波長の整合 〜 暗躍のうねり xlvj
漆黒の力を顕現させたマコトの髪は天に向けて逆立ち、広範囲に広がる状況となっていた。その対応として、イルが作ってくれた特製スカーフでポニーテールに束ねるマコト。際立つ凛々しさにイルは惚れ惚れとするようだ。
また同時進行でダイナビーもどきを転用したろくろを回し、オーラから物質化した透明素材を乗せ、その柔らかさを調整した状態でマコトの漆黒の髪の毛1本を当てながら自然な曲面となるようレンズを作成し、3つのレンズが完成する。
『じゃあ、イル? ひとつお願いがあるんだ』
『なぁに? マコちゃん』
『この2つのダイナビーもどきに回転を装填して欲しいんだ』
『なんだそんなこと? OK、大丈夫だよ』
『あ、さっきまでのと少しだけ違ってて、これは密封した真空状態のタイプだから、紐では引っ張れなくて、魔力操作で始動する必要があるんだ』
『なぁんだ。それも大丈夫だよ。それくらいはできるように上達したから任せて!』
すっかりダイナビーもどきの扱いにも慣れ、頼もしい返答を返すイル。マコトは嬉しそうに頬を緩める。イルが自分寄りの世界に通じ始める傾向が、今後の会話でも意志疎通が円滑になると思えるからか、マコトは嬉しさを滲ませるようだ。
『お! さすがイルだね。でもまだあるんだ。回転数を超音波の周波数帯域まで上げる必要があって、可聴周波数の上限は大体、20000hz、ダイナビーは蜂の羽音くらいが10000rpmって聞いたことがある。だからちょっとだけ魔力で加速させてあげれば……あれ?』
『マコちゃん? 単位が違うように聞こえたけど……』
マコトは話しながら、数値の単位が異なることに違和感を感じ、イルも単位違いに気付いてツッコミを入れる。
どうやらマコトは根本的な勘違いをしていたらしい。動搖が動搖を呼び、慌てるマコトは大きく狂った想定の修復に躍起になる。
『だぁーーーっ! そ、そうだよねー、マコも今気が付いたぁ、ショックゥー。どうしよ? rpmは1分単位の回転数だぁ。60で割ると大体166hz、可聴周波数上限の20khzに全然届いてない。ダイナビーは超高速回転だからってあと少しで超音波領域に加速できるって勝手に思い込んでたよ。どうしよ! ヤバいヤバい。超音波が作れないよー! せっかく目には目を、歯には歯を、パラメトリックにはパラメトリックを! って痛快反撃できるって喜んでたのにー。どうしよー! ……どうしたらいい? マコ? どうすれば解決できる? ブツブツブツブツ……超音波じゃないとビームで撃てない……だから、ここから届けられないことになる……どうすればいい? 考えろ! マコ……あれ? 待てよ? ここから直接撃たなくてもいいのなら、超音波じゃなくても……でも、そうすると……ブツブツブツブツ……低周波のままお届けするってのは? ……ブツブツブツブツ……あ! それなら、でもどうやってそれを確かめる? ……ブツブツブツブツ……』
『どうした? マコト。何か面白そうな方法を考えているみたいだな』
そんなマコトの様子を念話越しに感知したジンが助け舟を差し込む。
『あ! パパァ。そうなんだけど、ちょっと勘違いしてて……』
『パラメトリックにはパラメトリックか。くふふ。マコトらしいな』
ジンが自ら差し込みを入れたのには、マコトの言に興味をそそられたことが大きそうだ。
『そう。聞いてたんだ。あははは。でも、ちょうどよかったよ、また聞いてくれる? 超音波のビームが作れなさそうなの。ダイナビー程度じゃ多少加速しても超音波には全然届かないんだ』
『そうだろうな。音響機器でもないと無理なんじゃないか?』
『どうやら、そうみたいだね……この土壇場で、ちょっと焦ったぁ』
『その含みある言い方は、何か思いついたってことなんだな?』
『ん、ま、まぁね。でもそんな方法で大丈夫なのかや、具体的な確認方法なんかがちょっとわからなくて、パパに聞かなきゃ、って思っていたところなんだ』
『ほぅ。さすがマコトだな。今の状況で妙案なんてオレには思いつけないが……まぁ話してみてくれるか?』
『うん。それじゃ手短にね……(かくかくしかじか)……』
……
マコトはジンに、思いついたアイデアを事細かに、しかし最小限となる要点に絞った説明として、ジンに伝える。
『ほぉぉぉ、凄いなマコト。それならイケるんじゃないか?』
『やっぱり? でも確実を期す、具体性が……ちょっと曖昧なんだ』
『あー、さっき言ってたやつか。それなら……(かくかくしかじか)……』
……
ジンは、マコトがイメージするものを実現するために、必要な要所説明をマコトに伝える。マコトはひたすら頷くばかりで、ジンから返される数々の妙案に目からウロコ状態のようだ。
『へー、そうやればいいのか。さっすがパパ』
『いやいや。具体的なテーマが示されたなら、オレが知る範囲でのアドバイスはしてやれなくもないが、こんなやり方を思いつくなんて、オレにはできないぞ』
『へへっ、そう? でも、パパ言ってたでしょ? 心胆寒からしめてって』
『あー、確かに言ったが……無理に合わせる必要はないからな? できる範囲で充分だ。それにしてもそんな方法なら、すっきりエレガントに逆襲できそうだな?』
マコトのアプローチをすっかり満喫できたジンは、嬉しそうに未来予想を返す。
『そうでしょ? グフ』
『ああ。気をつけて掛かれよ? それと少し上空に気になるヘリが飛んでるから要注意だぞ?』
新しい情報として、周囲の多数機となるヘリ以外の情報をジンは連携する。
『え? あー……アレね。わかった。見られるのはマズそうだから注意だね』
『ジン? 私も了解よ。コチラはあと少しレイラさんの癒しの最終調整中よ』
『ソフィアか。ソフィアも目立たないようにな?』
『わかったわ』
『マコも了解!』
ひとまず、聞くべきは聞けたマコト。再びイルとの共同作業を開始する。
『イル? 作戦再開! いったん普通のダイナビーもどきで蜂の羽音まで加速して、その状態の反応の重さ? っていうのかな。それを確かめてくれる。その体感をベースに次の作業にかかってもらうから、可能な範囲でいいけど正確にね? じゃ、はいコレ。マコは別なの作ってるね』
『うん。わかった』
そう言って、マコトは直径10cmくらい、長さおよそ2mの透明で硬い円柱をオーラから作り上げる。その両端に空気抵抗に配慮した蓋ができる構造のものだ。
そう言っている傍らで、イルはダイナビーもどきから蜂の羽音を鳴らし始め、その回転数でのジャイロの負荷の反応を確かめていた。体力増強器具としての役目がある以上、ある一定の重さ、抵抗感が跳ね返る。それはおおよそでしかわからないが、今はそれしか判断方法がない状況だ。
『できたみたいだね。じゃあイル? それをこの筒に入れてみてくれる?』
『わかった。はい。これでいいかな』
イルがダイナビーもどきを平行状態のオーラのパイプの中に置くと、マコトはその蓋を閉じる。すると、パイプの中で羽音の音量も増してくるが、パイプの振動の大きい部分がパイプのどこかに表れ、その位置が移動していく。
『うん。OK……うーん。これは少し短いのかな? 少し伸ばしてみるか』
そう言いながらオーラのパイプの長さを5cmほど伸ばしてみる。すると振動位置の移動方向が反転し、その移動速度はやや遅くなった。
『あー、ちょっと修正大きかったか、少し短く』
今度は1cmほど短く、最初より4cmほど長い状態に長さを修正する。すると振動位置はほぼ停止するが、若干の移動は残るようだ。
『ねえ、マコちゃん? それは一体何をしてるの?』
『あー、うん。そう。説明重要だよね?』
『もちろん!』
毎度のことだが、わけのわからない眼の前のマコトの行動について、イルは説明を求め、今回のマコトは素直に了承する。
イルから何度も「説明重要」との言を繰り返されたこともあるが、ある程度の理解を得ておくことが、事後作業の円滑さにも繋がるとマコトは判断したようだ。
『ダイナビーの蜂の羽音って大体10000rpmなんだって。秒単位なら166hz。音の速さが大体340m/sだから166で割ると大体2m。つまり蜂の羽音の音の波の周期的長さが2mになるわけ』
『ほぅぅ、そういう仕組みなんだね、周波数とか波長とかって。初めて知ったかも?』
メモ書きもなく、口頭のみで説明されるものを理解することは、なかなか難しいものだが、比較的わかりやすい数値で説明したため、理解はすんなりと進んだようだ。
『そう。凄いよね。それでね、今のように硬いパイプの中で振動させると、音は波として進むんだけど、端に行くと跳ね返ってくるでしょ?』
『うん、そうだよね』
『すると跳ね返った波ってどうなると思う?』
『……あ! わかった! 共振だね、これ。波長と空間の距離が一致するなら、波は綺麗に重なって振幅はどんどん増えていく……』
この辺りの理解はなかなか難しいところがあるが、基礎的な考え方が養われつつあるイルは、理解も早いようだ。
『当ったりぃ。波長と距離がズレていると、波が重ならないから共振にはならなくて、少しずつ波がズレていくと、合成される振幅の高い位置もどんどんズレていく。その高い振幅位置はその震えを触って感じ取れば、反対にズレていかないように長さを合わせることで波長と一致する長さに調整できるって寸法ね。微妙にズレている状況って、高い振幅位置がジワジワと移動していくみたいになるから、それを逃さないように長さを調整していく感じかな? まぁパパから教わったんだけどね』
『すっごいんだね。これが物理かぁ』
マコトの説明に、イルは物理の妙を感じ取ったようだ。そんなイルの姿を見たマコトの頰は綻ぶ。そうして作業を再開すべくイルへの指示を伝える。
『そうだね。うん、よし、長さはこんな感じかな? じゃあ、イル? さっき渡した真空状態のダイナビーもどき2個を同じくらいの回転数、重さ? で回転を装填してくれる?』
『わかった。任せて!』
『うん。お願いね、イル』
そうしているところに、進行方向前方のヘリがキラリと光ったのを感じ取るマコト。
『ちょ、みんな、頭を低くして! また撃ってきたかも?』
そう言いながら、マコトは改めて前面にシールドを追加する。
『わかった』
『了解よ。』
その直後、遅れて発射音、続いてシールドを掠める音、遅れて、またも後方のV国ヘリの腹部に抱えるポッドを揺らしたようだ。
ドシュッ……チッ………………ガシュッ……
『みんな大丈夫?』
『うん、平気』
『わたしもレイラさんも大丈夫よ』
『了解。良かった。でもやっぱり撃ってきやがったね。ただ、わかっていれば恐るるに足らずだけど、やっぱり赦せない所業だね。あと少しだから待ってろよー』
前回同様、被害はなかったが、またもV国ヘリへと流れ弾が向かい、またまたポッドに突き刺さる。その衝撃は内部にいる動物を再び脅かす。暫くの間、ポッドは小刻みな揺れを見せていた。
『よし! 急ごう』




