魔導学者と助手 〜 暗躍のうねり xlvij
マコトは逆襲のための仕込みとして、イルとともに2mのパイプにある周波数の振動を閉じ込める検証を行った。そんなところに、再び敵からの銃撃を受け、うまく逸らすが憤りは積み重なり、猶予もそれほど残されてはいないことを含め、改めて気合を入れ直すマコトたちだった。
『よし! 急ごう』
そう言って、後は無言でそそくさとマコトは作業を開始する。今度はさっきより小さめ短めのパイプ、大きさ的には筒のほうが適切な表現だが、それを3つオーラで生成する。それは順に直径を小さくしていき、大中小と一つに収まる大きさだ。
「大」のなかに「中」、そのなかに「小」と隙間なくぴったり筒が収納できる構造だ。そして、先に作っておいたレンズをハメていく。一番小さな筒の手前側の末端位置に接眼用の凸凹レンズ、他の筒の先端部に凸レンズ。筒は非透過漆黒とし、ガリレオ式望遠鏡の完成だ。マコトは学習素材の簡易望遠鏡を作成したことがあり、その時の記憶を思い出しながら作成したようだ。
その筒をスライドさせて、調整しながら前方ヘリのキャビン後方開口部を覗いてみる。ピント調整を繰り返すが、滑らかさに気を配って作成したレンズとはいえ、中心にフォーカスを合わせると周囲がややぼやける状況となる。だが、今はそれで充分、素人の突貫工事で作成したものにしては上出来だ、との判断でこの作業は完了。いつかまた、精密な望遠鏡は時間をかけて作ればいい、とマコトは心に栞を付けておくようだ。
そしてハンドル付きスケボーのハンドルに、望遠鏡をスコープとして、目の高さに合わせてオーラの装着具で固定する。三脚の代わりとして、高さを確保・調整したうえでハンドルで左右を微調整できるのも便利だ。片手で照準を安定させて、もう片手でズームやフォーカス調整も容易そうだ。
実際にスコープから、前方ヘリのキャビン後方開口部を最大化して覗いてみると、偉そうな男が1人、後ろ向きの椅子、いやおそらく機外から持ち込んで設置した高級ソファーのようなものの上にふんぞり返っているのが見える。しかし、スコープ越しの視界はそれでもまだ小さく、顔の判定も難しそうな微妙な距離感だ。約0.7NMの距離は存外に遠いようだ。
『イル? ここからだと狙いを着けるには遠いようだから中間地点くらいまで近付くよ? ポンチョ羽織ってさっきのダイナビーもどき持って準備して!』
『了解。でもマコちゃん? さっきのパイプ、振動凄そうだけど大丈夫?』
さっきのパイプとは、狙撃前にダイナビーもどきをセットした2mのパイプのことだ。ハッとしながら、マコトは即座にパイプの長さを2.5m程度に伸ばして、共振の位相位置を探りながら調整する。
『あ! 忘れてた! ヤバいヤバい共振が進んで破裂するところだった』
波とは、0の高さから山を登って降り、0の高さを経由して谷を下ってまた登り、0の高さに戻る、のが一つの周期で、今の周波数の場合、それが大体2mの長さとなるわけだ。振動を発振しつづけた場合、波長に調和する閉鎖空間では、この周期は正確に繰り返され、山と谷はひたすらその方向に力が加算されていく。時間にして数分も放置すれば、それを封じ込めたパイプは耐えきれずに破裂する。これが共振という現象の怖いところだ。
しかし、その波形の1/4、この場合は0.5mを正確に長さ調整することで、壁で跳ね返る、位相が反転した波はその振幅(波の高さ)を打ち消すように働く。マコトが長さ調整したことで、パイプの振動はたちまち静まり返る。マコトはオーラのパイプの蓋を解放した後、霧散させ、ダイナビーもどきも停止させる。
『ホッ! コレで大丈夫。ありがとう、イル、助かったよ』
『危ない場面だったんだね? びっくりしたぁ。でも良かった、お役に立てて』
『ホントだよぉ。ナイスアシスタント!』
なんとか失念していたパイプへの対応も済ませ、2人は気を取り直して準備を再開する。
『ふふっ、じゃあマコちゃんもこれ! はい、ポンチョ』
『ん。サンキュ。でもおかげで時間的な感覚もわかったよ。10秒もあれば力は溜まるってことだね』
準備に取り組むのだが、マコトの脳裏では今起こったことの整理も欠かさない。振動を封じたパイプが時間にしてどれくらいで飽和するのかの検証が抜けていたことに気付いたマコトは、新たに知れた事実を嬉しそうに話す。それを耳に入れたイルは、大切なこととは理解しつつも、やや皮肉っぽく少々呆れ顔で返す。
『もー、マコちゃんってばぁ。なんでもかんでも検証結果になるんだね。まるで科学研究所の科学者か、そのスタッフさんみたい?』
『あー、そうかも。モノ作りってこういうところが大事なんだよね?』
そんなイルの呆れ顔もマコトには響かなかったようだ。イルの言葉をそのまま呑み込むと、マコトはその重要さを嬉しそうに語り返す。それを聞きながら、イルは自分の記憶にわだかまる何かに合点がいったようで、振り絞るように語り出す。
『あーん、もぉぉーっ。ようやくなんかわかった気がする……ふだんマコちゃんに感じる焦れったさっていうの? マコちゃん、凄いものを作り上げるけれど、モノ作り以外に対するだらしなさ? もとい、無頓着さ? それって科学者や研究者なんかのソレと同じ気がするよね? 何かに夢中になってるときのマコちゃん。なんかイルがいないとお風呂も忘れたり、顔も汚れたままだったり。なぁーんか、イルってば、マコちゃんのお世話をするために生まれてきたのかしら? って錯覚しそうになるよ。まったく……まぁ、勝手にイルがお世話してるだけだし、マコちゃん大好きだから良いんだけどね?』
日頃蓄積していた思いが噴出するイル。言葉にしながらも、その行動原理と理由がなんであるかを改めて自覚するイル。マコトに対する呆れよりも、それを自らの意志で世話している自分自身に対する少々の呆れと、マコトへの気持ちの深さを思い知り、諦めたような柔和な表情で話すイル。
対して、マコトはそのままを受け取り、悪びれることもなく、むしろ好意を寄せてくれるイルに対する嬉しさを滲ませながら、あっけらかんとした表情で返す。
『あ! あはっ! そうだね……うん。そうなのかも、ふふっ。これからもよろしくねイル?』
『うーん。もう! しょうがないわね。まぁ任せて! マコちゃんとイルって科学者と助手、ううん、違うな、いつもオーラとか魔力絡みだから魔導学者と助手みたいだね?』
イルは諦め顔だが、どこか嬉しそうだった。
『イルがそれでいいならだけど、マコはイルとのモノ作りや研究できるのって愉しそうだな、とは思う』
『そうだね。いつまでもやるつもりはないけど、暫くは助手してあげるね?』
『マジ? やったー。イル大好き!』
『イルもよ? でもイルもご褒美期待してるからね?』
『わかってる』
イルと会話しながらも、作業の手は止めないマコト。約2mのパイプを2つ作成して、スケボーのハンドルの両側下部にレールポッドのように装着する。いや、そんな言葉は存在しないが、戦闘機などのミサイルポッドやパイロンのように、前方に発射可能な構造としての装着で、まるで戦闘ヘリのコブラやアパッチのような風貌だ。これはもう、戦闘エアボードと言っても言い過ぎではないくらいの風格を醸していた。
『あ! イル? 真空ビー、あ、さっきの真空のダイナビーもどきね? 準備できた?』
『うん、できてるよ! 跳ね返る力加減はさっきと同じくらいの2個ね?』
マコトは、事前に指示した2つのダイナビーもどきの準備が整ったことを知ると、今度はそれを使ったある確認事項をイルに告げる。
『OK! じゃあ、それを互いにくっつけてみて? 周波数のズレがあると、それが唸りを上げるのだけど、それがどんな感じかを教えてくれる?』
2個を接触させると、その周波数によっては唸りが上がることをマコトは伝える。言われたままに実行に移すが、何をしたいのかさっぱりなイルは首を傾げながら、疑問を尋ねる。
『あー、うん、くっつけた。秒間に3回? 5回? なんかそのくらいの振動数? でヌーヌー言ってる感じ。これ揃え……唸らないようにする必要があるってこと?』
『あー、違う違う、ズレていて欲しいんだ。秒間4回くらいがいいかなと思ってるから、もしかしてちょうどよい感じ?』
イルは元々同じ回転数となるようにと言われ準備したダイナビーもどきへの回転装填だったから、ズレているのはまずいのかと考えていた。てっきりそれを補正し同じ回転数にする指示が出るものと思っていた。すると、マコトの回答は反対で、微妙にズレていて欲しいとのことだった。
『それなら、たぶんそのくらいかな? 4回くらいになってると思うけど、なんのために? 説明あると嬉しいな?』




