上げて一致団結、お仕置きを成し遂げる誓いを立てた二人。その後は、せっせと準備に勤しむ。


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