触れちゃうね 〜 暗躍のうねり xl
マコトの大切な家族に粉を掛けて来た敵に対して、如何に懲らしめてやるかの思考がマコトの心を強く揺さぶる。そんな心の内を後押しするようなジンの言葉を受け、高い声だがいつもよりも低く落ち着いたトーン、やや凄みを押し殺したような声質でマコトは返事する。
『アイ、サー! 逆襲のターンだね!』
―― お仕置きの時間……さぁ、行くよ!
一転、イルに向き直り、マコトはいつものように声を掛ける。
『じゃあイル? さっきの回転体を解いて、まずはママのところに向かおう』
そう言いながら、マコトはそそくさとソフィアのいるところの下側、回転構造体の軸部分に移動するよう行動を開始する。
マコトの言に対し、いつもと変わらない言葉と口調なのにと、どこか迫力のある語気を感じるイルは、マコトから目を離すことなく、小さく返す。
『うん。わかった』
マコトは次に行うことを思い浮かべながら、ふと思い出したことをイルに投げる。
『あ、そうそう。ハンカチくらいの大きさでガラスを磨けそうな布作れない? 柔らかめと硬めの二種類』
『作れるよ』
二つ返事で返してくれるイルの可能の意を受け、マコトは嬉しそうに作成を依頼する。
それと同時並行で、マコトは、まだ微速で回る回転構造体の4本の棒を同時にゆっくりと縮めていく。微速でやや垂れ下がっていた棒の回転体は、徐々に回転を増し、同時に水平付近まで跳ね上がる。更に棒を短く1mほどに縮めていくと超高速回転体となるが、いずれ止まっても短い棒が4本垂れ下がる程度だから、このままで問題なさそうだと判断し、小さな回転体のままで作業は終了させるようだ。急いでいることと、ただ面倒くさかっただけのようだが。
『お! じゃあ大至急お願いね。何をどう作るかは今考え中なんだ。グフフフ』
『う……なんかまた一段と凄いのができそうね?』
『な、なんで? それにその、確信に満ちたような顔に見えるのもどうしてかな~?』
マコトの喜ぶ顔を見るのはイルにとっても嬉しいことだった。そのうえで、いつもよりも嬉しそう、というよりやや怪しげな雰囲気を感じたイルは、これから作るであろう何かが凄いものとなりそうな予感と黒っぽい怪しさから芽生える独特感でそれを告げた形だが、マコトもイルのそんな表情はいつもと異なることから敢えて突っ込んだ形だ。
『だってマコちゃん、凄い悪いこと考えてるような顔で、それなのに楽しそうなんだもん』
マコト自身、やましいわけでは無いが、今お仕置きをすべく、どういたぶろうかと、ちょっとだけ悪めな自身の姿を自覚していたため、なんとなく取り繕いたい衝動に駆られるのだった。
『う! そそ、そんなことないよ? ……グェヘ、ゲフンゴホン……じゅ、じゅ、じゅ、純真無垢なマコに向かってな、なんてことを!』
『ふふっ、そうよね? いつも見た目だけなら妖精か天使か? みたいにウットリしちゃえるマコちゃんなんだもん? だけど今は……髪も黒いけれど、中身もなかなか……負けてないかも? ふふっ? さながら漆黒の天使 といったところかな?』
イルもなんとなくな感情でそれを感じ取っていたことから、またもネーミングして返す。
『えーー! 酷ぉい! マコはそんなに黒そう? 漆黒の天使だなんて……でも、まぁ、それも悪くないか? 今はお灸をすえてあげなきゃだもんね。タップリとね? グフッ。どうしてあげよっか? グフフフ』
そんな会話を交わしながら、マコトとイルはソフィアのいるところに到着する。
『ママーっ、着いたよ』
『良かったぁ、来てくれたのね。早速レイラさんへの魔力注入をお願いしたいのだけれど、大丈夫? 少し休んでからにする? ヤバい状況には違いないけれど、今は少しだけ落ち着いているから、少しくらいならたぶん大丈夫よ?』
時を急くレイラの状況ではあるが、大仕事を今こなしてきたばかりのマコトのはずで、一呼吸入れてからで大丈夫と、ソフィアは気遣いを見せる。が、マコトは大丈夫な旨を返す。
『あ、うん。マコは大して疲れてないし、ヤツラは何をしでかしてくるかわからない連中だから、一瞬の遅れが命取りになるかも。だからすぐにやるよ』
そんなマコトの心遣いを母として嬉しく思うソフィアは、ニコニコしながら話を進める。
『そうよね。事態は一刻を争うかもしれないわよね? 助かるわぁ。じゃあお願いね。何か必要なことがあれば指示して頂戴ね?』
『あ! 楽な体勢にする意味もあるけれど、マコとの接触面積が多いほうが良い気がするから、レイラのオバちゃんの上半身、ボタンを外して……脱がさなくていいけど、ブラだけ外してくれる?』
そう言いながら、マコトもステルスポンチョやいくつかの装備を外して、服を脱ぎ始めていた。身体の根幹機能回復のための魔力注入にはできるだけ多くの肌接触が欠かせないことをイルの母、ケインのときに見て知っていたからだ。
『了解! そうね……ジンのときも接触面積が重要だったものね。わかったわ。それにこの場所、チヌークからも、V国ヘリからも、もしかすると敵さんからも視えてしまうかもしれないわね。レイラさんの乙女は護ってあげなきゃだね』
マコトのことを見ずに眼の前のレイラの仕度に掛かりきりだったソフィアはレイラの乙女保護を語っていたが、そうするうちに裸になりかけていたマコトはソフィアの言葉から慌てて周囲の状況に気が回り、脱ぎかけていた服を慌てて着込み始める。
『え? あれ? ここってそんなに観られちゃうところなの? や、ヤバいヤバい……マコ、裸になるところだったよ。そうだよね。シールドである程度は隠されているとはいえ、狙撃されそうな場所なんだもんね。どこで誰が覗いているかわからないよね?』
『あら? マコちゃは脱ぎ始めていたのね? 気付かなかったわ……そうよぉ。まだ幼いとはいえ、マコちゃも乙女としてのこれからの歩みに傷を付けないようにしないと』
慌てて服を直すマコトは火照るほどに真っ赤な顔をして顔を扇いでいた。
『そうだよね〜。あ! 念のため、ステルスシートでも囲っとくかぁ』
そこで自身の作ったステルスシートを思い出して、取り出し広げる。
『それなら、イルとソフィーでステルスシートを張りながら囲もうよ。端はイルがササッと縫っちゃうね?』
『それいいわね。じゃあお願いね? イルちゃ?』
『うん。任せて!』
ササッと手直しをしたステルスシートをイルはみんなが隠れるように被せる。
『じゃあ、始めるけど、どひゃぁー、レイラのオバちゃん、遠目ではわからなかったけど、すっごい美人。それにオッパイもひょえー。勝手に見ちゃってゴメン。でも羨ましい限りのナイスバディだね。ママの癒しで、鍛えられた筋肉以上に、グッと引き締まった感じがあるし、なんか随分若返った感じだから、オバちゃんとはもう言えないかな〜、あははは』
『そうねー。元が引き締まっていたし、アチコチの古傷も治せたから、圧倒的なスタイル美人かもね。惚れ惚れするくらいよね? それに今は緊急事態。わたしたちも女なんだし大丈夫よ?』
キチンと隠せたことで、その中でレイラの上半身をやや露わにしたところ、その肢体の美しさ・豊満さに驚きを零すマコトたち。どうやらソフィアの癒しで古傷まで直された上にさらに引き締められたらしい肢体に皆が釘付けとなるようだ。
『ホントホント。こんな可憐な美人さんなのに、かなりの武の達人っぽいから、後で暴れられたらちょっと厄介かもだけど、今はそんなこと言ってられないから、始めるね。レイラのオネーサン。緊急事態だから触れちゃうけどゴメンね? じゃ、いくよ?』
『うん、マコちゃ、いっちゃって!』
マコトは、身体を治すためには欠かせない、唇や身体の接触があることを意識のないレイラにひとまず詫びておくようだ。いよいよマコトの初施術が始まる。




