↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
173/220

甘酸っぱい感性 〜 暗躍のうねり xliij

 マコトの魔力注入により、死の崖っぷちからぎりぎり間に合い一命を取り戻すレイラだが、そのレイラの、とある疑問に答えるために、ソフィアはその一連のやり方を紐解く必要があった。


  〈あ、マコちゃの施術とはね、キス。唇を合わせて、舌を絡める必要があったのね……〉


  〈え! ききき、キス? オレのファーストキス!〉


 強面(こわもて)のレイラだが、武を極めた分だけ、百戦錬磨な逞(たくま)しい経験を経た剛胆な性格と捉えられやすいのか、ある一線を踏み越えて近付く強者(つわもの)はこれまで現れなかったらしい。しかし、その実(じつ)、レイラの内面はとびっきりの純粋さを秘める乙女だった。


----

 レイラの物心が着き始めた幼少の頃、その村は、周囲に武で名を馳せる戦闘系民族を主体に、次いで気功を纏い病(やまい)を祓う特殊な能力を秘める民族と、それらの庇護を受けながら暮らしのアレコレを賄う人々により、それぞれが補いうまく機能しあいながらこの村の人々は、古(いにしえ)からの永き時を巧みに生き抜いてきた。


 気功を纏う民族は、その血筋による才能に大きく依存するため、それ以外のものが志そうとも、その力を育むことはほとんど叶わなかったことから、羨望の眼差しを浴びながらも、少数となるこの民族は、やっかみを受ける場面も時折見られる特殊な立ち位置にあった。


 独自医療により村を支えてきた背景からも、年嵩の大人たちは重宝する態度を示し、その特殊性にさまざまな便宜が払われる。しかし、理屈よりも感情が先に立つ子どもや若い世代には、どうしても疎まれる場面も多く、自ずと特殊な人間関係が形成されるのが常だった。レイラはこの気功を纏う民族の子どもとして生を受ける。


 特殊な力を持たない、一般の多くの村人は、鍛錬次第で強く、ゆくゆくは戦功を立てられる武闘派の武人へとなれることから、人気も高く自然に多数派を成していた。この武術は圧倒的な強さを誇り、賢く人格者でもある村長が手解きすることで、皆が切磋琢磨する輪が実によく機能していたため、その門下にある者同士、意見交換や拳を交える機会も数多くあった。そんな日常から個人同士の交流も盛んに行われ、そこには当然、男女の恋愛事情も溶け込むように自然に営まれる。


 この武闘派の子どもで、見目もよく、才能溢れ、気さくなサクという男の子がその才を表し始める。サクはレイラと幼馴染だ。歳はレイラの2つ上で、レイラを妹のように可愛がってきた。子ども世代では、気功派のレイラをやっかむ輩がちょっかいを出してくるのだが、いつもサクが守り励ましてくれた。レイラは口下手で気持ちを表に表したりはしないが、そんなサクに心を寄せるのもまた自然な流れだった。


 月日が流れ、武闘派の中から、誰もが瞳を奪われる、強く美しき少女が頭角を現し始める。外国から迎え入れられた栗色の髪、碧眼の美しき母を持ち、髪色の違いからイジメられ、幼少の頃は馴染めずにいたが、武術の学び舎に共に通う同じ年のサクは、レイラと同じように守り励ます。その少女の名はミレイ。年を重ねるごとに美しさは増していき、サクと共に励む武術でも次第に力を付けていき、同世代の中で、サクと1、2を争う武術者となっていった。


 同じ武闘派の仲間であることから、日々の会話も多く濃密に交わしていけば、ミレイはそんなサクに心を寄せ、日ごとに美しくなるミレイにサクも心を奪われていくのも、誰もが思う必定な流れだった。


 ミレイは話術も日々うまくなっていく。よく気が付き、会話も弾み、武術も強く近しいことから武の会話も深い討論となり、おまけに声が可愛らしく見目がなんとも言えない妖艶さを纏う、そんなミレイはサクの心のなかでどんどん大きな存在となっていった。


 武闘派の内部でのそんな経緯(いきさつ)の細部は不明でも、いつしかサクとミレイのただならぬ噂を周りから伝え聞くレイラ。自らが思いを寄せるサクはいつも通りに接してくれる。可愛がってくれる。しかし、ミレイの話が飛び出すと途端に顔の表情に艶がかかるような変化、それを目の当たりにすれば、サクの心がミレイを向かっていることはレイラの目にも明らかだった。


 当時のレイラも、その容姿は類稀なる可愛らしさを持っていた。だが、少女の美しさが花開く時機はもう少し先だったため、このときのレイラは美しさでミレイには敵わない、そんな状況だった。


 レイラはサクに不意に尋ねる。ミレイのどこが良いのかと。すると、唐突に質問されたサクは、恥ずかしかったからか、ミレイの美しさよりも前に、武術が強いからだと答え、ゴニョゴニョと美しさを付け足すが、このときレイラの脳裏には武術の強さという答えが刻まれ、それ以外は入ってこなかった。


 レイラは酷くショックを受ける。自らは気功派の中で気功に関わる修練を続け、武闘はまったくやってこなかった。美しさなど見目でも負けているかもとは考えるが、それは先に花開いただけで、もう少ししたら自分だって負けてないとの思いもあった。何よりサクと一番近い位置にいたのは自分だ、との自負もあった。しかし、そんなレイラに対して、武術、その強さが理由だと返されれば、太刀打ちできるはずはなかった。


 それ以降、レイラは気功の修練を放り投げ、一心不乱に武術にのめり込む。すべてはサクの挙げる条件を満足させて、同じ土俵でその隣の立ち位置を獲得するためだけに。


 元々、武術の素養がなかったわけでは無いレイラは、みるみるとその実力を高めていく。その修練に向かうレイラの気迫は周りを寄せ付けぬほどの鬼気迫るものがあった。さらに武の技に無意識に気功と言う名のオーラを纏い、その破壊力は誰の追随も許さないほどの威力を発揮するほどになっていく。ちょうどレイラも乙女の花開く年頃になるが、オシャレや会話術などには見向きもせずに、武術に明け暮れた日々は、いつしかサクどころか、村中の誰もが敵わない、と吹聴される実力を備えるほどとなっていた。


 圧倒的な武の実力研鑽を重ねたと自他ともに認めるレイラは、再びサクに尋ねる。


 しかし、このときのサクは、自らを遥かに凌駕するレイラの武の実力を自然と震えを感じるほどに受け止めていたため、レイラはいつしかサク自身が守る対象ではなくなっていたこと、また、そこそこに強く自身の庇護欲をそそりながらも楽しい逢瀬を重ねてきたミレイとの日々がどうしても勝ってしまうこと、さらには、会話も上手く交わせないレイラに対し、畏怖の気持ちが芽生え始めていたことから、サクはミレイを選ぶことを告げる。


 レイラは再び衝撃を受ける。そのサクに寄せる真っ直ぐな思いと、自身に不足する「強さ」という答えに値する力量を備える自身となれることをひたすらに信じて、それを満たすための修練に明け暮れ、積み重ねた長き時間と努力で、この愛を勝ち取れるものと信じて疑わなかったからだ。


 レイラはその場に崩れるようにへたり込む。自分が何を信じてよいのかさえわからなくなっていた。


 そんなとき、突然V国の強力な地上武装兵団が強襲する。V国の超能力研究所が異能を操る一族にかねてから目を着けていたこともあるが、この一族の武闘派の力にも一目置いていたため、V国にとっては、二重の目標を一挙に獲得できるおいしい作戦でもあった。


 しかし、虚を突いた見事な急襲であったにも拘らず、武闘派を擁する一族ゆえにそう簡単にコトは運ばない。無傷で確保したいV国の思惑とは裏腹に、バラバラになりながらも個の武に長けた武闘派たちは、圧倒的な武装兵力の前でも隠れては突然現れ個々に撃破していく。銃火器を擁するV国歩兵は攻めあぐねる状況だった。


 ところが、遅れて到着した2両の戦車が加わると状況は一変する。如何に武の達人でも鉄の塊は壊せない。一度(ひとたび)火を噴けば着弾点は建物も人も構わず無情にも吹き飛ぶだけだった。


 そんな中、茫然自失のレイラは、抵抗することなく連れ去られようとする。


 それを見て、周りの制止を振り払い、サクが飛び出る。ただ、単一の戦闘ならば敵を圧倒できても、仲間を救う意志を見せた以上、攻め方は予測が付けやすいため、サクにとっては圧倒的に不利な状況となる。数多の弾幕を潜り抜け接近するが、近付くほどに集中砲火は浴びせられやすく、そのうちの一発に足を撃たれてサクは倒れる。


 その姿を見たレイラは猛り狂う。激情の咆哮を上げると、レイラは全身にオーラを纏い、前線に並び立つ敵兵3人に一瞬で間合いを詰め、横殴りに一発の拳で殴り倒した後、戦車の砲身に渾身の一打をお見舞いする。


 生身の拳でどうにかなる戦車の砲身ではないが、レイラの怒り狂うオーラに包まれた一撃は砲身をも僅かにへし曲げる。銃でも戦車でも弾を放つものは僅かな変形で使い物にならなくなるものだ。レイラはサクとその他の一族の者に、逃げろ! と声を上げながら、もう1両の戦車の砲身もへし曲げる。コレにはV国指揮官は驚愕し、他の者は捨て置き、レイラに全戦力を集中することを決める。


 しかし、V国側兵団にもこの後に続く人員と戦車はあるものの、この怪物のような怪力女を制圧することは難しいようで、体勢を立て直しつつもまたまた攻めあぐねる状況が続く。


 ところが、レイラは一族の者が充分に避難できていることを確認すると、突然両手を挙げ、これ以上の戦闘の意思がないこと、話し合いがしたい意図を告げる。すると、V国指揮官は、レイラ一人でも予想を遥かに超える収穫であることから、話し合いに応じることにする。


 レイラは自分一人が投降するから、後は見逃せという趣旨の意志を告げると、V国指揮官も了承し、兵団は撤退を決める。


 そうして、V国兵団は自国に戻り、レイラは超能力研究所で1ヶ月ほどデータ取りとなるが、後は本人の意向により、戦闘要員として部隊に配属されることになる。


 そこからは超実力・武闘派として、各種前線に配備され、桁違いの武功を上げ、V国に帰化することでさらにV国内での立ち位置は段々と上がっていき、異例の大出世を遂げ今に至る。


 今もそうだが、時折、この故郷での日々を懐かしみ、報われてはいないが一族と共に思い人を救えたこと、その当人、サクを思い出しては甘酸っぱい思い出に浸るレイラだった。

----


 甘く切ない思いを大切に仕舞い込み、故郷に置いてきたレイラだからこそ、そして任務を帯びて苛烈な闘いに身を置き続けてきたからこそ、その一歩先へと進む機会に恵まれることなく、時折、哀愁を漂わせる大人で強面(こわもて)な武人が形成されていたことはV国内では誰も知らないことだった。


  〈いや、今さらそんなことを気にする年でもないが、初めてはもっと、その……いや、忘れてくれ、この年にもなってキスの経験もないなど、かえって恥ずかしい話だな〉


 一般的な青春といえる時期を既に越えた世代のレイラは、放つ言葉に哀愁を滲ませる。しかし、そんな表情とは裏腹に、心の内では、キスがどうのといった些細なところに拘って止まない、甘酸っぱい感性を秘めていたのだった。


 さらに重ねた歳の分だけ、それを捌(は)け口へと誘(いざな)う、自身の心を納得させる言い訳術もまた高みへと向かう。この場合は、性別や世代の曖昧ゾーンに対して、解釈の仕方次第では心の安寧が得られるというものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。